── 宇梶さんのお姿は、
テレビのドラマや時代劇で
ほんとうにたくさんお見かけしますが、
これまであんまり「お父さん」を
演じている姿を拝見したことがなかったです。
宇梶 いや、何回かありましたよ。
今回の映画には、タイトルに
「お父さんの」って、ついていましたから、
特に「父親って?」というようなところを
意識してやりました。

これから7回の連載で語りまくり。
よろしくね。
── 映画のふしぶしで、宇梶さんが
「父親の表情」をしているのが
とても印象的だったんです。
ああ、この人はお父さんなんだ、と
思うシーンがたくさんあって、
その瞬間いちいちが心にせまってくるんですよ。
宇梶 俺は実際に人の親でもありますから、
父親をやらせていただくときは、
ありもしない「いわゆるふつうの父親」を
想像して演じるよりも、
自分のからだを通したものを
やればいいのかな、と、思っていました。

映画のクランクインの前に、監督から
「あれこれ考えなくていい、
 牛之助(主人公の名)は
 自分だと思ってやっていいから」
って言われたんです。
自分も、脚本を読んだときに
「これは俺に似たような感じの男だなあ!」
って思った。
そういえばこの前、取材の事前アンケートで
「宇梶さんと牛之助の
 共通点と相違点を答えてください」
という質問があったんですよ。
── 共通点は?
宇梶 「あきらめが悪いこと」。
── 「あきらめないこと」ではなく?
宇梶 「あきらめないこと」だと
きれいすぎる。
俺はそんなタマじゃないですからね。
相違点は、
「うーん‥‥」って考えてわかんなかった。
「見あたりません」と書いといた(笑)。
── じゃあ、牛之助は
宇梶さんそのままなんですね、きっと。
宇梶 そうかもしんない。

この人が下田牛之助さんです。
── リングの中から子どもへ向けるあの顔は、
忘れられない表情です。
宇梶 ありがとうございます。
でもあれは、
「俺がこれをやって観客のハートをつかむぜ!」
と思ってやったことじゃないんですよ。
俺は、特別なことは何もできないと思ってる。
特別なことができると
思っていることが、
若さなんだ
と俺は思います。
結局、自分がいままでやってきたぶんしか
できないんです。

役者として舞台を踏みをはじめたころは、
それはそれは思っていましたよ。
「よし、これから俺は
 誰にもできないようなことをやってやるぞ」

それはまるで子どもが、
自分の実力や社会、周囲を見ないで
「プロ野球選手になる、モー娘。に入る」
と言ってるのとまるで同じだった。
もう20歳にもなっていたというのに。

スターになりたいとか、いい役を取りたいとか
自分の「いれもの」のことばっかり考えてた。
自分の中身に目が向いていなくて、
情報だけで胸膨らましていました。
それもこれも、だいじな種だったことには
違いないんだけど。
── 「いれもの」のことを考えなくなったのは
いくつくらいのときからでしょう?
宇梶 それはね、あるとき、
2行や3行のセリフも
覚えられなくなったことがあるんです。
つまり、まあ、
2行や3行のセリフの役しか
与えられない俳優だったわけですけれども。
── そんな時代があったんですね。
宇梶 うん。
そのときの俺には、その2行や3行が
「命」なわけじゃん?
ポケットにあるのは、せいぜい
最後の千円札1枚くらいなもんですから。
そこにしがみつくし、
「ぜったいここで勝負して
 俺は何かをやってやるんだ」
って思ってると、
その2行のセリフが、
何百回読んでも覚えられないんですよ。
── まったく覚えられないんですか?
宇梶 いや、1回は覚えられるんだよ。
台本見て、覚えて
「よし、明日はやってやるか!」
なんて煙草を一本吸ったら
「‥‥ちょっと待てよ」
となって、あわてて台本をめくる。
それを本番直前までくり返すんです。
── !!

何度やってもセリフが覚えられなかった。
宇梶 もう、そういう自分に飽きちゃってね。
ちょうど30になったときに
変わったの。
── きっぱりと、ですか?
宇梶 そう、あのね、
「時のマジック」って、あると思いませんか?
大みそかと元旦は、まあ言えば
6月8日と9日みたいなもんじゃない?
おなじ24時間のはずなのに、
なにかそこで、
はずみをつけていったり、
いらないものを置いていったりするでしょう。
誕生日もそうだしさ。
よきにつけあしきにつけ
人生にものを刻んでくれるわけですよ、
「時」っていうものは。

30になったときに、ふと
誰からもほんとうに必要とされてない自分を、
ブワーッと感じたんです。
そこで、もういいや、と思った。
がんばってもしょうがねえな。
そう思ったときから、
1回見たらセリフを覚えられるようになりました。
── 不思議ですね。
宇梶 でしょう?
でも、そういうことを、
自分で「なんじゃ?」ってほじくり返して考えると
また覚えられなくなりそうだから(笑)
考えないようにして何年もきました。
ようやくそれがからだになじんだから
お話できるようになったんだと思います。

 
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2004-11-04-THU


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