BOXING
私をリングサイドに連れてって。

琉球戦士、仲里激闘、善戦も一歩及ばず!

WBC世界S.バンタム級タイトルマッチ
「オスカー・ラリオス対仲里繁」
(4月26日、両国国技館)

−琉球戦士、仲里繁−

仲里繁というボクサーを知っている人は少ないだろう。
ボクシングファンならまだしも一般の人は
ほとんど知らないといってもいい選手だろう。
沖縄出身で、所属ジムも沖縄。
口下手で無骨、ボクシングも独自のスタイル、
それは我流といってもよく、
間違いなく打ち合いを好む実戦派、
フットワークやジャブなど華麗なボクシングとは無縁だが、
強烈な左フックは世界レベルという、
まさに不器用な琉球戦士が
現在に蘇ったような存在である。
沖縄は浜田剛史、具志堅用高、平中明信など
5名を輩出するチャンピオンメーカーである。
特徴的なのはそのパンチ力と攻撃性である。
私はそれを琉球の血を引く日本人離れした肉体の強さと
戦う魂を生まれながらにもった、
戦士的な精神からきているものだと思っている。

その琉球魂を継承するボクサーが
東京のファンの魂を揺さぶる激闘を
世界戦という大舞台で見せてくれた。

−強打の王者に真っ向勝負−

試合前の予想はチャンピオン、ラリオスの圧倒的有利。
リーチも長く、連打の回転とその力強さはメキシカン独特、
昨年8月の福嶋選手を8RTKOで屠った防衛戦では
会場を埋めたファンがうなるほど見事であった。

試合開始直後から予想通りラリオスペース。
左ジャブで仲里との距離を取る。手数も多い。
不器用な仲里はほとんどパンチを打たない。
対応できていないようにしか見えないが、
仲里の眼光は何かを狙っている。
そして3R後半、一瞬のチャンスに
仲里必殺の左フックがラリオスの顔面を捉え、
一気に攻めたて会場が沸く。
しかしラリオスも距離を取り直し、
まるで長い鞭が絡みつくかのような連打で
ペースを取り戻す。
観客席にいて汗が滲みでてくる。
強打を持つ選手が打ち合う時の
独特の緊張感が会場にも伝わってきた。

−ド迫力!激烈な打ち合い−

ここから激烈な打ち合いが始まった。
5R仲里はガードを下げ、前に出て、
ラリオスのパンチをかいくぐり打ち合いを仕掛けた。
攻撃センスと連打では
世界トップクラスのラリオスだからこそ、
ひるむことなく真っ向から向かっていかなければ
勝機は自然と消えていく。
お互いがチャンスと危険をはらむ距離で打ち合い、
はじめて挑戦者仲里にチャンスがあるのだ。
両者ともに強力なパンチ交換が続いたが、
チャンスをものにしたのはラリオスだった。
5Rに左フックがカウンターとなって仲里ダウン。
しかし立ち上がる仲里。
通常ならばもたないダメージのはずだ。
これが世界へのモチベーションなのだろう。
しかしこれ以上、強打の王者の攻撃には
耐えられないと会場にいた誰もが思っただろう。


執念で前にでる仲里繁(右)

−仲里、チャンピオン・ラリオスの顎を砕く−

しかし6Rから仲里の奇跡的な追い上げが始まった。
ダウンのダメージは残っているはずだが、踏ん張り、
愚直に左フックでチャンピオンを攻め立てる。
ダウン後のダメージの回復は
日常の走りこみと練習量の賜物であり、
いかにこの試合に体調万全できたか、
下半身を強くしてきたか、の証拠でもある。
そして8Rまたしても仲里の強烈なパンチが
ラリオスを捉え集中打を浴びせる。
圧巻は9R終了直前だった。
一発のパンチが当たり、鈍い音がした。
ラリオスはふらふらと下がり、
ダウン寸前までダメージを負った。
あくまでも一発の強いパンチ狙う仲里は
あと数秒間詰めきることができなかった。
しかし国技館のボルテージは上がり、
もの凄い歓声に包まれた。
試合直後に判明するのだが、この一発で
ラリオスの顎は骨折していたのだ。
顎を骨折しているラリオスはそれ以後
明らかに足を使い打ち合いを避け判定に持ち込んだ。

−仲里、判定に泣く−

試合終了直後両者の表情は対照的だった。
ふらふらになりながらぐったりとしている
チャンピオン、ラリオス。
まだ体力を残し、倒したりないという
表情を浮かべる仲里。
しかし判定は3−0でラリオスを支持した。
ボクシングという競技においては、
序盤にダウンを奪い、ジャブと手数で
的確にポイントを稼いでいたラリオスに対し、
仲里にはKOしか勝つ可能性はなかった。
しかし殴り合いということでは間違いなく、
強打の世界チャンピオンを圧倒した。
顎の骨折という重症を負ったラリオスは
しばらく防衛戦はできないだろう。
回復状況次第でWBC暫定王者を立てるかもしれず、
そうなれば仲里に再び暫定王座決定戦の
チャンスが巡って来る可能性はあるだろう。

リングの外では無口でアピール下手。
派手な部分はなく、無骨。
スタイルも独自で華麗さとは無縁。
しかしリングに上がれば、誰もが注目する、
魅力的な強打と、相手を倒すという意思の強さで
世界王者を最後まで苦しめ、
国技館を興奮の坩堝に巻き込んだ仲里。
「明日のジョー」の最後のような展開に
ボクサーの魅力は
リングで「勝つ」という意思の強さと
「拳」の力だけで十分だと
仲里から改めて教えてもらったような
気がする試合だった。


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2003-04-29-TUE

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