はたらくって、どういうことなのか

社会に出るということについては、
僕も含めて、みんな、習ってないんですよね。

はたらくって、こういうことなんだよって、
学校の授業では、聞いたことないじゃないですか。

もちろん、社会のしくみ、つまり
日本の第一次産業の割合がどうだとかね、
そういうことは教えてくれるでしょう。

でも、生きていくために、食べていくために、
お金をかせぐことなんですよって、
それ以上の説明は、あまり聞いたことがないし、
たぶん、学校の授業では
答えきれない質問なんだと思うんです。

だからみんな、「はたらく」ということについて、
過剰に深刻になってしまったり、
過剰に怖がったり、
あるいは逆に、ナメてみたりしちゃうんじゃないか。

そんな気がするんです。
僕の場合も、やっぱりそうでしたし。


それは、つらいだけじゃない

「社会ではたらくということは
 どれだけ、たいへんなことか」

そういうことについて言ってくれる人は、
僕のまわりにも、山ほどいました。

学校の先生や、学生時代の先輩なんかもそうですし、
「お父さんの仕事は、いかにたいへんか」とか
「社会ではたらくことをナメちゃいかん」とか
親が自分の子どもに話すことなんか、いくらでもあります。

だけど、その当のお父さんが、
仕事帰りによっぱらって、いい気分で鼻歌をうたいながら
寝ちゃうことだって、あるわけでしょう?

あるいは、仕事に打ち込んでいる大学の先輩が
いきいきと、かっこよく見えたりとかね。

つまり、ナメちゃいかんと言うわりには、
けっこう楽しそうにしてるじゃないかって気持ちは、
もう一方で、誰にでも、あると思うんです。

でも、そういうお父さんや先輩たちが
「本当は、こうなんだよ」って話をしてくれる機会は、
なかなか、ないんですよ。

「はたらくことって、楽しい?」とか
「仕事をするってどんなこと?」とか
「どうやったら就職できるの?」なんて聞いても、
その答えは、一般的な表現というか、
ひとつの「パターン」でしかないことが多いんです。

たいへんである、とか、ナメるな、とかね。


イチロー選手は、楽しそうじゃないか

にも関わらず、たとえばイチロー選手の話は、
みんな、おもしろいと言って、聞きますよね。

あれだって、仕事の話なんです。

あるいは、好きなアーティストや役者さんが、
僕は、わたしは、
こういうふうに仕事に取り組んでますって話は
おもしろいですし、こころに残ります。

彼らを見てると、楽しそうなんです。

「僕の仕事は、たいへんなんです」とか、
「ナメてちゃ、できないんですよ」だなんて
ひとことも言っていない。

「たいへんですけどねえ」なんて言ってたとしても
そのとき、その人は、きっと笑ってるでしょう。

それどころか、
バッターボックスに立たせてもらえることは、
ステージに立たせてもらえることは、
本当にありがたいことなんです、なんてね。

これだって、仕事の話じゃないですか。

楽しいんだって話を、真剣にしてくれるからこそ、
逆に、そのたいへんさや、
ナメてちゃできないんだってことが伝わってきたりもする。

だから、お父さんや学校の先輩が、
「はたらくって、楽しいんだぞ」
「仕事って、おもしろいんだぞ」という話をしてくれたら、
ぜったい、何かが変わってくると思うんです。

そう思ってはじめたのが「ほぼ日の就職論」だったし、
そこからうまれた本が、『はたらきたい。』なんです。


楽しくたって、仕事はできる

これから、はたらく現場に出て行こうとする
若い人たちは、
就職活動の「パターン」や「公式」ばかり
知り過ぎてしまったような気がする。

そこには、楽しいという話が、欠けてるんじゃないか。

はたらくって、たいへんなことばかりなんだと
思い込んでいる若い人の気持ちを、
ちょっとでも軽くしてあげられたらと思ってはじめたのが、
『ほぼ日の就職論』でした。

でも、いざ、連載をやりはじめてみると、
「就職論」とはいうものの、
それ以上に、
「はたらく論」とか「仕事論」とでも呼べるような
そんな連載に、なっていきました。

「一生を、自分として生きていくということは、
 どういうことなんだろう」というようなね、
より大きな要素も入り込んできちゃったんです。

民間の人事専門家や、キャリア論の研究者など、
いわゆる「就職のプロ」のかただけじゃなくて、
漫画家やミュージシャンなど就職していない人たち、
さらには「矢沢永吉」なんて人も、出てきます。

永ちゃんって、就職したことなんかないんですよね。
そういう人が、そういう人の話しかたで、
就職やはたらくことについて、真剣に語ってる。

そんな内容ですから、
なんで就職の本なのに永ちゃんが出てくるんだって
疑問でさえ、
読んでいくうちに、なくなっていくと思います。

楽しくたって、仕事はできる。

なんどか使ってきたことばで言うなら、
そんなことが伝わる本になったと思います。

2008-02-27-WED



(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN /// Photo : Naoki Ishikawa