坊さん。
57番札所24歳住職7転8起の日々。

第216回
両界マンダラを栄福寺に納めました。


ほぼにちは。
ミッセイです。

僕が住職をしている栄福寺は、
仏教の中でも、

「真言宗」(しんごんしゅう)という、
空海がつくった宗派のお寺なのですが、
多くの真言宗のお寺では、
本尊の左右の壁にマンダラ(曼荼羅)の軸を、
掛けてあります。

一般的な意味でのマンダラは、
ごく簡単に言うと、
密教の宇宙観、世界観、修行者が観る光景を、
絵画として図像化したものです。

もちろん絵画といっても、
仏像とおなじように、
崇拝の対象になります。

でも、
栄福寺には、
どういう事情からかわかりませんが、
このマンダラがありませんでした。

昔々の火災で、
焼けてしまったのかもしれませんし、
なにか複雑な事情があるのかもしれません。

ですので、

「僕の代で、
 栄福寺にマンダラを納めないとな。」

と思っていたのですが、
自分が納得する物と、
出会うまでは、
あせることもないな、と思っていました。

それまでは、
じっくり色々な物をみようと。

***

僕は昨年、
インドのラダックを訪れたのですが、

旅行を御一緒させて頂いた
松長有慶先生の本の装丁が綺麗だなー、
と、なんとなく思っていました。

そして、
その多くが「杉浦康平さん」という、
著名なグラフィックデザイナーの
デザインでした。

ラダックでも、
杉浦さんの話を松長先生から聞いた僕は、
帰国してから、
杉浦さんのデザインした
ラダックの大きな写真集を古書店で購入して、
その美しさに驚きました。



そして、
杉浦さん自身が書かれた本などを読むうちに、

『教王護国寺 伝真言院曼荼羅』(平凡社)
(撮影 石本泰博)

という杉浦さんのデザインを語る上で、
必ず登場する本は、

すごく巨大な本で、
東寺の古いマンダラをテーマにした本であることを知り、
とても高い本だけれども、
これは栄福寺にあって、
長い時間、人の目に触れた方が、
本にとってもいいと思いました。

そして、僕にも、
この本に込めた杉浦さんの、
熱風のような情熱を、
仏教を仕事にするひとりとして、
感じてみたいという好奇心もありました。

名古屋の古書店で探し当てた
この本の発行年は、
僕の生まれた昭和52年で、
届いた本は、木箱に入ったまさに巨本です!!



この中に、
経本のような蛇腹の和装本2冊と、
洋装本2冊、そしてマンダラの軸が2幅、
同梱しています。

両手で抱きかかえるように、
蛇腹の和装本を本堂に持って行って、
広げてみました。

すげー。



仏の持つ圧倒的な、
雰囲気に見とれてしまいました。



参拝のお遍路さんも、
目を丸くして、

「こりゅあ寺宝ですな。」

と声を掛けてくれました。

***

しばらくして、
ラダックで御一緒した、
お坊さんから紹介して頂いた仏画屋さんが、
栄福寺を訪れるようになりました。

僕が、

「マンダラを探しているんです。」

と話をすると、

「ウチが買ったとこのマンダラ、
 観るだけでも観てみたら。」

という形で紹介して頂いたんです。

この人は、
日本のマンダラをネパールに持っていって、
ネパールの絵師にマンダラを描いてもらっています。

僕は、
その仏画屋さんからマンダラを購入したお寺で、
いくつかマンダラを見せて頂いたり、
話を聞いて、
この人のマンダラを栄福寺に納めることにしました。

いくつか種類がありましたが、
岩顔料で彩色された、
薄い色彩のブルーとグリーンが美しいと感じた、
マンダラを選びました。

日本のマンダラは、
金剛界曼荼羅と呼ばれる
金剛頂経というお経をベースにしたマンダラと、



胎蔵(たいぞう)曼荼羅と呼ばれる
大日経をベースにしたマンダラを、



同時に掛けて、
崇拝します。
(発生は別の時代、場所なのですが、
 中国に密教が渡った時に、
 こういうスタイルになったようです。)

マンダラは密教の
世界観やシステムを、
図像化した物なので、

「動く」

物だと言われますが、
座ってずっとマンダラを眺めていると、
本当に意識の中では動き出すように感じます。



そして、
密教特有の怒りに燃えた忿怒(ふんぬ)尊達の、
声が聞こえてくるようです。



胎蔵マンダラの、
一番外側の最外院にはサソリの姿まで登場するんです。



空海は、
このマンダラと長安で初めて対面した時、
どんな感情を受け取ったのでしょうね。

そして、
空海によって唐からもたらされたマンダラを
日本で観た人々の、
感動や心の動きを思います。



ずっと、
古い迫力があるマンダラがあればいいのにな、
と思ってきましたが、
新しいマンダラも、
ビビットな色使いで、うれしくなりました。

栄福寺の歴代住職も喜んでいると思います。


そして、
このマンダラ、
たくさんのお遍路さんから、
購入資金の一部を集めたいと思うんです。
比較的少額で、多くの人から。

その人達に、

「栄福寺 両界曼荼羅 建立」

という文字を彫った数珠を授けて、
仏教に参加して欲しい。
それを楽しんで欲しい。



仏具屋さんから、
あがってきたサンプルを見て、
もうひとつ思いつきました。

「できるだけ、
 たくさんの種類の木で数珠をつくれませんか?」

いろんな人が、
マンダラを納めた。

そのイメージを数珠に込めたい。

紫檀、正梅、縞黒檀、セン丹、柘(つげ)、
ひのき、鉄刃木、
などで作ったサンプルも上がってきました。
もうすこし、
つやを落としてもらったりして、
完成させようと思います。



考えてみたら、
僕の考えたオリジナル第1号になるな。



ミッセイ


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2006-07-16-SUN
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