ITOI
ダーリンコラム

地球はいつごろ消滅するんでしょう? という、
天文学者のひとへの質問の答えがなかなか返ってこないので、
それを待ってる間、別の話をしていましょう。

想像力のことでも書こうかな。
ぼくの、処女出版本は「スナック芸大全」
という遊びの本だった。
こういう本があったら面白いよね、
と出版社の人と話していたら
「それ、じぶんで書きませんか?」と言われて、
急いで書いたという覚えがある。

ほんとうは、スナック(死語だなぁ)でやると
受けそうな
ちょっとした遊びを集めてまとめた本なのだが、
ネタが足りなくなって、
ずいぶんたくさんデタラメなことを考えて水増ししたものだ。

そのなかに、「想像力の限界」とか
ネーミングした遊びがあった。

まず、声を出さずに、ドレミファソラシドと、
音階をイメージしてみる。
流行の「絶対音感」なんか気にしなくていい。
どんなにデタラメな高さで始めてもいいのだ。
高いほうのドまで想像したら、
そのままレミファ・・・と続けていく。
1オクターブ高い音階を想像しているわけだ。
実際に音階を歌っていたら、
3オクターブくらいで声が出なくなってしまうだろうが、
想像だけだから、いくらでも出そうだ。

ドレミファソラシドレミファソラシド
レミファソラシドレミファソラシドレミファ・・・・・
こうして、音階をくりかえし想像して、
どんどん高いおとをアタマのなかで歌い続ける。
理屈では、前の音との関係で次の音の高さが決まるはずだから、
いくらでも高い音を想像できそうなものである。
しかし、これは、できないのだ。

いつの間にか、想像だけの音が、
ある程度の音階より高くなれなくなってしまうのである。

アタマのなかで、想像力だけを使って、
超音波のようなキーーーンという
音を疑似体験したかったのに、それはかなわなかったのである。

ぼくは、なーんだ、と思った。当時、ね。
想像力は、無限じゃないんだ、と、すこしがっかりした。
じぶんの身体の感覚からしか、
想像ってやつも離陸することはできない。
そんな感じを確かめるのは、けっこうおもしろい遊びになる。

きのうとおとといの、
時間の古び具合を、ぼくらは感じている。
そして、その感覚を、かなりリアルなものだと信じている。
しかし、34日前と37日まえの遠い感じの違いを、
たしかに感じられる人がどれくらいいるだろうか。
もっと、おおざっぱに言ってもいい。
100万年前と、2億年前のふたつの過去の、ちがいを、
「わかる」人なんているのだろうか?

100人の死者をだした災害と、
1万人の死者をだした大惨事のちがいなんて、
ぼくらは、ほんとうにわかるのか?

おそらく、ぼくは、
ほとんどのことを「わからない」でいる。
これをいま読んでいるあなたが、いまなにを感じているかも
ぜーんぜん、わっかりましぇーん。

1998-08-13-THU

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