だからからだ
だからからだ
谷川俊太郎と覚和歌子、詩とからだのお話。

第5回
なぜ妻が怒ったのか、わからなかった。

さて、クイズですよ。
俊太郎さんは、いくつまで
お母さんと一緒にお風呂に入っていたでしょう?
谷川 ‥‥これはもう、言いたくないんだけど。
── 教えてください、教えてください。
谷川 結婚してから、
母と一緒に
お風呂に入り、
妻が怒ったって
いう話を、
そんなに聞きたい?
くっくっくっ。
── !! 大ショックです。
谷川 しかも、なんで妻が怒ったのか、
僕はわからなかったの。
── ああ、追討ち‥‥。
谷川 20歳くらいまで、
あまりにも習慣的に
母と一緒にお風呂に入っていたからね。
家族というのは、
それが当り前だと思ってたんです。
ほんとに、妻には申し訳ないことをしました。
あの、例えば
お母さんと、
背中の流しっこなんかをするわけですか?


谷川 しましたね。
── お風呂でお話とかも?
谷川 しょっちゅう話をしていた記憶があるね。
いちばん仲のいい友だちみたいなかんじでした。
外に友だちはいたけども、
何でも打ち明ける友だちなんかいなかったし。
お母さまには
何でも打ち明けられたんですか?
谷川 うん。とはいえ、やっぱり、
性的なことがらを話すのは、
すごく嫌でしたね。
それは私もすごく嫌だったな。
谷川 嫌だけど、向こうが訊いてくるから、
しかたなしに話してたんだよ。
たとえばどんなことを
訊いてくるんですか?
谷川 ‥‥これ、公開するわけ?
── この部分は、
お読みになっているみなさんの
ご想像におまかせましょう。
谷川 じゃあ、話すね。
★●×&$■×■△¥¥#
・★●#・△♪×■△¥★
●×■×@*■△¥¥#・★。
そういうことを、母親が
手紙に書いてきたりするの。
うわあ。
谷川 結婚してからも、
セックスについての心得みたいなものを、
手紙で書いてきたことがある。
── うへえ!
谷川 それはね、戦後まもなくベストセラーになった本、
波多野勤子の『少年期』の影響だと思う。
内容は、息子との往復書簡なんだけど、
うちの母はそれにかぶれたの。
息子と往復書簡をするのが、
すごくいいことだと思ったらしいんですよ。
「往復」ってことは、
俊太郎さんもお母さまに‥‥。
谷川 いやいや、書かなかったですよ。
でも、男の子は、高校生くらいになると
母親をバカにしたり、遠ざけたりしますよね。
ふつうはそうだ、という気がします。
谷川 やっぱりうちは
ちょっと異常だったんだな。
── 「うざったい」とか言い出しますし。
谷川 のちのち僕も
うざったくなったけどね。
それは、いつぐらいのときですか?
40過ぎてから、とか?
谷川 いくらなんでも‥‥(笑)。
あれは19のときだったかな。
日ごろから、母には
「何でも話すよ」って言ってたから、
最初の恋愛をしたときに
そのことを打ち明けたんです。
そしたら、
母が家出しちゃった。
── かさねがさね、
谷川母子はすごいですね。
谷川 ま、1日まるごと家をあけたわけじゃないけど、
何時間か、家出しちゃったんですよ。
「こういう人ができたよ!」って
よろこんで報告したのに。
一緒によろこんでもらえると
思ったわけですね。
谷川 そう。そしたら、家出。
それからですよ、
うざったくなってきたのは。
これは、自分から遠ざけなきゃいけないって、
はっきり思った。
私は、母親がいさえすれば
生きていけると中学1年くらいまで思ってました。
「ほかにだーれもいらない、
 お母さんがいちばん好き」
って、よく口に出して言ってた。
「お母さんが死んだら私も死ぬ」
とも言ってました。
谷川 (ふか〜くうなずく)
すごい、そっくり。
僕はキリスト教系の幼稚園に行ってたから、
夜寝る前にお祈りをしていたんです。
まず最初に
「お母さんが死にませんように」って言うの。
それから
「お父さんが死にませんように、
 どこどこのおじさんおばさんが
 死にませんように、
 家が火事になりませんように、
 地震になりませんように」
と、延々つづくんだけども(笑)。
でもトップは、いつもお母さんなんだよ。
これは前に河合隼雄さんと話したときに、
すごくおもしろかったことなんだけど、
河合さんは、子どものころ
自分が死ぬのがすごい恐かったんだって。
僕は自分が死ぬよりも
母親が死ぬほうが
ずっと恐かった。
私もそう。
谷川 でも、実際に母親が死んだときは
ほんとにどうってことなかった。
母親の存在って、大きかったなぁ。
だから僕はしみじみ思うんだけど、
女性に、母親的なものを
求めるようになっちゃったのが、
私の生涯の過ちです。
あ、や、ま、ち。
── はい(笑)。
谷川 でも、それは克服いたしました。
マザコンて克服できるものなのかなあ。
谷川 はい。60過ぎてから。
長いね(笑)。マザコンの、この長さ。

(つづきます!)


「青空1号」



詩作朗読家でありシンガーソングライターでもある
覚和歌子さんが昨年リリースしたソロCD。
覚さんが作詞した
映画「千と千尋の神隠し」の主題歌、
「いつも何度でも」も収録されています。
空や風や海をとおって届くような覚さんの声に
からだの扉が開かれる気分が味わえるアルバムです。

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2005-02-17-THU

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