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井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第8回 “3年殺し”とか僕は言うわけですよ

糸井 僕がピラミッドを実際に見て思ったのは、
宗教性でしたね。
たぶんさー、そのころの人々にはさ、
神様が見えたんだよ。
どう見えたかは想像もできないんだけど、
たとえばの話、俺たちが子供の頃に
「そんなことするとキツネが来るよ!」と言われたとき、
実際はいなくても、キツネ……見えたじゃない。
「お化けはいる」って感じられたじゃない。

で、ピラミッドの話で言うと、
神と人間との一体とした社会があった時代に
ピラミッドを作ったのだとしたら、
それはごく自然に、
「そうだ、作るべえや」と思えただろうし、
あと、我と汝と彼の差なんて、そんなになかった時代で、
思い出もそんなになかった時代ですから、
ピラミッドは一生懸命に作ったんだと思いますよ。
というのが、ピラミッドを前にした場面でわかるんですよ。
で、その感動は、本当にうれしかった。
「俺は今まで、ロックのふりして
 見ないようにしてたことが多すぎる」と。

で、そのあたりから、いろんなものの……、
そうか!
思えば、ああいう映画を俺たちが見た時代って、
レッドパージの時代に、
居残った左翼思想とかを持った人が
後に表現者になったりしてて……、
で、自分の人民史観みたいなものをかこつけて、
表現してたんだなあ、
という時代背景を考えると、当時の映画で、
“労働する大勢はいい人で、王は悪い人”という映画を
アメリカがたくさん生み出したというのは……。
井上 生み出したよねぇ……。
糸井 「そっか! 仕組みの外側に
 もうひとつ仕組みがあったんだ!」と。
「どっちの言い分もずいぶん勝手なもんだなあ」と。
早い話が、
「今の自分を生きやすくするために、
 表現というのはあるんだなあ」って思った。
スッキリはしないんだけど、もっと見てやろうと。
「今の自分を生きやすくする」って、
最近発明した言葉なんだよ。

で、たとえば、同じような神話で言うと、
ヨーロッパ人が日本の春画を見て、
日本人はみんな凄いでかいチンチンしてると思って、
「オー、ウタマロ!」と言って喜ぶというのを
大人たちが話したり、文章にしたのを
読んだことがあるんですよ、子供心に。
で、あんなにでかいわけないだろ、ってのは、
実際に知ってますよね(笑)。
「バカだなあ、白人て」って思ってたんですよ。

で、大人になって外国人と付き合うようになって
そのことを思い出すと、
「そんなこと信じてるヤツはいないよ」
って気づくんですよ。
とすると、ヤツらは面白がってたんだ、と。
つまり、日本人のチンチンは本当に大きい、と思って
「オー、ウタマロ!」と言ったんじゃなくて、
「この国(日本)の人たち、この民族は、
 どうしてアノ部分だけ、こんなに大きく書くんだろ?」
ってことに、「オー、ウタマロ!」って
思ってたんだとすると、符合するんですよね。
……というようなことを考えるのが、
俺、趣味になったんですよ。
井上 ……ちゃんと発表してるの?
ほぼ日に。
糸井 してない!
そういうネタいっぱいあるんで、
小出しにしてるわけ。
言われてみれば、たぶん俺の意見、合ってますよ。
春画で見たとおりに、デカイなんて思う、
そんな野蛮な人はいないよねぇ(笑)。
だから、「外人が、そうであって欲しい」という、
戦争に負けた日本人のイデオロギーが、
自分の都合に合わせて白人をバカにしたいときに、
考えついたんだよ、きっと。
で、表現とか、考え方とかって、
いつでもそうやって自分の都合に合わせて
無意識にねじ曲げている。
井上 それ、あるよねえ。
だいたい、絶対正論っていうのは怪しいもん。
糸井 怪しい!
あくまで“その人の”正論なのよ。
井上 そうなの。
正しい話は怪しいのよ。
糸井 だから、そうじゃない生き方をしてる人を見ると、
ジーンとくるんですよ。
たとえば、正論とか言う人のこと考えたときに、
「本当にやれよな!」って言いたくなるじゃないですか。
今の時代に生きてて、エラそうなこと言う人に。
で、本当にやった人の話って、時々ありますよね。
シモーヌ・ベイユのように。
それこそ、裕福な家に育って、
ものすごく学問を追及してて、
工場労働者になっちゃったというね。
で、「それが私の生き方なんだ」と選んだ人がいると、
それはそれでどういう構造なんだろう?
と気になるわけですよ。
……でも、それも違うよね。
「辛ければ辛いほど、私の魂は磨かれる」と言われても、
人に押し付けられないじゃないですか、それは。
僕、けっこう、井上陽水型な部分もあるんですよ。
だから、問われると困るんです、いつも。
井上 (笑)鏡を持って……と。
糸井 鏡を持ってる人がいるのは知ってるんだけど、
(陽水さんの口調をマネして)
「それ、アナタ、答え知ってるの?」って訊くと、
「知らない……、じゃあね」って帰るじゃない(笑)。
僕が井上さんを“テロリストだ”と言うのもその部分。
痛くないところを刺されても、血が出ても治るじゃない。
でも、井上さんは、
「そこ刺すと、押さえたまま生きなきゃいけないのよね」
ってところを刺しにくるから、
“3年殺し”とか僕は言うわけですよ。
で、井上さんの歌の中にもそれ入ってるわけだしさ。
本当にやなヤツだと思いますよ(笑)。
井上 僕は、自己を改革したいと思ってますんで……。
そういうところを矯正して、
なくしていかないと、と思ってますよ(笑)。
糸井 なくしてる場面は、ありますよね。
たとえば、家族旅行とか行くときは、そうですよね?

(つづく)

2000-08-03-THU

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