冒険王、 横尾忠則。   横尾さんの展覧会で、横尾さんにお会いしました。 「‥‥あなたという人は!」と 何度も叫びそうになりました。すごいです。 さぁ、みなさん。ご本人といっしょに 横尾忠則さんのすばらしい冒険の記録を 見て回りましょう。
003 もう、この絵とは関わりたくない。
 
糸井 横尾さんは、一枚の絵と接している時間が
そんなに長くはない方ですよね。
つまり、比較的速くお描きになるタイプだと
思うんですが。
横尾 速く描いていても、
ひとつひとつのちっちゃなタッチそのものを
描き手はすべて目撃してるんです。
目を瞑って描いてるわけじゃないからね。
絵を描く時間は、物理的時間じゃなくて
ぼくという時間の中では、
ものすごく長いんです。
糸井 その時間はとても濃縮されている、
ということですか。
横尾 うん。そういう意味で言うと、
かかる時間は、どの絵も同じだけの分量です。
この絵が「特に長かった」「特に短かった」
ということはありません。
糸井 それは、絵を描いていないぼくらには、
伺うまではわからなかったことですね。
横尾 これは、ぼくの大発見ですよ、
なんてね(笑)。

糸井 そんなことは誰からも
聞いたことはないですから、
きっとそのとおりですよ。
横尾さんは、絵の大きさについては
どう考えてるんですか?
横尾 「ちょっと、かなわないな」というタイプの
絵を描きたいときは、
自分の体より少し大きい
「もしかしたら負けるかな」
というサイズの絵にします。
でも、例えばさっきのルソーの絵は、
このあたりに展示している「Y字路」みたいに
大きくは描けないです。
糸井 意味が変わっちゃいますもんね。
横尾 そうそう、そうなんだよ。
糸井 しかし、これ‥‥すごい絵ですね。

横尾 これはね、広島です。
ちゃんと広島の現代美術館が所蔵してるんだよ。
今回は借りてきて、展示してるんだけども。

塚田 (世田谷美術館のキュレーターの塚田さん)
これは、図版だとあまりよくないんです。
やっぱり実物はすごいので、
みなさんにぜひ直接
見ていただきたいです。

糸井 いまの、とてもいい言い方ですね。
つまり「あまりよくない」。

横尾 解放されたね、いまの言葉。
塚田 いやいや、あの、
そういう意味じゃなくて。

糸井 図版だと、この絵のよさは
うまく伝わらない、ということですね。
図版だと「よくない」と。
横尾 これより悪いものを
描かなきゃいいってことだから(笑)。

糸井 しかも図版ではね。
塚田 あの‥‥
糸井 いやいや(笑)、
印刷物って、当然限界があるんですよ。
たしかにこういう絵は図版だと無理でしょうね。
だいたい、描いた本人が
「負けるかな」というところで
格闘しているわけですから、
そんなに簡単には表現できないでしょう。

横尾 この部屋にある「Y字路」のものは
たいがい無理だよ。
糸井 うん。絵の前に立って見てほしいですね。
横尾 ぼくはね、いつも最後は
絵に負けるんですよ。

糸井 格闘した末に、ですか。
横尾 絵を相手にギブアップして、
「もうこの絵とは関わりたくない」
というところで、筆を置くわけです。
そういう意味では、ぼくの絵は
全部が未完成です。
だいたい、「完成」なんていうのは、
どういうことを言うんだろうね。
塗ってないところを塗りつぶせば完成、
というわけじゃないからね。

糸井 横尾さんは、つまり
「用があるもの」を作ってるわけじゃないから。
横尾 無用の長物ですわ。
糸井 はい。
おっしゃるとおりです、無用の長物。
‥‥悪く言ってるっぽく聞こえるときは、
全部「褒め」ですからね。
いちおう、言っておきますが。
横尾 まぁ、わかってるよ。
糸井 横尾さんの絵って、
もしも道ばたに落ちてたら
びっくりすると思いますよ。
「どうしたらいいだろう」と思うでしょうね。
ぜったいそのままにして捨てたり
放置できないと思います。
横尾 そうかな。

糸井 落ちててもそのままにできる絵って
俺はぜったいあると思う。
横尾 この話、乗らないほうがいいよね。
糸井

(笑)ま、罠ですよね。
ぼくの言ってることは、
だいたいが、罠です。

  (続きます!)
 
2008-05-31-SAT
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