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井上陽水・
ゴールデンバッド対談。

井上陽水のB面は、一筋縄ではいかないぞ。

第6回 欺瞞がにおってくるでしょ

井上 クマさん(篠原勝之さん)……、
あの人は達人というか、
なかなかな人なんだけど、
ときどき、達人ではないって言葉も
酒場なんかで聞いたりする(笑)。
あの人(クマさん)が
日本語のわからない外国人に
日本語でしゃべりかけているのを見てると、
相当なレベルだなって気はするけど(笑)。
糸井 すごいよねえ。
外人に向かって「で、オマエどうしたんだ?」
とかやってるよねえ(笑)。
井上 (笑)レベル高いよねえ。
今サハラ砂漠がどうした、こうしたって話だし……。
糸井 モロッコにいるとかって言うんでしょ?
メールとかの通信もマメにやったり、
ちゃんとポール・マッカートニーなことも
やってるんだよねえ。
山本寛斎さんといるとかって話だね。
井上 まさしく、ポール・マッカートニー的なね、
社会人としての……。
糸井 過不足なくね。
すごいよ。
そりゃだけど、そういう考え方って
僕なんかとも、相当近いところがあるんだけど、
いったん忘れようってことが
ものすごく多いんですよ。
まあ、井上さんもいったん忘れてるから、
“BAD”という形で
固めて出したりしてるのかもしれないけど。
溜まりに溜まっちゃったんですか?
“GOLDEN BEST”は自分にとって、
「あら、こんなに売れちゃった?」っていうような、
「弱った……」というくらい売れたでしょ?
井上 弱りはしませんが、
思いのほか……好評で。
糸井 その揺り返しはあるんですかね?
「私をそんなにつぶらな瞳で見つめないで」みたいな。
井上 まあ、恥ずかしながらねぇ。
「決してそのようなものではございません」って、
名刺を配らなきゃいけないようなー……。
糸井 たけしさんが『北野ファンクラブ』を
ずっとやってますよねえ。
あれも“BAD”な面ですよねえ。
予算少ないのをわざと丸出しにして、
“世界の北野”がやってるわけじゃないよ、みたいな。
ああいうことしないと、壊れるよね、人って。
だけど“逆”は困りますよね。
井上 「もともとワルで通ってるのに、実は……」という。
糸井 ワルで通ってるのに、逆をやって、
そっちでオカミサンたちの票田を集めたり、
正義の講演をたくさん引き受けたりってのは、
そういうのを見ると、それ、マズイよねえ。
ワルのほうまでウソっぽく見えてきますよね。
井上 でも、本当に物事っていうのは難しくてさぁ。
まず、ロックが出てきたってことを
簡単な図式で説明するとさー、
まぁ……「ロックが出てきた」って言葉も変だけど。
なんか……白人のね、白人を中心とした、
たとえばアメリカならアメリカでの
ひとつの統制された世界があったりしてさ、
それから、ジャズとかなんかが
出てくるんだけどぉ……、
そこからまたロックになっていくわけだけど、
アンチ体制みたいなものが出てくる。
ところが、アンチ体制みたいなものが
力を持ちはじめて主流になっていく……。
そこでまた、ホテルの窓からピアノを投げたり、
ギターも投げたりしてみたりね、あと壊すとかね。
まあ、最初はうっかり驚いたりするけど、
2度も3度も続くと、
なんかこう、欺瞞がにおってくるでしょ(笑)。
糸井 逆欺瞞!(笑)
井上 (笑)「どうも怪しいなコイツら……」、
みたいなものになるよね。
糸井 だから、そういう人たちは、
文化勲章をもらうときのような……、
子供が生まれたときの態度みたいなのが
問われたりするんだよね。
「それ、子供かわいがってる姿、まずいでしょ」という。
井上 それで、さっきも言ったように、
たけしさんが、立派な映画の賞をもらったりさぁ、
いろんなことで……、
その対極で北野ファンクラブなのね。
お尻見せたりね。
糸井 まだ尻見せてるからねー(笑)。
井上 で、一般的には、それはすごく
拍手を贈るような対象になってて、
「さすがだね」みたいなことなんだけど……。
たけしさんは立派な賞をいただいて、
それだけじゃあ、あれだから、
ちょっとダーティなところもあった方が……、
みたいな構図がさぁ、
まあ、ある種見えるわけじゃない。
糸井 うあわぁ、そこまで考える。
いやあ、そこまで“BAD”なんですよって
言いたいじゃないですか!
井上 これもまあ、復讐したいわけよね。
そこまで見えた流れになってるのかな、
ってところがね、ちょと自分自身でも……(笑)。
糸井 「北野ファンクラブ」というところで収まるし、
「陽水おもしろい」ってところで収まるんだけど……。
井上 人は「さすがねぇ」とか言うんだけど。
糸井 その二項対立は今はもう通用しないということを、
たけしさん、わかってますよね。
陽水さんにも、その思いあるでしょ。
「じゃあどうすんだ!?」でもないですよね。
さっきの、文化勲章どうする? という話で
答えが出ないのと同じで。
井上 あの……これは叙勲じゃないけど、
扇千景さんにも驚くんだけどね、
「うそー」みたいなね。
あの、なんていうのかね、
僕の“BAD”とか、「北野ファンクラブ」とか
そんな姑息なことはしないと。
大土俵入りっていうの?(笑)
糸井 そういう点で、すごいと思うのは篠山紀信さん。
あの人は一度だって、“BAD”とか
そういうことはしないけれども、混ぜてますよ。
今度のカタカナ名にしたこともね。
井上 カタカナ? それ知りませんでした。
糸井 「シノヤマキシン」というカタカナの名前で
再デビューしたのよ、別におおげさにではなく。
で、チャカチャカっと撮るような、
軽いヌード写真集を5冊くらい一気に出したのよ。
別にそれは、「どうだ!」ってことではなくて、
「こういうのお前ら好きだろう?」って。
と、同時に相撲協会の仕事で、
お相撲さん全員の写真っていうのも
篠山先生が撮ってるんですよ。
お相撲さんをみんな国技館に集めて、
隅から隅までお相撲さんで固めて、
それこそ拡声器を使うようにして、
「はい、撮りまーす!」って指揮をとる。
篠山紀信以外でその仕事できる人いないでしょ?
“GOOD”も“BAD”も超えてるじゃないですか。

(つづく)

2000-08-01-TUE

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