BOXING
私をリングサイドに連れてって。

04年最初の番狂わせ!強打のアギーレ完敗!


1月10日(土)後楽園ホールで
WBC世界ミニマム級タイトルマッチ戦が行われる事を
知っている人は少なかったのではないだろうか。
実際この日のメインイベントはチャンピオンカーニバル
日本フェザー級タイトルマッチ「本望×有沢」。
本望の判定勝ちの試合であった。
この世界戦はセミファイナルで行われた。
そして番狂わせが起こったのである。

WBC世界ミニマム級チャンピオン、
ホセ・アントニオ・アギーレは28歳、30勝19KO1敗1分。
日本ではウルフ時光、星野敬太郎を強打でマットに沈め、
両選手ともに引退しており、日本人キラーともいえる。
魅力はその強打で、
108LBS(48.9kg)という最軽量であるものの、
中量級のような迫力のある打ち抜くパンチが持ち味の
メキシカンボクサーだ。

挑戦者はイーグル赤倉(角海老宝石、25歳)。
11勝5KOでWBC3位にランクされているが、
本名デン・シュラパンというタイ人。
つまり輸入ボクサーなのである。
世界戦がセミファイナルとなった理由はここにある。
外国人同士の試合では大会場に見合う
放送権利金やチケット販売が簡単に見込めないのだ。
しかしボクシングファンにとっては
メキシコの強打者ホセ・アントニオ・アギーレを
後楽園ホール規模の会場で見れ、
さらにそれが世界戦となる貴重な機会だ。

いよいよセミファイナル。
両選手が入場する。
イーグルは笑いながらの入場。
端正な顔立ちで、引き締まっている。
アギーレはラテン系の明るい音楽に乗り、
ミニポンチョを被り
まるでパーティかのような余裕を浮かべて
こちらも笑顔の入場。
予想ではアギーレ有利。当然である。
これまで防衛7回。
ミニマム級で当たれば倒れる1発を持つ
磐石の王者なのだ。
イーグルも素質は高いが
プロ12戦目で勝てるほど世界は甘くないはずだった。

しかし試合が進むにつれ会場には、
予想を意外な形で裏切る展開に
不思議な空気が流れていった。
立ち上がり、様子を見る体のアギーレに
イーグルの左フック、右ストレートがヒットする。
それでも会場の観客は
スロースターターのアギーレのギアが入れば
優位は吹っ飛ぶだろうと思っていた。
しかしラウンドが進むにつれ、
イーグルのキレとスピード、
さらに踏み込みやプレッシャーが
止まるどころか活き活きとさえ見える展開に
「チャンピオンになっちゃうよ」
という声も漏れ始めた。

4R、イーグルが体を前に倒し、
投げ出すように出した右フックが
王者アギーレのこめかみ付近に当たり、
王者がぐらついた。
あの世界王者のアギーレがクリンチをして凌いでいる。
まさかの展開で、にわかに信じられない光景だ。
この試合、イーグルのベストラウンドといってもいい。
しかしその後も絶え間ないイーグルの攻撃に
アギーレは防戦一方。
得意の左フック、アッパーも封印され、足を使い、
ロープを背にした展開でチャンスを伺うしか手が無い。
しかしイーグルは行くぞ、行くぞというような
フェイントとプレッシャーとなんと笑顔で
堂々とアギーレを追い込んでいく。
相当研究したのだろう。
アギーレの得意パンチをことごとくかわして
自分のペースで試合を進める。
ポイントではほとんどイーグルのものである。

アギーレもあきらめない。
終盤、若干油断の見えたイーグルに
武器である左フックを当てるが、
体力を失いパンチの威力が落ち、
自信満々のイーグルは気持ちで耐える。
さらにサウスポーになりペースを変えようとするが
一度失った流れを戻すのは不可能だった。
イーグルの気合の充実の表情は
最終ラウンドまで変わらなかった。
12R終了。両目の下を腫らしたアギーレに対し、
イーグルの顔は綺麗そのもの。
判定は3−0。それも大差での戴冠となった。
ミニマム稀代の強打王者アギーレは
後楽園ホールで7度防衛した栄光の王座から陥落した。

この日テレビ解説した、あの浜田剛史氏が
「アギーレは交通事故で膝にボルトが入っており、
 膝が突っ張り本来の動きではなかった」
と教えてくれた。
膝にバネが無く、突っ立ってしまい、
踏ん張るにも力が入らず、
バランスも悪くなってしまう悪循環で
ボクサーでは致命的ともいえる状態だそうだ。
さらにミニマム級の宿命ともいえる
年齢の衰えの波が来たのかかとも思う。
膝の件はもちろんだが、
ミニマム級のリミットは全17階級中、最軽量の48.9kg。
小柄ゆえに、スピード、スタミナが生命線ともいえる。
ヘビー級のような大柄選手であれば
パワーと体格があれば、
年齢という経験も大きくプラスになる。
この日のイーグルとアギーレを比較すると
バネ、スピード、瞬発力など敏捷的な動きでは
全て若いイーグルが勝っていた。
アギーレもまだ28歳だが、7回の防衛戦の内容を
VTRで徹底的に研究されつくされ、
試合当日の身体の切れがなければ
やはり勝利は難しい。

対照的にこの日のイーグルは素晴らしかった。
最も優れていたのがハートだ。
強打のアギーレに対して最後まで堂々と向かっていった。
技術や体力ももちろんだが、最後の勇気の部分でも
アギーレを圧倒した。
ハングリーという言葉が正しいかどうかわからないが、
試合が楽しくて楽しくて仕方がないという表情が
非常に印象的だった。
いくら最強王者であっても様々な要因が重なり
あっという番狂わせは起きる。
キャリアの浅い挑戦者に対し
「油断」が無かったとはいえないかもしれない。
しかしそれが勝負であり、
結果が全てとの評価も存在するのだ。

先週はポンサクレック、この日はイーグルと
今年はタイ旋風でも起こるかのような勢いだ。
日本人にも馴染みの深いこの階級で
イーグル選手は実力と強いハートも兼ね備え、
かなり難敵の部類に入る。
今のところ顕著な弱点は見当たらない。
知名度は低いが、頼もしいチャンピオンの誕生となった。


ご意見はこちらまで Boxnight@aol.com

2004-01-13-TUE

BOXING
戻る