APPLE
アップルの
原田社長との雑談。

第2回目

第1回目

第1回目からのつづき。

原田 ユーザーの気持ちをもっとわかっていけばね、
それ以上のものを提案するというか、
発想が出てくるんですけどね。
だから我々も、ビジネスを企画をするときに、
必ず送り手の論理で考えるなと。
競合他社と比較して考えるなと。

たとえばですね、商品を二つ出すとしますね。
スタンダードモデルと、
グラフィック機能が付いたグラフィックモデル。
商品企画をよく知っている奴は
スタンダードモデルの市場ニーズが多いぞと。
こちら(グラフィックモデル)はある程度
パソコンを使った経験者が使うんだよと。
だから受注予測は2対1とかで作るんです。

しかし私は違うと思います。
グラフィックモデルが2で
(スタンダードモデルが)1なんだと。
要するに、タンジブルが有効な商品と
価値を計算するのがややもすると
製品企画の担当の頭なんです。
でも、ユーザーは、
よりインタンジブルなバリューを探すんですね。
エモーショナルな部分を探していくんです。
目に見えないもので感動するんです。
だから自分はスタンダードで充分なんですけど、
「グラフィックまで使えるような人になりたい」
っていうことでその商品を求めるというか。
糸井 未来の自分が買い物をするんですよね。
原田 自分もそういうライフスタイルに入っていきたい、
自分のライフスタイルを変えたいと思わせた商品が、
市場のデフォルトを作っていくわけですね。
糸井 それは、でも、とってもよくわかるんだけど
とても説得するのに難しい話でしょ。
原田 そうですね。
糸井 「原田さん、明日なんですよ」っていう話をされたときに
なんて仰るんですか?
原田 明日というのは?
糸井 つまり「商売は明日」なんです。
原田さんが仰ってるのは明後日なんですよ。
っていう視点になりますよね、
どうしても一般のビジネスの場面って。
原田 いや、私が言ってるのも明日ですよ、と。
糸井 あ、それを自信を持って言うんだ。
原田 最近の話ですけど、先日、4機種出したわけです。
下から、安い値段から20万円から
40万円まであるわけですね。
21万円くらい、28万円くらい・・・
これだけDVDがついているわけです。
これはまだまだ少ないぞ、と見てたわけです。
私は違うぞと。こっちが売れるんだぞ。
まさにそうなったわけです。
糸井 事実が証明したわけですね。
原田 そうです。前回もそうです。
だからお客様の求めるものというのは
目に見えるものではなくて
現在必要なものを求めるんじゃなくて、
「あっ、こんなものを使えるようになりたい」
っていうのがニーズなんですね。
そういった商品を作っていくと
ユーザーさんに買っていただける、
市場ニーズが出てくると。
ユーザーさんのニーズをそのまま提供してる部分では
市場が育たないわけです。
糸井 育たないですね。
原田さんがそこのところで実際に証明された話だけれども
「2対1を逆転させた」っていうのは
開発チームの中の摩耗しちゃった部分、
つまり送り手発想だけになっちゃった部分を逆転させた。
原田さんは“ユーザーの立場”を
摩耗させずに持ってたということですよね。
原田 私、最近こういう言い方するんですよ。
「俺、最近やっとマッキントッシュ使えるようになったよ」
と言うんですよ。ド素人のふりをするんです。
社内で「社長は商品知識がない」
なんて言い方するやつもいますけど。
それぐらい自分はユーザーの立場で考えるぞ、と。
新商品がくると、担当に説明させますよね。
「その説明、俺にはわからない。俺、素人だから」
って言いますよ。
「もっと俺にわかるように言ってくれよ」って。
やっぱりコンピュータって難しいんですよ。
エクセルとかブラウザってコトバ言った瞬間に、
誰もわかりませんから。
糸井 もともと聞いたこと無い言葉ですからね。全部ね。
原田 だからコンピュータの世界、
インターネットの世界というのは
ともかくとてつもない無限の可能性を持ってるわけですね。
これをですね、ライフスタイルのバリューとして
どうやって伝えるか。
ということが、この業界の送り手の任務ですね。

うちのお袋なんて長崎に住んでますけど、
「何で留守電入れないんだ、何でファックス入れないんだ」
って言いますと、
「ファックスってなんね?」
って言うわけですよ。
「電話線とおって紙の内容が向こうに届くんだよ」
って言うと、
「いやあ、そがんやぐらしかとはしきらん」
(そんなややこしいのはできない)
って言うわけですね。

そういう世代の人がいらっしゃるときに、
さあケーブルテレビだ、衛星テレビだ、インターネットだ、
って言った瞬間にすごい情報格差が残ってるわけですね。
そこをもっと格差を少なくすればいい。
インターネットの敷居をもっと低くすることは
できるわけです。
余談になりますけどコンピューター業界で、
Pentium inside?、あれギルティですよ。
あんな言葉使うのはギルティなんです。
糸井 つまり今まであった市場の人に
新しい言葉を投げかけてるだけで
宗教に近い閉じた世界になってますよね。
原田 というよりも、送り手のビジネスゲームですよ。
NECさん、富士通さんのコマーシャルに、
「Intel insideとぽんと最後に入れてくれれば
コマーシャル代金のある部分を補填しますから」
なんてやっているんじゃないですか。
糸井 昔ね、確か木綿の協会が
ファッションの広告に「コットンだから好き」とかって
入れるとちょっと賛助金出してたの憶えてますけど、
それと同じですね。
原田 私どもの今のコマーシャルはですね、
リンゴのマークありますね。
Think differentと出てますね。
5色のiMacのコマーシャル今やってますけど、
最初から最後まで「アイマック」って言いません。
糸井 あっそうでしたっけ?
原田 「アップル」と一言も出ないです。
ある人から見たらどこのコマーシャルかわからない。
高飛車だと。
関係ないんです。商品だけ見ていただければ、
アップルであろうと商品名が何であろうと
「あの5色の色いいだろ?」って言ってるわけですね。
それも一つの私どものチャレンジの一つなんですよね。
糸井 言ってないわ・・・そういえば。
あれ掃除機と間違えた人がいたって。
原田 はっはっはっは。
炊飯器のジャーとか。
糸井 「5色の掃除機が回ってる」って。
僕はね、そのへんのことに批判的な意見を
どっかの掲示板で読んだんだけど、
いいじゃない、って思ったんですよ。
掃除機のレベルに、コンピュータは
ならなかったらいけないんで、
つまり、早い話が、原田さんちのお母さんの方が
コンピュータを使ったら人生変わるんですよね。
毎日触れてる人の人生は何も変えなくても、
どんどんこう、人間歳とったら孤立して行くわけですよ。
あと子どもってものすごく狭い世界にいる。
それが誰かと繋がれるっていうことを知るっていうのは、
一番大事なのに。
一番大きい市場であり、一番必要としている人のところに
届いてないのがコンピュータだと。

だからうちの「ほぼ日刊イトイ新聞」っていうのも
最初いっぱい助言を受けたんですけど、
どうやったらアクセスが増えるかだとか
いろんなことを周りが言ってくれるんですよ。
早い話が、コンピュータの話題を出すと
アクセス増えるらしいんですね。
それからアニメのこと入れたり、
女の子を出したりするとアクセス増えるとか、
つまり、理科系でコンピュータを職業にしてる人が
暇つぶしをしたり知識を得たりっていうことをすると
必ず人気ページになるっていうんだけど、
一切僕にはそういう知識無いんで、
その逆を全部やったんですよ。
ですから、この、うちのメディアがあるっていうことを
たまたま何かで聞いた人が、
「これを見るためにコンピュータを買う」って。
そうならなきゃ、いつまでも閉じたままだと
思ったんです。

で、ほかの新聞よりも雑誌よりもずっと
ゆるいことばっかり書いてあるくせに、
「これを見るには、コンピュータを使わなきゃだめだね」
と言ってもらうっていうのは、
現在の需要と離れた勝負になっちゃうんですよ(笑)。
実用で、「便利だからお寄りいただく」ということじゃ、
誰がやっていても同じになっちゃいますからね。
大企業が、お金かけてたくさん宣伝したほうが強い。
それでは、いままでの閉塞状況とそっくりですもん。
無理してでも乱暴なことをしたほうがいいと思って。

土、日のアクセスは絶対的に減るから、
「更新しなくていい」という助言もありました。
それを聞いたときに、
それだったら僕は逆に、土、日を一生懸命やると。
月〜金は会社で見る人が多いわけで、
あわただしく見る人が多いわけですよね。
今までのお客さんは、それでしょう。
これはこれで、わかります。
でも、土、日の自宅で
「もう新聞も読んじゃったし、テレビもつまんないし、
ほぼ日刊イトイ新聞を見るか」
という人がどのくらいいるだろう、
と思って冒険してみたら、
アクセス数は3分の2までしか落ちないんです。
普段は3万くらいなんですけど、
2万までしか落ちないんです。
原田 でしょうね。
糸井 それで、いまごろになってつくづく
「あのとき言うことを聞かなくてよかったなあ」
と思ってるんですよ。
原田 私は、朝会社に出かける前にコーヒー飲んで、
けっこうゆっくりするんです。
テレビやってますねえ、4、6、8、10、12……。
どのチャンネルにいっても相撲の世界の家庭騒ぎ、
どこいっても映画俳優の離婚騒動。全部同じでしょ。

たまたま、今朝見てましたら、
確か6(TBS)だったと思います。
内容的には同じようなことをやっているんですが、
(画面をマルチ分割して)ニュースのテロップを
流してるんです。
これはすごい差だな、と思いました。
ニュースのキーワードだけ聞きたい人もいるわけです。
そういった世の中のトピックスを聞ける。
糸井 それがTBSだとしたら面白いですね。
あそこは、例のオウムの問題で、
ワイドショーからいったん、撤退して、
つまり、早い話が不利な状況になって、
いわゆるスキャンダリズム中心のワイドショーが
できなくなったわけですね。
おかげでそれができたんでしょうね。
やはり、不利な状況がよかったという例ですね。
それが、すぐに人気が出るとは思わないですが。
原田 あれがあるんだったら、
毎日あそこにしようと思いますよ。
ほかに差別化がないですよ。
ほかはみな同じなんですもん。
糸井 負けてるときにできることって、やっぱり
いいですよね。
原田 私にしても、一番難しい時期だったから、
いろんなことができたんですよ。
糸井 「理想主義的」に聞こえたんでしょうね、
原田さんの就任演説は。
原田 でしょうね。
ただ、就任のときに申し上げたとおりに
私はやってきたつもりですし、
販売店様も全部お集りいただいて、
徹底的に話し合いしましたもん。
「販売店さまのバリューを明確化し、
 それを今後私はこのように変えていきます」
と、正面から話したんですよ。それが、97年の10月です。
誰も美しい言葉としてしか捕らえなかった。
何か変化するんじゃないか、なんて
誰も考えなかったんです。
糸井 理想論者みたいに思われちゃった。
原田 そうです。
でも、翌月から着実にやっていきましたから騒ぐんですよ。
ものすごい反発がきました。
それでもやり続けて、1年経ったら、
あのとき言ったとおりだな、
というのをみなさん認識されて
1年後のその総会談のときの私のスピーチは
1年前のスピーチのプレゼンテーション・マテリアルを
そのままくり返したものだったんです。
「1年前、私はこう言いました。
実際、このとおりになってます。
私は言ったことをやりました。
さて、残り1年間はこうです」と。
「こりゃあ、早めについていかないと大変だぞ」
という認識が出てきましたね。

だから“言ったことを確実にやる”
ということを何回か繰り返しますと、
やはり次のスピードも早いですしね。
今まではちょっとひとつの変化をするだけで、
1年以上もかかってしまいましたからね。
糸井 短いといえば、短いかもしれないですね、1年てね。
原田 でもこの1年間というのは、5年、10年の感覚ですよね。
糸井 社長就任のときのあいさつを実現するための
見えないコストっていうのは、ものすごくかかりますよね。
精神的なコストまで含めて考えると、
「今まで考えてきた考え方は違うんだ。オレも違ってた」
っていうところで、いったん病人が回復するときみたいな
すごいエネルギーがいりますよね。
その部分については、何か考えることはありました?
「がんばる」ということだけでは済まないわけで。
原田 今から振り返って考えますとね、
よくあんな精神状態でいたなと思うくらい、
何も恐くなかったですよ。
自信たっぷりやってましたね。
今から振り返って、あれをもう一回やれって言ったら、 
ものすごい恐ろしいことですよね。
糸井 谷間の一本橋を渡ったみたいな(笑)。
原田 それ以上だと思いますよ。
だから、うちの社員が一番驚いたでしょ。
「こんなことを本当にやったんだな」
という意味では驚いたんですよ。

たとえば、1年前はシンガポールで半完成品にして、
日本で最終組み立てをして、倉庫に入れて、
一次店、二次店に卸して売ってたんです。
そうしますと、やはり3ヶ月くらいかかるんですよ。
流通在庫は、年間売りの3分の1を持ってしまう。
私が最初にやったことのひとつに、
“日本の倉庫をなくす、工場をなくす、クローズ”
というものがありました。
そうしたら、新聞は
「リストラだ、人減らしだ」とこう言いました。

今はどうなってるかといいますと、
シンガポールから、直送で各お店にいきます。
100台持って、今日50台売れたら
次の日50台直送するんです。
この間は、2日分しかないんです。
これによって年間の在庫回転率が、4回転だったのが、
180回転になったんです。
そうしますと、販売店さんのマージンはたとえば
4分の1になっても、4倍以上のスピードで回れば
利益の額はもっと大きくなるんですね。

だから販売店さんはみんな「iMacが一番儲かる」
とおっしゃってる。
1台当たりの利益率は、数分の1ですよ。
これは、やってみて初めてみなさん理解したんです。
最初は「とんでもない!」という販売店さん、
社員からの声がすごかったです。
糸井 「とんでもない」の根拠みたいなものは、
たくさん言われました?
原田 いまのiMacモデルというのは、
企業秘密であったわけですから、
私は最初の段階では言えないわけですよ。
それは苦しかったですよ。
社員には「俺はこうするぞ」と言えないわけですから。
マージン減らして、回転率上げて。
糸井 乱暴なだけですよね(笑)。
原田 クレイジーだと思ってたでしょうね。
工場閉鎖して、社員に辞めていただいて、と。
みごとにやれましたもんね。
世間は「人減らし!」と(笑)。
糸井 そうとうリストラできたわけですか。
原田 “リ・エンジニアリング”なんです。
リストラじゃないんです。
次の闘いのための。
ディフェンシブではなく、
オフェンシブなんだと。
私は、ずっと言ってきまして
その志は今は、みんな分かっているわけです。

「次、こうするぞ」と言ったときは、
自信を持ってますから、一丸となって動いていきますね。
糸井 そのシステムの変化というのは、
(さきほども申し上げましたとおり)
金額のコストという面では、そうとう削減できて、
削減できた金額に対応する分だけ、
精神的にものすごいコストというものを払いますよね。
原田 多大な精神的なエネルギーというものを使いますよ。
販売店さんの天下のトップといわれる方と
7時間、トイレもいかない、食事もしない
えんえんと話し合う議論を、4回やりました。
糸井 たぶんそれが「カギ」なんだろうなあ。
原田 15時から始まって、10時半ですよ。
「ふたりともトイレ行きませんでしたね」って。
こんなのが4回ありましたよ。
それぐらい真剣に議論したことがありますよね。
糸井 それをどっかで逃げて、
何かがダメになっていくっていうのが、
今までのパターンだったのかもしれないですね。
原田 それは、普遍的な課題であったわけですよ。
でも、日本のメーカーさんは、
みんな同じ課題を抱えていらっしゃるんですよ。
糸井 7時間を4回・・・タフだなあ(笑)。
必死ですよね。
原田 いや、和やかなんですよ、あくまでも。
糸井 そのときに一番、決め手になるっていうのは
データじゃないわけですよね。
新しい商品を見せないんですもんね。
説得の決め手は何なんでしょう?
原田 “自信”でしょうね。
糸井 心の、マインドの問題ですね。
原田 「今までのビジネスでやったら
うちの会社は潰れます。
うちが潰れたら、おたくも潰れるでしょう」。
で、そこまでいくのか?
次のビジネスをやっていくのか?
お互い、喧嘩しなくてはいけないんです。
「合意いただけますか?
合意いただけなければ言ってください。
ほかのパートナーを捜しますから」。
そんなのを何回かやったわけですよ。
糸井 原田さんの背後にものすごい危機意識があったから
できたことですね。
原田 それと、今回私ができたことは、
グローバルで、ひとつのコンセンサスでやる
ということですね。
日本だけでやる、アメリカだけでやる
ということでは絶対いけないわけです。
糸井 じゃあ、似たようなことが
アメリカで行われていたわけですか?
原田 同時です。
糸井 そういう戦略というのは、誰が作るんですか?
原田 私は、97年4月に社長に就任しまして、
スティーヴ・ジョブスが7月に戻ってきたわけですね。
第1回目のミーティングです。
私はスティーヴ・ジョブスと初対面です。
「30分間話を聞いて欲しい」と言いまして。
私はさっきもお話ししたように、
「真剣に作って持ってきました」と。

つまり、30分で、スティーヴ・ジョブスと決めたんです。
こうするの、ああするの
と意見がピッタリしていたわけです。
だから、インダストリーを、今後のあるべき姿を
真剣に考えている人の答えというのは、
やはり一致してるわけですよ。

アップルがやったことは、商品はユニークですけれど、
どんなビジネスモデルを見ても、
決してユニークでもなんでもないです。
当たり前なんですよ。
糸井 ビジネスモデルが古臭かったわけですね。
原田 当たり前だったビジネスモデルの変化ということを
できないメーカーが、まだまだたくさんありますよ。
同じ商品を売っているところは、自分が変化すると、
置いてけぼりですから。

たとえば、
「販売店さんのマージンを半分にしますよ」
と言った瞬間、販売店さんは、
「分かった。おたくの商品は売らない、こっちのを売るよ」
とくるでしょうから。
だから、何といっても独自のユーザーと
独自の商品をきちんと作るということが、
これからのビジネスの基本ですよね。
それがない限り、
もうドロドロの世界になってしまうわけです。
糸井 「毎日徹夜してがんばる、がんばる!」
ってやってるみたいなね。
原田 一番の財産は、やはりユーザーさんですよね。
糸井 「ビジネスモデルというマシーン」を
原田さんが見直したということですよね。

(つづく)

第3回目

1999-02-11-THU

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