糸井 1年前、
『小さいことばを歌う場所』を
出したときになんと
「谷川俊太郎賞」の受賞を
谷川さんご本人から、
口頭で伝えていただきまして。
谷川 はい(笑)。いい本でした。
糸井 うちのスタッフが喜んで、
こんなものまでつくってしまったんですが。
一同 (笑)
谷川 そういえば、ぼく、賞品も賞金も、
なんにも出さなかったよね。
糸井 いえいえいえ(笑)。
谷川 なにかいま、急に後ろめたくなった。
糸井 とんでもない。
こちらからなにか差し上げてもいいくらいですよ。
受賞のお礼に。
一同 (笑)
糸井 ほら、ホールインワン賞みたいにさ。
谷川 ふふふふふ。
糸井 あの、「谷川俊太郎賞」というのは
過去をさかのぼっても存在しないんですよね?
谷川 うん。つくりましょうって
持ちかけられたことはあるけど、
「ちょっとそれは勘弁してくれ」って
断っちゃいましたね。
糸井 本気の「谷川俊太郎賞」は、
谷川俊太郎としては困っちゃうわけですね。
だから、まあ、これくらいがいいんだよね。
谷川 そうですね(笑)。
そういえば、「糸井重里賞」っていうのも
ないんじゃないですか?
糸井 ないですね。
いつか、つくりましょうか。
谷川 お互い、やりっこしてね。
糸井 そうそう(笑)。
谷川 はははははは。
糸井 ええと、それでですね、先日、
『小さいことばを歌う場所』の続きというか、
つぎの1年をまとめた本がまとまりまして。
『思い出したら、思い出になった。』
という本なんですけど。
谷川 はい。読ませていただきました。
糸井 ありがとうございます。
で、最初に白状しておくと、
これ、ぼくは内容にはかかわってないんですよ。
前の『小さいことばを歌う場所』も
そうだったんですけど、
このシリーズに関しては、
ぼくは外側にだけ徹底的にこだわるんです。
つまり、タイトルであるとか装丁とか、
いわゆる見栄えの部分については
みっちり話し合っていく。
で、中身は、担当者にお任せして、
まったくノータッチなんです。
谷川 なるほど、なるほど。
それはすごく正しいと思う。
糸井 あ、そうですか(笑)。
谷川 全部、自分が書いた原稿であるのは
間違いないんですよね。
糸井 はい、書いてます。
こう、ぱらぱら読むと、
「ああ、たしかに書いたなあ」
ということばかりなんです。
谷川 それは、本のつくりかたとしては、
とってもいい方法だと思いますね。
糸井 あの、前の本のときもそうだったんですが、
正直、すごく不安があるんですよ。
「オレ、抜き出して1冊の本になるほどのこと、
 書いた覚え、ないよ?」っていう感じで、
大丈夫かなと思うんですよ。
とくにこの『思い出したら、思い出になった。』は、
去年1冊出したあと、間がないような気がしたから
「つくれないんじゃないか?」って本当に思った。
谷川 あのね、それが、すごくいいんですよ。
自分で「そんなたいしたこと言えてない」って
思えるからこそ、読んでるときに、
こう、軽くていいんですよ。
そして、軽いんだけど、深みはあるの。
糸井 ありがとうございます(笑)。
谷川 この本は、ある種、
人生論という面を持ってると思うんだけど、
ふつうの人生論的な本というのは、
言ってる人のポーズというのが
前面に出てしまっているものが多いんですよ。
つまり、すごくいいことを言ってるんだけど、
「山奥に住んで、ヒゲ生やして、
 老子を勉強しました」みたいな(笑)。
ところが、糸井さんと、この本はね、
一種の透明感がある。
作者と本の透明度がいいんですよ。

(続きます)

2008-04-18-FRI



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