YOSUI
井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第9回 露天風呂では悩めない



糸井 家族旅行……、井上さんはどうだか知らないけど、
ウチの例は典型で、カミさんがいて
子供がいて、どっか旅行に行きますよね。
僕はリーダーって言われるんですよ。
冗談なのか、本気なのか、
いちばん都合がいい言葉なんですよ。
敵(カミさん&子供)は僕のことをリーダーと呼んで、
「それはリーダーがやってくれるから」と言う。
で、俺はふだんから
リーダーをやりたくないと思って生きてるのに、
その場面ではリーダーをやってるわけですよ。
「次の飛行機は何時発だから、
 どこそこに何時に集合すればいいはずだ」って。
そうやって大きくなるんですよ。

「肉の焼き加減はどうしますか?」と、
インドネシア風英語で料理人に訊かれたんだと思って、
「ミディアム」と僕が答えれば、
あとの2人も「ミディアム」と答えるじゃないですか。
ところが、その時、ほんとは、
その料理人は「ワタシは○○です」って、
自己紹介していたんだよー。
そういうところで失敗を重ねて、
耐性を作りたい(笑)。
だって、井上さんだって、
書類にハンコ押す仕事もしてるんでしょ?
井上 今はしてないけどね、
……時々するよ。
糸井 「この件、どうしますか?」と聞かれたときの判断とか、
その時はもう「わからない」とは言えないでしょ?
井上 うーん…………。
いや、でもホントに、わからない……。
……でも押してるかなぁ、
じゃないと先に進まないんで。
糸井 できれば、訊かれたことに、ずっと答えないままに、
100万個の答えないものを
そのまま棺桶にもっていきたいでしょ?
井上 それ……あるねえ。
それがいちばん正直なところでしょう(笑)。
糸井 時には、暫定的に、ある答え方をしてみて、
仮想の美しい答えを置いてみて、
それを眺めたりして、っていうこともあるよね?
「おかげで今日は1日安楽でした……」
という歌もきっと作ってるよね?
いいなあ、楽しそうだなあ(笑)。
井上 なに……言ってんのかしら?
しかし、この間、言ったっけ?
さすがにどんなに悩んでいる人でも、
温泉の露天風呂に入ると、
「ここじゃ悩めない」って。
これ、ちょっと信じられるんだよねえ。
糸井 いや、ああいう生理にくるものって
もっと大事にしないとダメだね。
「脳だけで考えるのをやめましょう」
というのが、今の僕の気持ちで……。
よく昔から僕ね、番組の企画でも、
コマーシャルでも、なんか冷たい感じがしたときに、
「火を焚こう!」って言ったんですよ。
『イトイ式』という番組をやってたときに、
真ん中に“鍋”を置いたのは……、
僕が「どうしても」と言ったんですよ。
たとえば、場がシラケちゃったとき、
そこに暖かいものがあればいい、
温度さえあれば、なごんでても大丈夫だって。
それと、温泉の話って同じですよね?
井上 うん。
似てるよね。
糸井 ちっとも“BAD”の話じゃないけど(笑)。
井上 温泉の話になっちゃった(笑)。
糸井 いや、いろいろ解決したいから、
“BAD”を出すんじゃないですか?
良い悪い、2つだけから選ぶのもイヤよね、
という気持ちも込めて“BAD”を出す。
でも頭に“GOLDEN”をつけている。
で、お客さんはどうとらえるか、って言ったら、
また「素敵!」って言うかもしれない。
井上 でも、その、
ギャンブルとかそういうので言うとさぁ、
まあ、すべてそうなんだけど、
たとえばルーレットなんかだと、
赤と黒という賭ける場があって、
赤、赤、赤って賭けたとしたら、
次は黒に賭けて……。
つまり、内角ばかりせめてたら、
次あたりは外角で……、
ってこともありますよねえ。
糸井 そうか! 表裏ではなくて場所なんだ。
内角、内角、外角という話はよくわかりますね。

(つづく)

2000-08-03-THU

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