糸井 「暗記しようと思えばできる」
と逃げないようにしてみたら、
計算ドリルとか、暗記ドリルとか、
だんだん成績があがるんですよね。
自分でも予想していなかったんだけど。
池谷 頭の中に自然にできあがっていた
ブレーキを取り払ったのでしょうね。
糸井 そうそう。

「暗記や計算はできない。
 おもしろいことしかできない」
というのは、過去のぼくには
「自慢のブレーキ」だったんでしょう。

自己評価や自分の像というものを、
描きすぎていたんだと思うんです。
「暗記や計算の苦手な自分」
と、決めつけすぎていたわけです。
だけど、人が言う暗記のコツとかを
実行してみると
ほんとに効き目があったりするわけで。
池谷 柔道を習いはじめるという時も、ほんとは
派手な投げ技とかがやりたくて仕方がないのに、
最初の一年は受け身ばかりだったりしますよね。
たぶん、勉強も、まったく同じだと思うんです。

むずかしい問題をガンガン解きたいわけですが、
最初は、九九みたいなところをやるんですから。
最初に、九九みたいなことをやる意味って、
やっている最中は、わからないじゃないですか。
「なんで、こんなことをやっているんだろう?」
そこを、いい意味の「馬鹿」な人は、
平気でそのままやってしまうんです。

今、糸井さんとぼくがこうしてお話をしている
薬学部の研究室にいるのは全員東大生ですけど、
彼らも、みんなそういう「馬鹿」なんですよね。
親からやれと言われたことを素直にやった人間。
しかも課題を飲みこむことができた人間の結晶。

もちろん世間では、それがあることで
東大生はつぶしがきかないとか言われますし、
何とかかんとか叩かれたりもするわけですが、
しかしぼくの身近な研究の世界を見ていると、
やはり「馬鹿」であるべきだとは思うんです。

研究も、はじめは、
地道な処理の練習の積み重ねです。
それを厭わずやれるかどうかが入口ですから。
糸井 一度、受験を通った人の強さというのは、
ぼくも、ふだん、よく感じますね。

(つづく)
2005-07-13-WED
友だちにこのページを知らせる
©2005 HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN All rights reserved.