アジオ、アジコ、アジノモト博士
天久聖一の味写入門

第69回 味写を集めよう!(その57)



アジオ
大変だ!
博士がピアノの前に座ったまま
動かなくなっちゃった!

アジコ
その上、なにを聞いても答えない!
黙りこんだままよ!

アジオ
ひょっとして、
ウンコかな?

アジコ
そうよ。
いままで陽気だったひとが急にふさぎ込む‥‥。
これは教室でウンコをもらした
小学生と同じ行動よ!

アジオ
ウンコだ! ウンコだ!
博士がウンコをもらした〜!

博士
ウンコじゃないぞ〜い!

アジコ
あら?!
博士がしゃべったわ!

アジオ
ウソだ〜!
ウンコだ〜!

博士
これはピアノ演奏じゃぞ〜い!

アジコ
バカじゃない?
博士はただピアノの前で座ってただけでしょ!

博士
これはジョン・ケージの
「4分33秒」じゃぞ〜い!

アジオ
ウソだ〜! ウンコだ〜!
保健係〜! 博士をトイレへ〜!

博士
話を聞かんかい!
ジョン・ケージの「4分33秒」は
敢えてピアノを弾かないことで、
その静寂までをも音楽として捉えた
前衛音楽の傑作‥‥

アジオ
ウンコだ〜〜!!

アジコ
博士!
言い訳は男らしくないわよ。
どこの世界にピアノを弾かない
ピアノ曲があるのよ!

博士
ホントじゃよ!

アジオ
ウソだ〜!
ウンコだ〜!

博士
え〜い! 話にならん!
君たちに前衛芸術の精神性は
一生理解出来んじゃろう!
もうよい!

アジコ
ちょっと!
どこ行くのよ!

博士
トイレじゃ!
パンツを着替えてくる!
誰か保健係を!

アジオ
やっぱりウンコだ〜!

アジコ
では博士がパンツを替えてる間に、
今週の味写を発表で〜す!

アジオ
は〜い!
まず1枚目はハンドル・ネーム、
うにえさんからの作品です!

味写No.133「茶太郎」
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アジコ
お見事!

アジオ
マスターの頭とボクシングの練習で殴るヤツが
キレイに被っているね!

博士
第45回のリアルアンパンマンを想わせる、
見事な被りっぷりじゃな!

アジコ
ちなみのコレは
なにマンかしら?

アジオ
らっきょマンだよ!
形がそっくり!

博士
拡大した毛根部分にも見えるぞい!
毛根マンはどうじゃ?

アジコ
茶色いから茶太郎ね!
キマリ!

博士
色を採用かい!
しかもマンですらないぞい!

アジオ
茶太郎は
普段なにをやってるんだろうね。

博士
‥‥いいのか。
茶太郎で。

アジコ
気さくなバーのマスターよ。
昔はボクサーだったわ。
といってもプロでの戦績は2勝10敗。
ボクシングセンスは抜群だったけど
性格が優しすぎたのね。
引退後ジムの先輩のとりなしで
このバーを任されて、もう10年になるかしら?

アジオ
ボクサーとしては大成しなかったけど、
客商売は性に合ってたみたいだね。
壁一面に貼られたポラロイド写真が
それを物語っているよ。

アジコ
おしゃべりは得意じゃないけど、
逆にその真面目さがひとの心をつかむのね。
そして失恋やリストラで落ち込んでいる
お客さんを見つけたら決まってこう言うの。
「ボクの顔を殴れよ。」ってね。

アジオ
アンパンマンが自分の顔を食べさせるように、
茶太郎は自分の顔を殴らせるんだね。

アジコ
ヒーローに必要なのは
自己犠牲の精神よ。

博士
茶太郎‥‥
渋過ぎるぞい!

アジオ
じゃあ、この孤独さだけが飽和する都会に、
新しいヒーローが誕生したところで次の作品だよ!

アジコ
はい!
お次はハンドル・ネーム、
ユウさんからの作品でーす!

味写No.134「ミニSL」
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博士
この滲み出るローカル性!
この切り詰められた情報量!
まさに味写の王道を行く作品じゃな!

アジオ
ミニSLというファンシーな乗り物が、
こんな荒涼とした砂利の中を走るなんて!
素敵!

アジコ
喜んでるのは
無理矢理バンザイさせられてる赤ちゃんと、
妊婦のお腹に視線を送る
最後尾の男性だけじゃない!

博士
そしてツッコミどころが満載なぶん、
逆にアンタッチャブルな雰囲気を
かもし出している運転手!

アジコ
まさにミニSLの運転をするために
生まれてきたような若者ね!
この国に生まれたことを
いま初めて感謝してるわ!

アジオ
お年寄りと猿だけじゃない!
ミニSLにいま一番必要なのが
この若さなんだよ!

博士
しかしここに写っている人物以外、
人の気配を感じんな。

アジオ
お便りによると
ここはレジャー施設らしいけど。

アジコ
まさかその施設が
このミニSLのみ?!

博士
別アングルの写真もあるので
ご紹介します!

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アジオ
ああ、よかった!
人がいる! 向こうに人がいるよ!

アジコ
手前の机とパイプ椅子が、
また一層のチープ感を醸し出してるけど
とりあえず他の施設もありそうね。

博士
しかし人々のローテンションぶりは
相変わらずじゃな。

アジコ
見てよ。後ろの女の子。
とても楽しい乗り物にはしゃいでる顔には
見えないわ。

アジオ
死骸を運ぶアリの行列でも見つめてるような
表情だもん。

博士
運転手に至っては、つげ義春のマンガでよく見る
「顔全体を塗りつぶされた人」じゃないか。

アジコ
ミニSLの車上でどうしてそんなに
絶望的になれるのかしら?

博士
終戦直後を思い出しておるのじゃろう。
あの頃はみんなすし詰め状態で汽車に乗り、
闇市へ買い出しに行ったもんじゃ。

アジオ
いつの時代じゃ!

アジコ
でも不思議ね。
きっと当時は楽しかったなずよ。
家族でレジャー施設! しかもミニSLだもん。

アジオ
その楽しかった思い出を残すために、
写真を撮ったんだもんね!

博士
味写の妙味はそこなんじゃ。
「楽しかった思い出」が
「楽しかったはずの思い出」になる。

アジコ
そういえば旅行や行楽で撮った写真が、
後で見てガッカリっていうことはよくあるわね。

アジオ
頭で思い描いていた風景と
現実のギャップに戸惑うことはあるよね。

博士
しかしそこで
「そんなはずはない!」と考えることで、
当時の気持ちに帰ることが出来る。
あの頃の自分はなにを大切に想って、
どんな将来を考えていたか?
そんな写真には写らない「気分」は、
案外こういう味写を見ることで
よみがえってくることが多いのじゃ。

アジコ
イヤね。急にカッコ付けて。
なにが「写真には写らない気分」よ。

アジオ
ウンコもらしのクセに。

博士
だからアレは
ジョン・ケージの前衛‥‥!

アジオ
では読者のみなさん!
みなさんからの前衛的な作品を
お待ちしてま〜す!

アジコ
チャオ!

2006-05-21-SUN

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