──

一度やめた空想地図を、
なぜまた再開されたんでしょうか。

今和泉

大学生活の後半、2008年ぐらいから
中高生向けの教育支援をしているNPOに
参加するようになったんです。

そこで、なんとなく空想地図の話をしたら、
これまでにないぐらい興味を持たれたんです。

──

あぁ、それはうれしいですね。

今和泉

それまで私のまわりには、
空想地図に興味をもったり、
価値があると思ってくれる人って、
ほとんどいなかったんです。

でも、そこで出会った人たちは、
空想地図を「おもしろいもの」として
見てくれました。

──

そのNPOには、
どういう人が参加していたんですか。

今和泉

社会企業家を目指す人だったり、
ビジネス好奇心が旺盛な人たちだったり、
いわゆる「意識高めの大学生」の人たちです。

私としては参加してみたものの、
どれだけ劣等感の焼き付けになるかと、
心配していたんです。

──

でも、現実はそうはならずに。

今和泉

ならずに、逆に彼らのほうが
私に興味をもってくれました。
私にとっては価値の天変地異が
起きたわけです。

──

じゃあ、空想地図はそのころに再開を？

今和泉

いえ、そのときはまだ、
過去に描いた地図を見せていただけでした。

──

ああ、過去のものを。

今和泉

でも、そうやって人になんども
中村市の地図を見せていると、
地図のアラがだんだんと気になってくる。

──

ほう。

今和泉

そもそも高校生のときに下書きして、
それを大学１、２年でなぞったものなので、
クオリティ自体はそんなに高くないんです。

しかも、全国の地方都市を旅したことで、
本物の都市がどうやってつくられているか、
身をもって知ってしまったので。

──

本物の街をたくさん見て、
目が肥えちゃったわけですね。

今和泉

じぶんで描いた地図を見るたびに
「ウソくさい街だなぁ」って。
まあ、そもそもがウソなんですけど。

──

ウソにリアリティがなかった？

今和泉

ぜんぜんリアルじゃなかった。
空白のところもけっこうありました。

それで、過去についたウソの責任を
取るようなかたちで、
中村市の修正を本格的にはじめたんです。
それが2010年くらいです。

──

そこからずっと修正を？

今和泉

「ずっと」ではないです。
「気が向いたら」という感じです。
そもそも完成させる必要もなければ、
誰かに頼まれているわけでもないので、
そんなに強い衝動があるわけではないんです。

──

もう、現実逃避という動機もないし‥‥。

今和泉

あと私、いちおう社会人なので、
小学生ほどヒマじゃありません（笑）。
そこはけっこう大きいです。

──

小学生のヒマ度はすごいですからね。

今和泉

ヒマじゃない小学生もいると思いますが、
私はとにかく「激ヒマ」でした。
いくらでも時間があったので、
思いついたことはぜんぶ試しました。

例えば、学校の帰り道に
大きな石がいくつか転がっていて、
「あれをうまく積み上げたら
ストーブになるんじゃない？」
みたいなことを考えて、
別に火もおこすわけでもないのに、
ひとりで石を積み上げて
「それっぽくなった、終わり！」とか。

──

意味も目的もなにもない（笑）。

今和泉

でも、子供の頃って、
そういう試行錯誤が当たり前でした。
それが大人になると、
やっぱり石なんて積まなくなるんです。

──

まあ、そうですよね。

今和泉

それは空想地図でも同じで、
いまでも地図を描くことはたのしいのですが、
「完成してもどうにもならない」ことを
すでに知ってしまっています。

なので、なんというか、
小学生のときほど無邪気にはなれません。

──

なるほど‥‥。

今和泉

ただ、テスト前になると、
急に部屋を片付けはじめる高校生みたいに、
目の前の問題の現実逃避として
「あ、地図を直さなきゃ」と思って
やることはあります。

あと「展示したいから貸して」とか言われると、
ちょっと空白があるとかっこ悪いので、
そういうときに一気に描いたりします。

──

じゃあ、いまの空想地図の活動としては、
中村市の修正がメインなんですね。

今和泉

いや、それがですね、
最近になってようやく、
新しい街を描きはじめたんです。

──

え、新しい街？！　それは‥‥。

今和泉

はじめに話にも出た「西京市」です。

──

西京市！　この国の「首都」という？

今和泉

はい。

（つづきます）

2018-12-04-TUE