YOSUI
井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第7回 怒ってますよ、復讐してますよ、あの歌は



井上 あの……糸井さんも、そうかもしれないけどさ、
僕たちってさぁ、どう転んでもね、
マルクス・レーニン主義まで話がいっちゃうんだけど、
ああいう時代の学生運動とかさぁ、
つまり、体制に対しての
ある種の刷り込みってすごいと思うのよ。
「もうそういう構図は変わった」と言いながらも、
それはもう根深いねぇ。
刷り込まれてて……。
糸井 井上さんでも?
井上 そりゃ、やっぱありますよ。
つまりその……権威とか、大衆に対してね、
基本的に反発してるというのが、
なんて言うのかしらねえ……。
刷り込まれてるのか、
もちろん刷り込みもあるんだけど、
普遍的に正しい視点なのか……、
……どうなんだろうねえ(笑)。
糸井 ほおー!
そうなるとさー、じゃあやっぱり『傘がない』って
ものすごく大メッセージとして作ったんだ?
井上 いや、そんなものではございません(笑)。
糸井 いや、そりゃ、逃げられなくなるよ。
井上 えっ?
『傘がない』が……大メッセージで?
糸井 あの歌を、人々はさんざん、
大メッセージとして使いましたよね。
井上 まあ、当時みたいに構図がはっきりしてる時代はね。
わかりやすい形で、意味がとれるよねぇ。
糸井 で、たしかに、あの歌を作る動機なんて
ほかにはないんだからねぇ。
ものすごく大脳が動いて作った歌だとは
言えるとは思っていたけどね。
そこまで、あの時代の影響があると思わなかった。
すっごいびっくりした。
井上 ……なにを言ってるの?
どこでびっくりしたのか……僕はわからない。
糸井 怒ってますよ、復讐してますよ、あの歌は。
それはね、
「野球部で泥まみれの青春を送っていれば
 それはそれで自分で納得できるだろうよ。
 デモ隊で殴られたり、パクられたりして、
 『正義が……』とか言ってればわかるだろう」と。
「オマエらそこでわかってていいのかよ?」
という復讐心を感じますよ。
「その甘さが俺は許せない」みたいな。
井上 うーん……、
言われてみれば(笑)。
糸井 ものすごくプロテストな歌ですよ、『傘がない』は。
で、それを半端に利用する人にさえも、また怒るよね。
さっきの吉行淳之介さんの話じゃないけどね。
で、ブーメランのように自分に戻ってくるから、
「ちょっと今、黙らして」とか……。
井上 しかしさぁ……、
吉行さんの話がまた出てきたから思いだしたけど、
吉行さん、徴兵検査で合格して、結局は喘息で
4日くらいで除隊するんだけど、
その4日間は大変だったみたい。
吉行さんみたいな人間が軍隊に……、
問答無用の世界に入ってさ、
軍隊なんて想像しただけでゾッとするんだけどさ。
ああいう人が……吉行さんくらい
「イヤなものはイヤだ」って思っている人はいないよ。
まあ、「イヤだ」って言う人はたくさんいるけど、
吉行さんからは「ま、いいか」ってものを
あんまり感じないんだよね。
で、ああいう人が、軍隊という組織の中で……。

あの……俺、ちっちゃい頃から、
軍隊とか野球部とか、ああいうところって、
すごく怖さがあったねぇ。
昔、『二等兵物語』っていうのをよく見てて、
兵隊が上官にいじめられるんだけど、
柱があってさ、「セミやれ!」とか言われて、
「ミンミンミン」とかやるんだけど、
まあ、大変よねぇ……肉体的にも、精神的にも。
ああいうの怖いなーって。
糸井 ……怖いです。
俺もあのへんの映画は怖かったです。
だから、俺、戦争モノはぜんぶ怖かった。
そのうちだんだんと自分の粘膜みたいなものが
皮膚化していって、見られるようになったんだけどね。
「要するに、作り物じゃねえか!」
って思えるようになったんですよ。
で、よーく聞いてみると、
そういうのが怖かった人たちが
表現者という仕事に就いているんです。
で、映画を作るときに、怖く作ったりしてるんですよ。
そういう面もあるんですよね。
「ちょっと楽屋裏をのぞいてみれば……」という。
そういう「怖かった部分を強調している」のを
はがすのも仕事だし。

僕ね、そういう話で大転換があったんです。
『ピラミッド』を観たときなんですよ。
ピラミッドを作ってるシーンが、
軍隊モノ以上に悲惨に出てきたじゃないですか。
必ずヨボヨボの老人が重い石を引いてて、
必ず水が飲みたくなってバッタリ倒れて、
で、必ず若者が「この老人を何とか助けてくれ!」
って言って、2人ともムチで打たれる。
官吏の方はただひたすらに悪いヤツで……。
まあ、ああいうシーンって、けっこう刷り込まれてて、
「ピラミッドなんて、そうでもしないと作れないだろう」
って思ってたんです。
で、エジプトに行って
実際にピラミッドの前に立ったら、
「そんなはずはない!」ってわかったんです。
井上 それ……すごいねえ。
よくわかったね。
糸井 「イヤイヤやってる仕事で、これはできない!」と。 
そのときに俺ね、大人でよかった、と思ったの。
そのときから、
「ピラミッドを1回は見たほうがいいよ」
って言えるようになったの。
井上 ……実はね、えーと、2、3日前ね、
なんかそういう番組を見てね、
まさしくその、作り方としては、
今話に出た映画みたいでさ、
労働してる老人が水欲しくて倒れて、若者がかばって、
ムチを持った人が「なにをしてんだ、働け!」と。
で、老人を見捨てて石を引っ張ると、
丸太だかピラミッドの石だかが、
倒れた老人の上に乗っかって……。
で、当時はそういう感じで作られたんじゃないかと、
ずーっと言われてたけど、実はそうじゃないんだと。
洪水が起きて、ほとんどの人が仕事をなくして、
当時の王様が、その……民を助けるために、
なんか、そういう事業をしたのであって、
だから、あの……世直し?
人助けみたいな状態だった、って。
糸井 経済的な視点から見たピラミッドですね。
井上 ニューディール政策みたいな(笑)。
糸井 政治経済の視点だ(笑)。
井上 ただ、その番組は、
ずいぶんそういうふうに決めつけてたから、
それはそれで、僕としても……、
いや、よくあるじゃない、
古い学説が実は違うんだ、なんて言うとさ、
新しい学説が正しいんだ……なんてことになって、
「それはそれで怪しい」と思ったんだけどね(笑)。

(つづく)

2000-08-02-WED

BACK
戻る