池谷 脳の神経を
ごらんになったことがありますか?
糸井 ないです。
池谷 では、
あとでいっしょに見ましょう。

たぶん、
見る前と見た後では
ずいぶん印象がちがうと思うんです。

ルールはもともとなくて、
システムがあって……
システムが作動することで
ルールが生みだされていくというか、
自己組織化のシステムがあるんです。
やはり脳はそういうもので。
糸井 研究分野によっては
神経細胞ではない細胞も
培養されているんでしょうけど、
培養のやりかたはずいぶんちがうんですか。
池谷 皮膚や肝臓の細胞を培養したりするのは、
すごくラクなんです。
ところが
脳の神経細胞はものすごくデリケートで、
ちょっとでもミスると死んじゃうんです。

しかも、神経細胞どうしというのは、
ネットワークができないと死んじゃうんです。
これは重要なことです。
人とそっくりですよね。
コミュニケーションができないと、
神経細胞はどんどん脱落しちゃうんです。

だから、
ネットワークを作れるように
一定の密度を保たなければなりません。
あまりにも過疎地に持っていくと
ネットワークが遠くてとどかないので、
死んじゃうんですよ。

……そしてこれはぼくが見つけたことですが、
ある一定の距離だけ伸びて、
仲間がいなかったら、
その神経細胞は脱落していくように
プログラムされているみたいですね。
糸井 池谷さんは、
顕微鏡をのぞいているうちに発見したんですか。
池谷 そうです。
実際にはかってみたら、
一五〇マイクロメートル伸ばしてダメなやつは
アポトーシスというのですけれども
自己プログラムされていて死んでいくんです。

自殺プログラムではあるのですが、
われわれ研究者は
すごくポジティブな意味で使っています。
要らないムダを省くことは
けっこう重要な動きですので。

(つづく)
2005-07-29-FRI
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