ITOI
ダーリンコラム

<電気の惑星>


たまに、ぼくが考えるパターンがある。
それは、「これを宇宙人が見たら、どう思うか」という
冗談みたいな仮定の遊びだ。

けっこう、難しいので、考えはじめても
途中であきらめてしまう場合もある。
たとえば、仮に、ここにニワトリのタマゴがあるとする。
これ、あなたは子供のころから、
ニワトリという鳥が産んだタマゴで、
それは孵化してニワトリになる可能性もあるけれど、
一般的にぼくらは食品として見ている。
ってなことを、すでに知っているから、
「あ、タマゴね」と片づけてしまう。
たぶん、日本以外の国、地域に住んでいる人間でも、
タマゴについてはだいたい理解していることだろう。
いや、人間以外の動物だって、
タマゴのことならわかっていそうだ。

だけど、宇宙人は、わかるとはかぎらない。
彼のいた星には、タマゴを産む生物がいないかもしれない。
どうやってタマゴを説明すればいいのだろう。
広辞苑を調べてみたら、こんなふうに記してあった。
『鳥・虫・魚などの雌の生殖細胞で、
 外面に殻または膜を有し、発育して幼動物となるもの』
いやいや、たいしたものだ、さすが辞書だ。
ぼくら地球人は、これでもう十分だ。
しかし、宇宙人は「鳥」「魚」「虫」も
わからないかもしれないのだ。
「生殖」のほうが、かえって理解できるかもしれない。
そのくらい、宇宙人はなんにもわかってないかもしれない。
まったく別の環境にいたのだから、無理もないよ宇宙人。

ま、タマゴについてずっと説明してるのも疲れるので、
本題に入ろうと思うんだけど。

実は、本題といっても、すっごく短いんです。
前々から、宇宙人の立場で周囲を見渡してるとさぁ、
地球人って、あまりにもなんでもかんでも
電気にたよってないか?
ってことだけなんです。
いま、これを読んでることだって、
電気つなげないと無理だしね。

もう、さー、地球はコンセントだらけの電気だらけ。
おそらく、宇宙人が見たら、
人間たちの命の正体は「電気」だと想像するんじゃないかね。
人間の行動の原理を「経済」で説明したがる人は多いけど、
いやいや、宇宙人から見たら、
「人間は電気で生きている」って見えるかもしれないよ。
光・水・火・土・木・金の次に、電気が使われはじめてから、
とにかく何もかもが「電気主義」になってるように思う。
いや、実感としてはないよ、ぼくらも。
でも、実感として感じられないくらい
「電気暮らし」が、当たり前になっちまってるってことだ。
そんな宇宙人の目で見てごらんなさいよ、
すごいよ、ぼくらの惑星の「電気三昧」ってものは。

このへんのこと、どう説明する? 宇宙人に。

2002-07-08-MON

BACK
戻る