ITOI
ダーリンコラム

<コンピュータをよく理解してない人々>

女性のインターネットへの参加が、
目を見張るほど増えてきたということだ。
そういうテーマの雑誌取材を受けて知った。

「半年くらい前だと、このテーマでの特集は、
成り立たなかったと思うんですよ」と、
編集者の女性が、驚いたように言ってたのが興味深かった。
急激に女性が増えているらしい。

生意気な言い方のようだが、
そうなることはわかっていた。
しかし、そんなにすぐに「そうなる」とは思ってなかった。
「ほぼ日」が初めて世の中に出ていったのが、
去年の6月6日だから、
そのころから、インターネットの世界の大変化が、
スタートしていたのだろう。

これから、コンピュータが増えていくことはあっても、
減ることは考えられないし、
そのときに新しい「使い手」が増えていくことも
当たり前のことなんだから、
いままでの「市場」が変化しないわけはない。

コンピュータやらインターネットというものを、
「よく理解している人たち」の市場は、
「買い換え需要」のための「秒進時歩」をくりかえして、
煮詰まってきているところだった。
しかし「よく理解してない人」たちだって、いずれは
コンピュータもインターネットも使うのだし、
いまはそっちの人口のほうが多いのだから、
「いつか」は「いつか」はじまるに決まっていた。

ぼくは、そういう確信があったから、
「ほぼ日刊イトイ新聞」という、
「よく理解してない人々」が作って、
「よく理解してない人々」が読む場所をつくろうと思った。
「よく理解している人」は手伝ってくれたり、
微笑んで見ていてくれたらいい。
そのくらいの気持ちだった。

実際に、「ほぼ日」に届く読者メールの8割は女性で、
しかも、どちらかといえば
「よく理解してない人々」集団に属する人が大半だ。
ほんとに、日本中のあらゆる地方から(たまに外国もね)、
実にいろんな人が声をかけてくれる。
「ほぼ日」を読むためにパソコンはじめましたとか、
「ほぼ日」のおかげで
インターネットをやめないですみましたとか言われて、
そりゃぁ悪い気はしない。
その気持ちは、ぼく自身の気持ちに重なるから特にだ。

「よく理解してない人々」とは、
アホな人々のことではない。
それじゃ、自分もアホだってことになっちゃうし、さ。
コンピュータや、インターネットや、デジタルを、
よく理解していないだけで、
「その他」の知恵は、それぞれがいっぱい持っている。
この「その他」の活躍する場所が、
これからいっぱいできるとおもしろいなぁと、
ぼくは期待しているのだ。

昨日はじめてメールを打ったというひとでも、
毎日コトバをつかって生活しているし、考えている。
その意味では、
コンピュータに詳しい「世間の狭い人」よりも、
ずっと先輩だと思うのだ。

半年前、どうすれば人気ページになるかを
教えてくれる人はいっぱいいた。
インターネット人口のほとんどは、
理科系のコンピュータを職業として使っている人たちだから
その人たちがよろこぶようなコンテンツをつくればいいと、
アドバイスしてくれたわけだ。
それはそれで、ひとつの方法だろう。
でも、ぼく自身が「わかっちゃいない」んだから、
無理なんだ。
しかも、それは、「その時現在」の方法にしかすぎないと、
ぼくは思った。
だから、悪いけれど助言はありがたくお聞きして、
まったくちがうことをしたつもりだ。
いままで、お客さんじゃないと思われていた人々に、
「ほぼ日」は親切をしたかった。
(だって、ぼく自身もスタッフも、そういう人だから)
カッコよく言えば、
ぼくらは、「次の時代にとっての明日」を、
いまつくりたかったのだと思う。

約8ヶ月の、まことに泥臭いがんばりのおかげで、
総アクセス数は、300万をとっくに突破している。
毎日3万とか5万とかのページビューのうち、
たぶん半分以上が、コンピュータを
「よく理解してない人々」なんだろうと想像している。

女性たち、こどもたち、老人たちが、
どっとこの世界に流入してくることは、
とてもいいことだと、ぼくは思う。
人が人とつながっていることを実感できると、
家から外に出にくい人々の生き方は、
ずっと豊かになるはずだ。
それは、自宅にいながら買い物ができて便利
とかいうことではなくて、
おおぜいの他者の、たくさんの思いや考えを、
自宅にいても知ることができるということによる。

ONLY IS NOT LONELY.
たったひとつであることは、孤独ではない。
もうじき、このコトバを表紙に持っていきます。
(英語としては正しくないらしいんだけどね)

1999-02-01-MON

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