じぶんで決める、じぶんの仕事。 『アルネ』の大橋歩さんに、糸井重里が聞きました。
 


第1回 「ボツにすること」は大橋さんにもありますか?

糸井 今、大橋さんと控え室でしていた話が
面白くて、やめたくなかったほどでしたね。
大橋 ええ(笑)。
糸井 ほんとは順序立てて
いろんなことを話していこうという
建前なんですけど、
控室での話をそのまま
続きからやりませんか?
大橋 そうですね、よろしくおねがいします。
糸井 「ボツ」についての話をしていたんです。
僕が今、ほぼ日刊イトイ新聞で
「気まぐれカメら」っていう、
一日に何枚かの写真を出して、
ちょっと文章を書いているコーナーが
あるんですが、それを、
大橋さんが楽しみに見ててくださっていると。
もともと僕は写真を撮るのが
嫌いだった人間なのに、
もう一年近く続いていて、
大橋さんも
「あんなふうに
 私もやろうと思ってやったんだけれども、
 なかなか続かないんですよね」と。
「いや、あんまり考えないで
 やれるようになったものですから、
 僕は楽なんですよ」
とお伝えしたんですが、
それだけでは足りないような
気がしたものですから、
「実はですね、写真を出して
 文章をちょこちょこっと
 書いてるんですけど、
 気に入らなくてやめて
 差し替えることとかもあるんですよ」
っていうお話をしたんです。
つまり、気軽にやってる風だけども、
あれは気に入らないから
引っ込めてやめちゃったっていうのが
あったりする。それで、そういう
「ボツにすること」っていうのが
大橋さんにもあるのかな、
とお訊ねしたんです。
大橋 はい。
糸井 で、大橋さんは「たまにあるんです」と。
大橋 そうですね。
糸井 そのボツにする理由というのは、
自分で決めるわけですよね?
大橋 そうですね。
私、これは下手かなあとか、
ちょっとこれはまずいかな、
という理由でボツにすることは、
ほんとうに、たまにしか、ないんです。
最後にボツにしたのって、いつだったかな、
というぐらい稀なんですね。
描いている途中で
「ちょっとこれはよく描けないな」
と思うことが、あっても、
そこでやめてしまうということはしないで、
最後まで全部、描いてしまうんです。
最終的にはそういうことをしたことで
よくなってるっていうか。
糸井 だめだなと思ったものが、
最後まで何とか頑張ったらよくなっちゃうと。
「これはちょっと」と気が付いても
そのままいくと、まずは。
大橋 そうです、そのことの方が多いですから、
途中でやめるっていうことはほとんどないですね。
あ、これ、まずいなと思っても、
やめにしない。
糸井 僕がさっき、
「気まぐれカメら」の写真を差し替えたっていう話は、
『アルネ』とほぼ日は共通点がある、
という話でもあるんです。
つまり、「自分が決められる」っていうことなんです。
大橋 そうなんです。
 
 
   
大橋さんが創刊した雑誌『アルネ』
現在、18号まで刊行されている。
糸井 つまり相手がいいだの、悪いだのって
いうことはどうでもよくって、
自分でこれがよくないとか、いいとか、
これでもいいか、とか
決められるものなんだ、っていうこと。
ウエブで夜中に出したものを、
3人ぐらい見た可能性あるかもしれないけど、
ほんとに出して一分で替えちゃう権利を
ぼくが持ってるんです(笑)。
大橋 ああ、そうですね。
糸井 で、ちょっと贅沢に
「もっといいの思いついたから」
という形でも、替えられるんですね。
大橋 うん。
糸井 それで替えてるだけなんですけど、
すごく、すごく大事だなと思ったのは
自分が素人だったときのことを考えると、
素人あるいは新人だったときは
ほんとにボツにしてたっていうことなんです。
書きかけで。
大橋 あ、そうですか!
糸井 うん、つまり、何だろう、
漫画とかに出てくる作家の先生が
ウーンとこうやってくしゃくしゃポンとかって
原稿を捨てるじゃないですか。
大橋 はい、はい、
糸井 ああいうのが普通だと
思ってたのかもしれないです。
そういう、生みの苦しみを経てこそ、
いいものができるんだっていう幻想があって、
くしゃくしゃポンてやるんだけど、
それをやってる限り終わらないんですよね。
大橋 ああ、そうですよね、
できてこないものね(笑)。
糸井 できてこない。
大橋さんはそんな時代っていうのは
なかったですか?
大橋 うーんと‥‥、そう、私、
すごく前のことは忘れてしまいました(笑)。
多分あったのかも
しれない‥‥
最初の頃はね。
糸井 はい。
大橋 お金をいただいて仕事をしはじめた
『平凡パンチ』の頃は、最初のうち、
週に7枚ぐらい描いてましたので、
もしかしたら何枚かボツにしたものも
あると思いますけれど、
ピンクハウスのイラストを描いていた頃は
もうほとんどなかったですね。
その間を、あまり覚えてないんですけれど。
  【註】
『平凡パンチ』:平凡出版(現在のマガジンハウス)より、
1964年に創刊された男性向けの週刊誌。
1966年には、発行部数100万部を突破したベストセラー誌だった。
1988年に休刊。大橋さんは、1964年から71年までの7年半、
表紙のイラストレーションを担当した。

ピンクハウス:金子功(1939年生まれ)が
1973年に設立したファッションブランド。
大橋さんは1980年から90年まで、ブランド広告のイラストを担当した。
 
 
   
『平凡パンチ』創刊時のポスター。
もちろん装画は大橋さん。
糸井 絵を、いいとか悪いとか
自分で決めるときにも、
「何が描いてあるか」と
「描けているかいないか」の
2種類の、いい・悪いがありますよね。
大橋 はい。
糸井 たとえば頼まれた仕事で象さんを描いたら、
全然違ったな、ほんとはキリンだったな、
それは描く内容が違うんですよね。
大橋 はい。
糸井 それからうまく象が描けなかったな、
っていうのもありますよね。
大橋さんがボツにするのは
どっちのケースでしょうか。
大橋 私はちゃんと象を描けたつもりで、
上手く描けたなとは思わないまでも、
精一杯描いたと思って渡したら、
キリンとまではいきませんけども、
「他の動物?」って
言われたりすることは多々ありました。
そのときでも、まずいなと思って
引っ込めるっていう気は全くなかったし、
そういうふうに考えた事がなくて。
自分でなにを基準にして、
渡してもいいかどうかの判断を
していたのかしら‥‥?
糸井 若いから自信たっぷり、
ではないですよね、少なくともね。
大橋 そうですね、ドキドキしていました。
糸井 ドキドキしてますよね。
(つづきます!)
2007-02-01-THU
協力=クリエイションギャラリーG8/ガーディアン・ガーデン
 
 


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN