海馬。
頭は、もっといい感じで使える。

第12回 アルツハイマー病の原因


『海馬』『調理場という戦場』ともに、
予定よりも非常にはやい時間に完売しまして、
ほんとうに、感謝の気持ちをお伝えしたく思います。
どうもありがとうございました。
発送の準備や発送状況についても、
今後お伝えしてまいりますので、お楽しみに!

今日のこちら『海馬』のコーナーでは、
前回にひきつづき、池谷裕二さんとdarling糸井重里との
「電波少年的放送局」の生放送中の会話を、
ご紹介してゆきたいと思います。

5月上旬に新聞で発表された
「池谷さんたちの研究チームが
 アルツハイマーに関する発見をしたこと」
について、会話は展開してゆきますよ。







<※5月24日の『電波少年的放送局』放送より>


糸井 池谷さん薬学部だから
薬に関しても、よく知ってるんですね。

池谷 わたしがちょうど薬学部に入った頃に、
『海馬』の本のキーワードにもなっている
可塑性というものの研究をしていたんです。
この可塑性を高める、
自然の中の生薬が、いくつかあるんですよ。
ニンニク、イチョウの葉、朝鮮人参……。
それらをやたらめったら集めて、
東大の学園祭で、みなさんにふるまったんです。
そしたら、けっこうウケまして。

糸井 (笑)へぇー、いいね!
池谷 とてもよく効くし、
研究者としてはオススメなんですけど、
それ、必要なものを集めただけだから、
まずいのなんのって。

糸井 (笑)
池谷 朝鮮人参だとか、単体でドリンクにしても
かなり癖のあるものを、ものすごい
たくさん集めてしまいましたから。
「いいんだぞぉ」とオススメしたら、
みんな、ものすごい顔をして飲んでましたけど。
・・・『東大ドリンク』って名前までつけて。

糸井 ハハハ。
池谷 なつかしいですね。
糸井 このごろは、何をなさっているんですか?
こないだ新聞を見たら、
アルツハイマー病のための発見というニュースで
池谷さんのお名前が載っていたんですけど、
それについて、すこし教えていただけますか?

池谷 ええ。
実はあんな大きな扱いを
受けるとは思わなかったんです。
朝、友人から電話があって、
「おまえ、新聞に出てるぞ」
って言われてびっくりしたという。
科学欄を探したらないから、
載ってないじゃん、と思ったら、
なんか、一面のトップに載っていて……。

糸井 (笑)うん。
池谷 おおまかに言うと、
アルツハイマー病の原因というのは、
わかっていなかったんです。
いや、わかっていなかったというと
厳密にはウソになりますから、正確に言いますね。

神経細胞というのは、
脳の中に1000億ぐらいあると言われています。
アミロイドベータという毒が
脳の中にたまることによって、
ぎっしりとつまった神経細胞は減っていく……。
神経細胞が死んでいってしまう。
アルツハイマー病は、それが原因だと
考えられていまして、10年、20年と、
その仮説がまかりとおっていたんです。

しかし、ごくごく最近に、
アルツハイマー病の初期の患者さんや
アルツハイマー病の動物の脳を調べてみたら、
神経細胞はいっさい死んでいないという
結果が出はじめたんです。
神経細胞が死ななくても痴呆になる、
ということは、従来の仮説そのものを
根本的に疑わなければいけないぞ、
ということになったのです。

何かおかしい、と言われて
悶々としている中で、
わたしたちの研究室が見つけたのは、
神経細胞が死ななくても、
ある毒がたまると機能が落ちる、
ということを見つけたんですね。

糸井 腕がこわれていないけど
動きにくい、みたいないうことですね。

池谷 アミロイドベータという毒で
神経細胞が死なずとも機能が落ちた。

アミロイドベータをふつうにかけると、
確かに神経細胞は死ぬんです。
しかし、わたしたちは、低い濃度で
アミロイドベータをかけることをしました。

そうしたら、その量では
細胞は死にはしないけれども、
脳のアクティビティがかなり落ちる。
6割ぐらい落ちていた。
それが、アルツハイマー病の
原因なのではないか、と、提唱したんです。

神経細胞が死んでしまえば、
もとに戻ることはないけれども、
この発見で、死んでいないとわかった。
ですから、初期のアルツハイマーなら、
もしかしたらなおるかもしれないんです。
生きているわけですから。
そういう治療の可能性に、
一歩踏み出したということなんです。
そこが大きな意味ですね。

ぼくたちのやったことは、ここまでです。
ぼくたちの試験管の中で起こっていたことが
患者さんの脳の中でも起きているのかどうかを
これから、調べていかないといけないですから、
まだまだゴールは遠いんですけれども。

糸井 その発見の先というのは、
けっこう短い時間で、解決方法が
見いだせることが、あるんですか?

池谷 そこなんですよね。
まだまだ、とも思いますけど、実際、
科学の進歩って想像よりもはやいですから、
案外、はやいかもしれません。
わたしは20年ぐらいかかるなと
考えているのですが、もしかしたら
10年とか、そういうこともあるかもしれない。

神経のアクティビティが
なぜ落ちるのかのメカニズムも
つきとめたんです。
「ここを調べていけばいいんじゃないか」
ということを、提案したんですね。
ですから、これから世界の科学者たちが
ここに、たかってくると思います。
そうしたら、早いんです。

糸井 たかってきたら、早いですもんね。
そのメカニズムって、どういうものですか?

池谷 シナプスでは、シナプスの使う言葉があるんです。
そうして神経細胞どうしが
連絡をとりあっているんです。
その言葉をまわりからさえぎるカベが
もともとあるんですけど、
そのカベの機能が高まってしまって、
言葉が伝わらない状態になっているんです。
この防音カベをなんとかすればいいんじゃないか、
という……。

糸井 なるほど、本体じゃなくて
カベに問題があるんだ?

池谷 そうなんですよ。
今までは神経細胞だけを見ていれば
いいはずだったんですけれども、
原因は、カベだったんです。
実はぜんぜん違うところに
目を向けなければいけなかったという。

糸井 おもしろいなぁ。
推理小説っぽいパターンだねー。






(※次回をおたのしみに!)

2002-05-31-FRI

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