この本の編集者から『ぽてんしゃる。』について。 永田泰大 ほぼ日刊イトイ新聞

糸井重里が書いた原稿とツイートから
さまざまなことばを選んでつくる本のシリーズ。
早いもので、今回で7冊目の出版となりました。
最初の本から7冊目の購入となる方も
いらっしゃるでしょうか。
あるいは、今回はじめてこのシリーズを知った
という方もいらっしゃるでしょうね。
いずれにせよ、興味を持っていただき、
ほんとうにありがとうございます。

そう、この本を編集するのも、7年目となりました。
思えば、けっこうな継続です。

1年に1冊ずつの編集を、7年間続けていると、
継続によってはじめてわかることが出てきます。
そのひとつの例をお伝えしたいと思います。

述べたようにこの「小さいことば」シリーズは、
糸井重里が書いた1年分の原稿とツイートから
ことばを抜き出してつくられます。
すると、できあがった本には、
糸井重里が「その1年をどう過ごしたか」ということが
なんとなくではありますが反映されることとなります。

当たり前といえば当たり前かもしれませんが、
6冊目、7冊目あたりの本を編みながら、
ぼくはしみじみと腑に落ちていたのです。
ああ、この本には、糸井重里の1年間が表れるのだなと。

むろん、本ににじみ出るのは傾向にすぎません。
もともと糸井の原稿には、経験そのものよりも、
経験から昇華した思いがつづられることが多く、
一日も休まずつづられるわりに
日記的な要素がほとんどありません。
けれども、いや、だからこそ、
本のなかには糸井重里の過ごしたその1年間が
大きな流れのようなものとして表れます。
そして、反対の考え方でいうと、
古い地層の石や落ち葉から、
その時代の気候やできごとが大きく推測できるように
出来た本から、その1年間を感じることもできるのです。

ですから、ぼくは本をつくったあと、
当の糸井重里本人にその傾向を伝えることがあります。
糸井さん、去年は、糸井さんにとって
こういう1年間だったんですよ、と。
定期検診のあとの、おおまかなの説明のように。
すると本人は、へぇ、などと言って
おもしろがったりするのです。

シリーズ7冊目となる『ぽてんしゃる。』は、
糸井重里が2012年に書いた原稿からつくられました。
つまり、この本には、糸井重里の2012年が
反映されているということになります。
糸井重里にとって、2012年というのは、
どういう年だったのでしょうか?

なんの免許も資格もありませんが、
ぼくが感じ取ったことをお伝えいたしましょう。
糸井重里にとって2012年というのは、
吉本隆明さんが亡くなった年でした。

2012年3月16日、
糸井重里が慕う思想界の巨人、
吉本隆明さんは亡くなりました。
震災からちょうど1年が過ぎたころのことでした。

以前から、糸井は吉本さんについて原稿に書きましたが、
亡くなってからは、いっそう書きました。
印象的だったのは、頻度よりも、
書くときの態度のバリエーションでした。
あえてそれを「ブレ」と呼んでもいいかもしれません。

あるときは冷静に、
あるときは感情を抑えながら、
あるときは本人以外のことを、
あるときは風景の描写として、
糸井重里は吉本隆明さんについて書きました。
その、書くときの視点の多さに、
糸井重里にとって吉本隆明さんが
どれほど重要な人だったかが表れているような気がします。

『ぽてんしゃる。』には、
そのさまざまな書き様を、できるかぎり掲載しました。
おそらく、これからも糸井は
吉本さんについて書くでしょうが、
こんなふうに、いろんな発し方をすることは
ないのではないかと思えたからです。

もちろん、さまざまなことばがあり、
ことばに限らず、いろんな魅力を
ぎゅうぎゅうと詰めたつもりですが、
この『ぽてんしゃる。』に
スッと通っている柱のひとつは、
糸井重里が吉本隆明さんについて書いたことばです。

個人的にいえば、
それは自分の師がその師について語ることばです。
なんというか、そこには、
自分の代には決してつかめぬ距離感があります。
当事者にしかわからない
生々しさとか遠慮のようなものがあります。
そして、そういうものをぜんぶ含めて、
ちょっと「うらやましい」と感じます。
たぶん、そこに表れているのが、
知識や言動ではなく「関係」だからなのでしょう。

今年の本はどうなるのかなと
思いながら毎年つくっていますが、
今年の本はこんなふうになりました。
装画をてがけていただいた
ほしよりこさんには、
シリーズを重ねるにつれて
少々固く重くなってしまっていたあちこちの関節に
ぷしゅっと不思議な油を
差していただいたような気がします。

また、例年に増して、
さまざまなゲストの方にご協力いただきました。
どういう人がどういう風に登場するのか、
どうぞご期待ください。

長くシリーズの本づくりを助けてくださった
凸版印刷の藤井崇宏さんは
この本を最後に直接の担当から
離れることになりそうです。
これまでたくさん助けてくださって、
ほんとうにどうもありがとうございました。

ブックデザインは清水肇(プリグラフィックス)、
進行管理は「ほぼ日」の茂木直子、
いつものチームで転がり回るようにつくりました。

こんな本がつくれる境遇の幸福をかみしめます。
ぜひ、お買い求めください。

ぽてんしゃる!


2013年7月