芸術人類学研究所・青山分校でのキーワード、「三位一体」。

現代の資本主義経済や宗教、芸術などの問題は、
このモデルを通じて考えることで、
じつに納得のゆく理解ができるようになります。

これは、英語で“TRINITY”といい、
次のような三つの輪が結びあった図で表されています。



「父」「子」「聖霊」という言葉が、
三つの輪の中に書いてあります。

これは三位一体モデルの
キリスト教による表現を借りたものですが、
この輪が絶対にはずれないようなやり方で
組みあわされているところがみそです。

とりわけ、私たちの世界のように
資本主義で動いている社会にとっては、
この構造を通じて様々な問題を考えることが、
必要になってきます。

その理由は、この資本主義社会では
「価値」が「増殖」しているからです。

しかもその「価値」は、
生まれるやいなや、足許から根無し草になり、
しばしば暴走しはじめることすら、あります。

そうした「価値の増殖現象」は、たとえば
資本主義の最極端に現れる「株式市場」のような問題に、
あらわれてきています。




上の図で見たように、キリスト教において、
神とは、「三位一体」すなわち、
「父」と「子」と「聖霊=スピリット」でできた
“TRINITY”としてあらわれると考えました。

「父」というのは、
「ものごとに一貫性や永続性や同一性を与える原理」のことです。
たとえば5分前のあなたが、
5分後のあなたと同じ存在であることを保証するのが、「父」です。
「父」は、イエス・キリストという「子」を産みます。
そして、さらにもうひとつ、キリスト教では
「霊=スピリット」という存在が、神の内部にくみこまれています。

この世界に揺るがしがたい同一性を与える、「父」。
神と人間のあいだをつなぐ媒介となる、「子」。
そして「霊」は何かと言えば、
増えていくものをあらわす増殖の原理なのです。

つまり、「霊」をくみこんだキリスト教は、
「増殖」現象を、自らの中に抱えこんでいくことになりました。

そして、キリスト教では、この構造を、
世界で起こることを理解するための
モデルにしようと考えたのです。

この講義では、
三位一体モデルがキリスト教による表現をこえて、
広く人間の行為一般に適用できることを
あきらかにしようとしています。

それでは、このモデルを使って、
「経済」の問題を考えてみましょう。




イスラム教では、増殖の原理を、いっさい認めません。
なぜなら、イスラム教の唯一の神・アッラーは、
増えたりしないからです。

ですから、イスラム教の考え方からすると、
「お金」についても増殖現象が起こってはいけないのです。
「お金がお金をつくる」という
利殖行為が厳禁されたイスラム教の世界では、
原則から言うと、銀行は利子をとれないことになってしまいます。

いっぽうで、キリスト教は、
増殖という現象を自らの中にくみこむことによって、
その後の奇跡的な勢力拡大の基礎をつくっていきました。

ようするに、キリスト教やイスラム教など
神が増えることのない「一神教」の世界では、
基本的に増殖の原理を認めないという前提があるので、
本来は、資本主義の力はおさえられてしまう可能性が高いのですが、
西ヨーロッパのキリスト教だけが、これを可能にしてしまったのです。

そのわけは、もちろん、西欧のキリスト教が、
自らの中に「増殖の原理」をセットしていたからに、他ならないのです。

このように、三位一体モデルを通じて考えてみることで、
なぜ、西欧で資本主義が発達したのに、
イスラム教の地域では発達しなかったのか、
という経済問題ばかりでなく、
宗教や芸術、あるいはグローバリゼーションど
現代世界が抱えるその他の様々な問題もまた、
より深く理解することができるようになるのです。

毎回の青山分校の講義では、
こうしたことについて、明らかにしていきます。





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