坊さん。
57番札所24歳住職7転8起の日々。

第134回  生きている。

ほぼにちは。

ミッセイです。

今日、雑誌を読んでいたら、

I DON’T MIND,IF YOU FORGET ME.

という奈良美智さんの
何年か前の、
個展のポスターが紹介されていて、
久しぶりに見かけた、
このタイトルに、
本当にやさしくて、繊細な、
気分を、あらためて感じました。

「死んだ人を、思い出してあげてほしい。」

「死んだ人を、憶えていてあげてほしい。」

僕は、葬式や法事のたびに、
この言葉を、たくさんの人の前で、
発するけれど、

「僕のこと、忘れたって、かまわないよ。」

という言葉は本当に、
たしかに、
体の深いところまで、
僕に届いてきます。

「とうぜん両方」

で、僕が言いたかったのは、
表面的なことばかりではなくて、

こんな感じの、
おおいなる
2つなのかもしれないなぁと、
自分で思いました。


きのう、
小学生の遠足の子供達が、
栄福寺にやって来ました。
(しかも2校が同じ日に。)

「みんなは、干支は何年ですか?」

「さるぅーーー!」

「栄福寺の、大師堂の彫刻は、
 干支を彫ってるんだけど、
 羊だけ、隠し彫りしています。
 見つけた人が、いたら、
 大発見なので、
 僕に報告してくださいね。」

ダーッと、
たくさんの子供達が、
大師堂に駆けていきました。



「人がいっぱい、集合でいる。」

という、その姿に、
僕は、

「千年は、短いとも言えるなぁ。」

と、思いました。

僕は、坊さんなので、
千年以上前に書かれたテキストとか、
何百年も前に、造られた建物と、
接することが、
普通の人よりも、
たぶん、すごく、多いです。

そして、これはもちろん、
すごく、昔なんだけど、

「この子達の、生きる時間を、
 全部、足したら、3千年ぐらいかー。」

と思うと、
千年はわりに、近いという、
アングルも設定可能なんだなー、
と勝手なことを、考えました。

この近いという感覚は、
大切なような気がします。

遠いんだけどね。


四国札所には、
時々、外国人のお遍路さんも、
来られるんですが、
この前、僕が納経所に、
座っている時に来ていた、
外国人のお遍路さんは、
すこし他の人と、
雰囲気が違いました。

とてもあどけない少年なんです。

15歳ぐらいの白人で、
坊主頭なんだけど、
彼は、僧侶ではなく、
巡礼者だろうな。

と、なんとなく感じました。

とても、さみしそうな、
表情をしているのが、
印象的でした。

僕は、そのまま、
席を離れて、母が残り、
そのあと、
納経所で販売している、
小さな木彫りの薬師如来が、
なくなりました。

母は、状況から、
少年が盗んだのかなと、
思ったけれど、
見たわけではないので、
だまって、
その子の前で、

「なくなっちゃった。」

とだけ、言ったそうです。

少年は、そのまま、
お寺を、後にしました。

そして、数分後、
お寺に帰ってきた少年は、
顔を真っ赤にして、

「ごめんなさい。僕がとりました。」

と、母に薬師如来を渡したそうです。

僕は、彼が、どうしても、
薬師如来に、
手を伸ばさずには、
いられなかったことだとか、

それを、戻さずには、
いられなかったことを、
想像しました。




ミッセイ


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2003-10-14-TUE

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