この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース10「似て非なる言葉」  先日、洋服を買いに行ったところ、 彼氏がふと子供服コーナーで立ち止まり、 「懐かしいな〜、これ。  幼稚園の制服で、俺、毎日これしてたよ。  エキスパンダー!」 ‥‥星飛雄馬みたいな ムキムキ幼稚園児を想像したのですが、 子供用のサスペンダーでした。 (ぽっちゃり) 〜『銀の言いまつがい』18ページより〜





もともとしっかりと理解していないことばや、
生活に密着していないことばを使うとき、
人は「言いまつがい」をしやすい。
また、怒りや緊張といった強い感情の振幅が、
脳の働きをさまたげ、その結果、
正しいことばを選べなくなってしまうというのは
これまでにお話ししてきたとおりです。

そういった「言いまつがい」しやすい状況になったとき、
人間の脳というのは少ない手がかりをもとに
正しそうなことばを無理に選んでしまいます。
突拍子もないような「言いまつがい」も、
よくよく検証してみると、
何かの手がかりをもとにしているということが
わかるはずです。

上に挙げた、
「サスペンダー」と「エキスパンダー」を
混同してしまうというのは、
「よく似た音」をもとにして
違うことばを選んでしまった典型的な例です。

単語の正確な表記や発音、
あるいは意味といったものを
十分に理解していないのに
そのことばを使わなければならない場合に、
似ているところを持った単語を
自分の記憶の中から探し出してきて
それを使ってしまうわけです。
「サスペンダー」と「エキスパンダー」は
意味としては無関係ですが、
音の類似性という部分では近いものがありますよね。





この「言いまつがい」はなぜ起こるのか? ケース11「失敬な人々」  友だちのMちゃんは、すこしぽっちゃり気味で、 気前と面倒見がいい女の子です。 あるとき仲よし6人で旅行に行った時も みんなにおやつを大盤振る舞いしてくれました。 「うわあ、ありがとう」とみんながお礼を言うなか、 細身美人で評判のJちゃんが、にこやかに 「ほんとにMちゃんって、  恰幅がいいよねえ!」 ‥‥一瞬笑顔のまま固まった私達、 ええっと、「ふとっぱら」かな‥‥。 Mちゃん、言いまつがいとわかっちゃいても、 すこしだけオカンムリでした。 (加藤) 〜『金の言いまつがい』146ページより〜





一方、こちらの「言いまつがい」は、
「よく似た音」ではなく「よく似たイメージ」で
ことばを選んでしまった例だといえるでしょう。

「ふとっぱら」と「恰幅がいい」というのは、
本来の意味は異なりますが、
それぞれのことばの喚起するイメージ、
なんとなく、大きかったり、
太ったお腹を連想させたりというようなイメージは
共通するものがあります。
そういった共通するイメージをもとに、
別の表現を持ってきてしまったというわけですね。

ことわざや慣用句の中には、
イメージは似ているけれども
意味がまったく異なるようなものが少なくありません。
そのことばを十分に理解していないと、
こういった「言いまつがい」を生みやすくなります。


・正しいことばがうまく選べない状況になると、  脳は、少ない手がかりをもとにことばを探し出す。 ・「よく似た音」のことばを選んでしまう場合もあるし、  「似たイメージ」のことばを選ぶ場合もある。


2007-04-23-MON



(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN