海馬。
頭は、もっといい感じで使える。

第29回 事故で記憶を失うとヤバい?


先日こちらのページでお知らせをした
丸谷才一さんによる『調理場という戦場』の書評が、
毎日新聞のホームページで読めるので、
こちらに、リンクをはりましたよ。

ぜひ、読んでみてくださいませ!

……では、今日の一問一答に入りましょう。

交通事故の直後に、記憶をなくした人からの質問です。







・池谷さんへ。
 「海馬」購入して、いま3回目の
 読破を迎えようとしているところです。
 読むたびに
 「脳すごいー、ってゆうか自分すごくない?」
 と毎回感動と勇気をもらっています。

 というのもあたしは約3年前に
 交通事故にあったのですが、その事故前後、
 2、3日の記憶はまったくない
のです。
 
 しかも事故後すぐなんて
 脳の0からの再生中で、当時22歳だったのですが、
 とってもおこちゃまな脳でした。
 けどいま25歳に手を伸ばす寸前なのですが、
 脳はほぼ復活したと思います。
 (まだまだ!といってこんなもんじゃないよ、
  自分とまわりに見栄を張っています・・・)

 そこで質問なのですが、
 あたしの事故後の記憶や
 ほぼ日上で掲載されたメールの出産直後の女性のように
 自分に都合の悪い記憶は、
 なんでも脳は忘れようとするのでしょうか?

 
 それならこのように特別な状況ではなく
 日常的なことでこのようなケースはないのですか?
 
 そしてその一方でいやな記憶でも
 忘れられない記憶があるというのは
 どうしてなのでしょうか、
 それは生きていく上でそんなに
 重要ではないことだからですか?
 
 (えり)





・「都合の悪い記憶を忘れる」というよりは、
 事故に遭って、こういう状態になることは、
 たしかによくあるんです。
 ちょっとした脳震盪(のうしんとう)ですよね。

 産後の記憶がそうなるのかどうかについては、
 ぼくも読者のメールをいただくまでは
 知らなかったので、それとの比較は難しいのですが、
 「衝撃によって一時的に脳が停止すること」
 は、事故のあとなどに、よくあることと言えます。

 このかたの場合、もう復活していますよね、
 すでに3年経っていますし、そもそも
 「2〜3日で戻っている」と書いてありますので、
 脳はまったく損傷を受けていない状態のはずです。
 
 しかも、脳は意外にタフなやつで、仮に
 バーンと衝撃を受けても治ってくれるんです。
 からだのなかでも、再生能力に
 とても長けている場所が脳なんです。
 
 脳というのは
 「グチュッ」と潰してしまう系統の
 チカラに対しては弱いのですが、
 一部分が欠損するようなことには強い。

 それならば、かなりの部分、
 まわりの神経細胞が補ってくれますね。
 
 脳のだいたいの部分というのは、
 「この部分は手を動かす部位だ」
 「そのとなりの部分はどこそこのための部位」
 というように、だいたいの
 役割分担が、決まってはいるんです。
 
 ですが、ふだんは他の役割をしていたところが、
 あるところが足りなくなったら
 それを手伝うということができるんです。
 そういう協力性に富んでいるのが脳の性質でして、
 ましてや、この質問の方のように
 損傷を受けていないならば、
 何も気にする必要は、ないでしょう。

 (池谷裕二)






 「事故に遭っても、けっこう脳は強い」
 という話ですね。

 読者の「えり」さんの
 「脳すごい、ってゆうか自分すごくない?」
 の直感は、さらにふかまったことと思います!

 「都合の悪いことを、脳は忘れていくのか?」
 「いやな記憶を、なぜ忘れられないのか?」
 については、後日、池谷さんが
 別の質問で、きちんと答える予定になっています。

 この「忘れる」という問いへのヒントを
 ここですこし、前もって話してみますと……
 「記憶に関して人間が自発的にできるのは、
  覚えるということだけなんです」

 なのだそうですよ。
 どう展開するか、楽しみにしていてください。

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2002-08-30-FRI

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