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私をリングサイドに連れてって。

新井田大苦戦!薄氷の勝利で統一王者に


王者、新井田には負けととられてもおかしくない
厳しい試合となった。
相手は暫定王者、文字通り最強の相手。
勝敗を分けたのは技術ではなく最後は精神力だった。

WBA世界ミニマム級王座統一戦
チャンピオン新井田豊
     ×
暫定王者ファン・ランダエタ。


まずは正王者と暫定王者について少し触れる。
世界王者には次回試合への期限が決められている。
でないと例えば1年間試合しない王者が
世界チャンピオンでいることが可能となる。
ボクシングは格闘技なので怪我や故障がつきもの。
王者が怪我や故障などで一定期間試合ができないと
世界タイトル戦が不活発となる。
その空白期間の対応措置として「暫定王者」が設定される。
基本的には1位と2位の選手が決定戦をおこなうのが
基本である。

今回は新井田が前回タイトルを奪ったアランブレッドが
ある期間活動していなかったため
その間暫定王者となったのがランダエタ。
つまり今回の戦いはお互いがチャンピオンという
最強を決める戦いとなる。

ランダエタはベネズエラ出身。
戦績は16勝14KO2敗1分。
身長も新井田157cmより7cm高く164cm、
リーチも相当長い。そしてサウスポー。
リングで両者を比べると、階級が違う選手のようだ。
ミニマム級のリミットは105lbs(47.62kg)。
164cmでこの体重を
維持するのは至難の業ではないだろうか?

しかし試合が始まると、ランダエタの長身を活かした
サウスポーからの攻めが新井田を苦しめる。
中長距離ではランダエタのストレートが的確に飛んでくる。
インサイド勝負したい新井田だが、
正面から愚直に飛び込む策しかなく
そこにボディのカウンターなどを喰らってしまう。
時折渾身の左フックを当てるが、連打にはならず、
圧倒的に試合を支配される展開。

ランダエタはサウスポーから繰り出す長いワンツー、
強烈なボディブローなど
さまざまな角度から繰り出すパンチも見事。
新井田がサウスポーが苦手なことが
リングでのぎこちない動きで見て取れ、
暫定王者のKO勝ちさえ予感させた中盤までだった。

しかし試合の流れは急激に変化した。
5回に目をカットし、
まさに崖っぷちに追い込まれた新井田は
戦術やスタミナ配分全てを捨てて積極的に打ちにでる。
一般には無謀な振り回しともいえるだろう。
ところがこれで距離が一気に詰まり、
お互いのパンチが当たる
いわゆる「チャンスゾーン」での展開となった。
新井田のフックがランダエタの顔面を捉え始める。
リズムがでてジャブもスムースに出始める。
前半型のランダエタは冷静に対処はするが
戸惑いが表情に出てきている。
スマートで完璧なアスリートが陥る
ある種のパニックと見て取れた。

前半のダメージもあり新井田はスタミナ切れ寸前。
それでも乾坤一擲の強打で最後まで狙い続け、
最終回のゴングが鳴った。
判定は115-114、115-113新井田115-113ランダエタ、
2-1の僅差逆転判定勝ちだった。
直後のインタビューで涙を流す統一王者。
大苦戦と自分のもどかしさを分かっているのだろう。

これまでの試合と違い新井田は顔面血染め、そして
なりふりかまわず相手に向かっていった。
これまでの綺麗な試合と違う
「魂」のぶつかりあいが伝わってくる内容だった。
サウスポー対策、ジャブやリズム、前半の手数や
連打のバリエーション、ステップワークなど
様々な技術的なポイントでは
改善が必要な内容ではあった。
しかし格闘技での勝負を左右する
一番大切な「精神力」「勇気」を得たことが
一番の収穫だろう。
逆にランダエタはボクシングの技術は新井田よりも上。
体格も恵まれ勝利をほぼ手中におさめたが、
一番大切なものを持って攻め切れなかった。
正王者と暫定王者をわけたのは、
「精神力」「勇気」だった。


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2004-11-01-MON

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