この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース12「時代劇でござる」  学校を卒業して小さな会社で働き始めた頃の話。 電話の応対からお茶、事務まで すべてをこなしていました。 電話を受ける時は、とても長い会社名を 毎回言わなければいけなかったのですが、 そのことばかりに気持ちがとらわれていて、 「○○社長はいらっしゃいますか?」 という質問に対して、 「はい、いるでござる!」 と思いっきり言ってしまったことがあります。 はずかしかったぁ! (あさ) 〜『銀の言いまつがい』101ページより〜  客商売の妹は、ある日、 おばあちゃんのお客さんの 接客をしていて孫の話になった時、 「お孫さんは、おなごですか?」 と聞いてしまったそうだ。 (デビ) 〜『銀の言いまつがい』98ページより〜





こういった、「時代劇調」になってしまう
「言いまつがい」というのは、
突拍子もないもののように思えますが、
これまでに説明してきた「言いまつがい」と
構造的にはあまり変わらないといえます。

もともとの原因としては、
緊張する状況、あらたまった場面に
自分が置かれているということですね。
それによって脳が正常に働かなくなる。
そこで無理矢理にことばを探してきてしまうわけですが、
この場合は、「ことばが使われる状況」をもとに、
脳が別の表現を検索してしまったのです。

時代劇では、現代にはあまりない、
「身分の違う人と話す」という場面がしばしば登場します。
つまり、「あらたまる」ということの極端な例として
脳がそういった場面を記憶しているんですね。

たぶんこういう理由で、
自分が「あらたまった場面」に置かれ、
それによって緊張したときに、
「あらたまったことば」として、
時代劇の中に登場したことばを
持ってきてしまうというわけなんです。

時代劇調の「言いまつがい」をしてしまった人は、
「ふだん言ったこともないことばをなぜ?」
というふうに思うかもしれませんが、
ふだんあまりない場面に緊張するからこそ、
ふだん言ったこともないことばが出てきてしまうのです。

このパターンの「言いまつがい」がユニークなのは、
「ことばの発音」も、「ことばの意味」も、
「ことばが使われる状況」すらも正しいのに、
「ことばが使われる時代」が
間違っているということでしょうね。


・緊張して脳がうまく働かないとき、  脳は「よく似た状況」をもとに  ことばを選んでしまう場合がある。 ・ふだんあまりない場面に緊張すると  ふだん使わないことばを言ってしまうことがある。


2007-04-20-FRI



(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN