坊さん。
57番札所24歳住職7転8起の日々。

第74回 暴力は、時に僕達の近くに。


ほぼにちは。ミッセイです。

今から書く文章は、
ちょっと前に書こうとして、

「もうすこし、時間がたってから、書こう。」

と、思っていたものです。



ある日、
僕は本屋さんで、立ち読みをしていた。
お客さんも、まばらな実用書コーナー。

その時、
僕は膝の裏側に、鈍い痛みを感じる。

“誰かが、ぼくを、後ろから、けとばした。”

でも、唐突すぎて、
それが学生の友達同士が、
交わすような乱暴な“あいさつ”のような
強さのものなのか、

“本気”で僕を、
傷つけようとしたものかは、
判断できない。一瞬では。

彼は本気だった。

“僕の足は本当に痛い。”

そして、ぼくは、
後ろを振り返る。
そして、相手を見る。

“僕は、この人をしらない。”

書店、でなくても、
不特定多数の客が集まる店で
働いたことのある人なら、
わかると思うけど、

彼は
“ほぼ毎日やって来る、心の病んだ人”
だった。

どの店にも、
そういうタイプの人がいる。
僕には、彼が、
そういうタイプの人だと、一瞬でわかった。

目と目が合う。
彼の目からは、
1ミリの感情も読みとれない。

でも、身体が怒っている。
震えながら怒っている。

恐い。
とても、こわい。

僕が、なにか、とりあえず、
言おうと、言葉を呑み込むと、

彼は、体を反転させて
猛ダッシュで、その場を走り去った。

僕は、少し、遅れて
本能的に彼の後を追う。

―犬の気持ちが、よくわかった。―

店の中に、
彼の姿はもう、なかった。

僕は店で働いている、
元同僚に話しかける。

「さっき、コミックから走っていった
 挙動不審の人、よく来るの?」

「ああ、いっつも。
 この前、なんか、学生と揉めてたみたい。」


僕は、家に帰って、
なんとなく不思議な気持ちのまま、

「さっきの暴力って、
 ホント、“避けることの出来ない”
 タイプの事だよなぁ。」

って、考える。

僕達は、色々なタイプの
“避けることの出来ない暴力”
に、どんな対応をするのだろう?
いったい。

答えは、うまくみつからない。

そして、冬の
ある出来事を、思い出す。

今年のお正月の三日。
僕は友達の女の子と二人で、
ちょっと離れたお寺まで、
初詣に来ていた。

「坊さんと寺に初詣なんて、
 ガイド料、高いよ。」

そんな、馬鹿話しながら。

行き交う人達の顔も、幸福そうだ。
平凡な日本の正月。
気難しい話はなし。
今日は、ナシ。

そして、参道を通って、
本堂に着くと、
そのすぐ隣に、
とても大きな看板が、
目に飛び込んでくる。

「アフガン空爆、断固反対!!」

細かい、文章表現は
違ったかもしれないけれど、
内容はこうだ。

“不可避な暴力への明確な立場”

確かにとても、明確だった。
そして、その明確さは
僕を少し、混乱させた。

「あなたは何を知ってるのだろうか?」

「僕は何を知らないのだろうか?」

気難しい話は、
今日もアリ、だった。
もちろん。

「なんかすげぇなぁ。」

なんて、言っていいか、
わからなかった僕は、
とりあえず、
こう口を開いた。なんか、すごい。

「なんか、すごいね。」

友達も、そう言っていたと思う。


ある、
坊さん達の会議の場所で、
僕は、そのお寺の住職と隣同士になった。

「お正月に参拝させて頂きました。
 お堂の看板も見ましたよ。」

「栄福寺さん。

僕のことだ。

 僕はね。今回の、ああいうことに、
 何も言わないのであれば、
 僧侶は、戒律を捨てるべきだと思います。」

「“不殺生戒”ですか?」

「そうです。捨てるべきです。
 そう思いませんか?」

僕は、僧になった時、
“生き物を殺さない”という
戒を受けた。

「よく、たもつか、否か。」

「よく保つ。」

僕も、そう答えた。

とても、明確だ。
そして、
すこぶるシンプル。

だけど、
僕は、再び考える。

いろんな事を考える。

避けられない暴力の対象が
僕の愛する人であった場合、
僕は、どうするだろう?

あなたは、どうするだろう?

その争いが、“国同士”の時、
僕達はどうするだろう?

明確な答えは、
僕の中には、今、ない。

でも、これだけは知っている。

避けられない、暴力は、
僕達のすぐ近くにある。

そして、
“その時”
僕達は、判断を求められる。

もう一つ、知っている。

僕や、あなたの中にも
“暴力”が、あることを
僕は知っている。

あなただって、知っている。

“その時”
いったい僕達は、どうするのだろう?

時々、とても、不安になる。

でも、
考えること、想像することは、
とても大切なことだと思う。

もしよろしければ、
みんなが、
避けられない暴力について、
どう考えるか、
聞かせてくれませんか?

あやふやなままで、
構いません。

これはたぶん、
あやふやさを、
たくさん含んだ、話なのです。

僕はそう思う。


ミッセイ

2002-09-08-SUN

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