だからからだ
だからからだ
谷川俊太郎と覚和歌子、詩とからだのお話。

第11回
青空フリーク。

谷川 覚さんは、詩を書くのとほとんど平行して、
歌いはじめてたんでしょう?
それとも歌のほうが先だったの?
歌のほうが先です。
子どものときに合唱隊に入って、
それがすごーく気持ちがよくて
高校まで続けてしまったんです。
そのころバンドもはじめて
結局ずっと歌ってるかんじなんですよ。
谷川 覚さんがソロで出したCDのタイトルを
はじめて聞いたとき、
ちょっとびっくりしたんだけど、
なんで「青空1号」なんですか?
極端に言うと、ですね、
朝に青空が見えているかどうかってことは、
私の生命に関わることだったりするんです。
谷川 へーえ!
目が覚めて、晴れていて、
青空が頭の上に広がっていると、
血圧の低い私は
とてもうれしいんです。
「ああ、今日1日、調子よくすごせる」と思って。
毎日とても調子がいい、というわけではないので、
ときどき調子がいいときには、
そのことをとっても謳歌したい、
深く深く味わいたいと思うわけです。

それから、私の作品には
しょっちゅう青空が出てくるんです。
極端に言うと、
出てこない詩はないくらいな頻度で。
空がないときは、青空の代替物としての
青い海ですね(笑)。
どちらかが詩に必ず出てくることを発見して、
それでつけたものなんです。
谷川 青空を意識したのは、いくつぐらいのとき?
けっこう早かったです。
1ケタの歳のときに、もう青空を見て、
涙ぐんでましたから。
そのときは、健康とかは関係ないですけど、
なんかね‥‥。
谷川 体調やなにやらは関係なく。
感動してるわけね?
感動してるんでしょうね。
でもそういうところ、
絶対、俊太郎さんにも、あったと思うな。
谷川 憶えてませんけど、あったと思うね。
ただ、1ケタの歳かどうかはね。
‥‥でも、そう言えば
朝の光に感動したことはあったな。
「ニセアカシアの木にお日さまがあたって、
 喜怒哀楽とはちがう感動を覚えた」
って、書いたことがある。
あれは、小学校の3年生ぐらいのときだから、
もしかしたら1ケタかもしれませんね。



でもね、覚さんのCDが「青空1号」という
タイトルになると聞いてから、
なんとなく自分の資料を調べてみたら、
「青空」の出てくる詩が、
ものすごく多いんです。
ああ。でしょう!
谷川 もしかしたらこれは、ひとりっ子の
特徴なのかもしれない。
ひとりっ子は、親兄弟に対面する前に
青空と対面してしまうのかな。
じつは、しょっちゅう
「青空1号」の名前の由来を訊かれるので、
ちょっと自分の心の深いところに
訊いてみたんですけど、やっぱりね、
青空から自分が
「やって来た」

っていうかんじがあるからだと思う。
谷川 僕は、20歳ぐらいのときに、
こういうふうに書いてるんです。

空の青さをみつめていると
私に帰るところがあるような気がする
あ。これ、詩集のタイトルにもなってますよね。
谷川 うん。
この感覚は、そうとう若いころからあるんです。
でも、今のほうがもっと
それに対して裏打ちができたと思う。
このころはまだちょっと
「頭」で言ってたかもしれない。
あるいは、ただ青空に
感動しただけだったのかもしれない。
今は、もうちょっと、
ほら、なにしろ、
そこへ帰るかもしれない年齢に
なりつつあるわけだから。
俊太郎さんがそれを言うと、
リアル。
谷川 ふっふっふ。
ただ、僕は、空に対しては
アンビバレントなかんじが
ありましたね。
ふるさとだろうと思うのと同時に、
若いころに考えていたことは、これなんですよ。

空の青いところへたどり着くと
きつと誰もいない
あれは恵み深い嘘なのだ
このかんじ、よくわかります。
私、ちょっと鬱っぽくなった時期があって、
その時期に青空というものに対して、
一体感がなくなったんです。
すごく苦しいものだったんですよ。
青空に負けてるっていう、
この青空と立ち向かえない、というような。
谷川 僕にとっては、青い表面が
何かを隠してるという感覚があったんですよ。

昼には青空が嘘をつく
夜がほんとうのことを呟く間私たちは眠つている
朝になるとみんな夢をみたという
うん、そう、嘘をつくというかんじ。
谷川 夜の、星がいっぱいあるのが
ほんとの宇宙の姿であって、
それはほとんど虚無みたいな、
人間は住めないとこだって思ってたわけです。
今は僕は、そう思わないんだけど、
若いころはそう思ってた。

でも朝になると青空が
きれいな青で隠してくれるみたいな、
そういう感覚があったんだよ。
で、私が最後に、成熟してから辿り着いた
青空の定義はこれです。
いろはかるたの「あ」に刷るための言葉で
こんなものを書きました。

あ   青空は飽きがこない
── す、すごい!
谷川 永遠の真理でしょ?
うん、そのとおり。
谷川 なんだか青空って、
有限の人間の肉体に対して、
永久にそこにあるもののような気がします。
人間って、そういうものと戦って
生きていくみたいな意識が
特に若いころの僕にはありました。
ときどき、そういう青空の青さが、
自分にとって痛いんだけど、
青空自体も痛んでいることを感じるときが
ありましたよ。
谷川 うん。僕なんか、
擬人化して書いてること、あるもんね。
空はなんでひとりで暮れていってしまうのか、と。

ぼくらの生きている間
街でまた村で海で
空は何故
ひとりで暮れていつてしまうのか
── 怒ってますね、空に対して。
待ってくれよ、ってね。
谷川 ところで、覚さんは
宇宙へ行きたいと思います?
何千万円か出せば、
行けるようになるんでしょう?
機会があればそれは、
ぜったいに行きたい。
谷川 うーん、船酔いしそう。宇宙酔いがこわい。
でも、宇宙飛行士の訓練だって、
何年もかけてやるぐらいだから
そんな簡単には行けないよね。
── おそらく、そんなに深い宇宙までは行かなくて、
宇宙ステーションぐらいまで行って、
帰ってくるんじゃないでしょうか。
谷川 でも、船酔い以外は、
以前よりはこわくなくなりました。
── 宇宙がこわかったですか?
谷川 うん。宇宙は真空だと思い込んでたから。
なんにもないと思ってた。
でも、今はそうは思わないです。
もちろん物理的にも
波動があるだろうし、
測定できないような微粒子みたいなものも
いっぱいあるだろうけども、
そういう物理的なことだけじゃなくて、
宇宙がからっぽだとは思えなくなりました。
── 虚無じゃない。
谷川 虚無じゃない。
もうすごく、
満ち満ちている。
なんだか、自分はそこに参加するだけだ、
みたいなさ。
だから、そこへ
「帰れる」みたいな感覚がある。
── きっとさみしくないですね、死んでも。
空も青いし。
空は青でよかったよね。
谷川 と、思いますねぇ(しみじみ)。
それでいて、ときどき夕焼けでさ、
すばらしい色になるのは、
すごい演出だよね。
プレゼントですよね。
谷川 ねぇ。
ほかの色の空を、例えば
一面の赤とか緑とか、
想像してみたりするんですけど。
谷川 SF映画でときどきあるけど、ぞっとするね。
池沢夏樹さんだったかなあ。昔、
青は憧れの色だから、青空というのは
手に入れようとする必要がないから楽だ、
って何かに書いてた。
憧れていればすむから、って。
そのかんじ、すごくよくわかった。
憧れていさえすればいいんだから、
気楽なんですよね。
── 確かに、手が届かなさすぎな色ですね。
‥‥そうか。
「空(くう)」は「空(そら)」なんだ。
── 色即是空の「空」!
「ゼロになるからだ」じゃなくて、
「くうになるからだ」。
「青ゼロ一号」。
谷川 ははははは。
すごい発見(笑)。

(つづきます!)

「青空1号」


sony music shopへ
詩作朗読家でありシンガーソングライターでもある
覚和歌子さんが昨年リリースしたソロCD。
覚さんが作詞した
映画「千と千尋の神隠し」の主題歌、
「いつも何度でも」も収録されています。
空や風や海をとおって届くような覚さんの声に
からだの扉が開かれる気分が味わえるアルバムです。

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2005-02-25-FRI

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