ITOI
ダーリンコラム

<ナニ考えてるんだかこの人は>

このところ、のんびりしたことを書きたい雰囲気で、
今日も、そういう調子でぼちぼちやってみます。

「女房リアリズム」という言葉があるらしくて。
どうやら、昔の文芸評論家が発明した造語らしいんだけど、
それを言いだしたのが誰だったかは忘れてしまった。

うまい言い方だなぁと思う。
読んだとおりの意味であると思う。
外で大言壮語している夫の、ろくでもない面を、
女房はだいたい知っているのである。
「おおげさなことを言ってるけど、たいしたこたぁない」
高をくくられているわけだ、たいていの夫は。

夫が外で立派なことを言い、
家のなかでも女房に「立派だわぁ」なんて
尊敬されていたとしたら、それは気持ちが悪い。
それは、同志とかいう関係ならありそうだけど、
でもねぇ、油断があってはじめて家庭ってもんでしょう。

きっと歴史的名僧やら偉人やらにしても、
「女房リアリズム」の視点で見たら、
ただの「とーちゃん」だったんだと思いたい。
腹を下したときとかに、
放屁のついでにもう少し出てしまった偉人がいても、
それは偉人であることにはかわりはない。
そのパンツを「ったくもう」と洗う人から見たら、
『宇宙の真理とは』なんて説教も、
別の聞こえ方をするにちがいない。

同じように、「亭主リアリズム」というものもありそうで。
バリバリに最新モードを着こなした妻の、
どうしょうもない部分を、夫のほうも知っている。
だからといって、やっぱり、
オシャレな奥さんがオシャレな奥さんであることに、
訂正の必要もないはずだ。

家庭というのは、油断できる場所でもあり、
そうかといって、油断してばかりもしていられない場所だ。
ここは締めなきゃってところも、
やっぱりあるわけだからさ。
そのへんの呼吸みたいなもの、どこの家でも、
そこの家独自の工夫でやっているんだろうねぇ。

自分のことで言いますと、
ぼくが家にいていい冗談とかいい企画とか思いついて、
他に誰もいないから奥さんにプレゼンテーションしますと、
「ナニ考えてるんだかこの人は」と、
だいたいは、言われます。
そこでめげずに、「ほぼ日」で発表したりすると、
ちゃんとウケたりもするわけです。
これが逆に「その考えはすばらしいわ!」なんて、
ふだんから家で言われていたりしたら、
ぼくは、きっとどんどん自信を失っていくことでしょう。
なんなんだろ、このあたりの加減って。

たぶん、所帯持ちの読者ならわかると思うんだけど。

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2002-02-25-MON

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