COOK
調理場という戦場。「コート・ドール」の斉須政雄さんの仕事論。
最新の記事 2006/04/11
第4回 基本は、はずさない

無様な人は、堅牢です。
ありのままで仕事をしていると
目立ちませんけど、
そういう人のほうが強いんです。

洗練されていないけど、しぶとい。

打たれても打たれても、
夢だけは、はなさない。

その場をうまくきりぬけるために、
夢を手放して
ラクをしてということがないのです。

やられてもやられても、
そこだけは、はずさない。
そういう人が生きのこると思います。

夢をごまかさない人は、
一見、颯爽としては見えませんし、
おそらく周囲の評価も受けにくいでしょう。
しかし、
「主義主張は二の次だ。
 夢は後で取りにいけばいい」
という人には、夢はついていきません。

なにごとにも、
摂理というものがあるのです。
いつでも、
はずせないことがあるのです。
自然とまじわらなければならない
職業に就いているので、
その摂理を意識しています。

「焼いたら寝かす、熟すまで待つ」

たとえばこれは
生活にもつうじるもので、
どんなときにもはずせません。
ものごとは
人間の都合では熟してくれませんから。

おちついていれば
誰でもわかるこの摂理も、
修羅場でストレスがかかると
わからなくなるのです。
「やっちまえ!」となってしまう……

ですから、調理場のリーダーが
熱くならずに
基本を維持しなければいけません。

ぼくは自分に甘い人間でしたけど、
チームワークの経験を通して
人間形成までしてもらいました。
職業に生かされていると感じます。

「夢は、はなさない」
「基本は、はずさない」

これはむずかしく、
できる人は強いです。
日常は思いどおりにならないことばかりで、
しがらみやごちゃごちゃが加わると
心が萎えてくるのが常ですから。

ぼくも、じつは、
夢や基本からはずれたことは、あります。

しかし、
そのことで後悔が重なると、
どちらがいいのか、
おのずとわかるようになります。

「一度、よそみをしてしまうと、
 元の場所に戻るだけでも、
 前の何倍かの時間がかかる。
 いつまでも後悔しつづけるわけにはいかない」

打たれて、傷だらけ。
あせりや、くやしさで、おかしくなる。
それでも、夢は、はなさないほうがいいし、
基本も、はずさないほうがいいんです。

苦境をまきかえす人というのは、
あちこち気を散らせてはいません。
静かにおなじ場所にたたずんで、
よそみはしません。

基本をはずれると
手も頭も味もブレて、
そうなれば何も感じることができなくなります。
風邪をひいても味はつかめなくなるし、
動揺すれば
感覚はすぐにでも吹き飛んでしまいます。
突然の事故に耐える折れない心が必要なのです。

(次回に、つづきます)


斉須さんの言葉への感想を、おまちしています。
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