アートとマーケの幸福な結婚。
ポストペットの八谷さんと、
彼の船出。

第27回 動機とコンセプトで迷った


ポストペットのできるまで、
ポケットボードの製作過程、
その両方をきいたのが前回まででした。
ついに、「ポケットポストペット」の企画に!
動機やコンセプトをどうしていたのか?という話だよ。

糸井 ポストペットとポケットボードがくっつく話は、
どこからそうなっていったんですか?
八谷 週刊アスキーの
「デジタル業界の女たち」
という特集の1回目が真鍋さんだったんです。
その5回目ぐらいが、増田さんで。
写真に写っている増田さんのポケットボードに
モモのシールがついていたか、
携帯にモモのストラップがついていたんです。
増田 そのどっちも、ですね。
真鍋 あ、増田さんはポストペットを
つかっているのかも!と。
八谷 ぼくらのなかでの好感度が
内心上がりましたね(笑)。
真鍋 それ以前にもなんかの記事を読んで、
「男らしい!なるほど売れたわけだ」
と思っていて。
糸井 最初は誰が持ってきたんですか?
真鍋 カシオさんが持ってきたんだ。
ポストペットとポケットボードの
合体したものをつくりたいと
他にも何社からも依頼があって。
八谷 ちょこちょこ話が来てて、
ぼくらとしてもそれは
大ウエルカムだったんです。
・・・と言うのは、
パソコンにむかついているとこがあって。
特にウインドウズでは、
ぼくらのせいじゃないのに
勝手に意味のわからないメッセージを
出しやがって!と思ってて。
糸井 (笑)前々からのテーマですよ。これはね。
八谷 ぼくらはユーザーに
サービスしようと思っているのに、
あんたのせいで台無しだ!(笑)
みたいな気持ちがあったんです。
わからないところで
コンピューターが止まったら、
嫌じゃないですか。

PCじゃないポストペットの端末を
すごくやりたかったんです。
で、ポケットボードとポストペットで
ポケットポストペットって、もう、最初から
運命付けられたみたいな感じじゃないですか。
でも、前のポストペットって、
自分たち専用につくればいいと
思っていたんだけど・・・。
糸井 あ、そうか。そのときと今回とは、
スタートが全然違うわけだ。
真鍋 そう、それはすごくあった。
八谷 電車に乗って電車の中でメール打って、
という感じのコンセプトだから、
誰につくったらいいのか、
目標がわからなくなって・・・。
糸井 え、ちょっと待って。
「わかんない」って言っていることが、
ぼくにはわかりにくいんだけど。
真鍋 いいわるいの判断の立脚点が
自分ではなくなるじゃないですか。
「25歳OL」に向けてのものになるから。
八谷 そこを経験したことがなかったんですよ。
よく考えてみたら、それまでは。
糸井 えー!
さんざんやってきているように思えるけど。
八谷 それまでは自分のためにつくっていたから。
真鍋 自分がいいと思えばいいし、
自分がだめだと思えばだめなんだけど、
25歳のOLがいいと思うようなもので。
糸井 そういうひとに送ろうというのは、
はなから決めていたんだ。
真鍋 それはこのポケットボードがそうだから。
糸井 ああそうか、その箱がもうそうだったのか。
八谷 最近電車に乗らないし、とか。
真鍋 だから、わざと電車に乗るわけじゃなかったけど
持ち歩きましたね、つくるときに。
八谷 何ていうか、顔が見えなくて
ちょっと悩んだ時期もあるんですけど、
ある日決心して、ぼくは逆に、
「増田さんの喜ぶものをつくろう」
と決めたんです。
不特定多数の25歳OLのためのものは、
結局 ぼくにはつくれないんですよ。
誰かのため、ってのは本当にむずかしい。
でも、増田さんがよろこんでくれること、
は想像できる。
そこでフォーカスがちゃんと合って。
具体的な人間にならないとだめだったんです。
糸井 また、手を振りあえないとだめなのね。
八谷 そうですね。結局ひとが見えてないと。
マーケティングデータだけだと、
全然具体的にはできないんですよ。
真鍋 わたしは最初から、
「デザインをどうするか?」
というのを見失ってたんですよ、いきなり。
1番はじめに、ポケットボードの外側を
ラフスケッチしなきゃいけないときに、
自分が持つものじゃないから
わからなかったんですよ。
それで、一応描いて持っていったんですけど、
そのなかのエッセンス部分だけが
残ってこれになったんですけど。
化粧品のコンパクトっていうのと、
そのときホワイトボードにわっと描いた
クマのかたちというので。

誰のための何かというところで
私は1番揺らいで、
結局今増田さんたちくらいの年の
OLさんと考えることにしたんです
はじめは自分が持ちたい携帯、って。
糸井 ついそう考える癖がついてますよね。
真鍋 って思ったんですけど、
それは違うということなので、
やけになってその場でクマの絵を描いたりして。
糸井 「わたしのための」というコンセプトは
すごい楽しいんだけど、
「わたしの年齢」をなくしてしまう方法しか
しのぎかたがなくなってしまうんですよ。
つまり、60歳になったときには和食を食うんです。
ステーキ食ってるひとに対しての商品を
つくれなくなるんです。「わたしのため」だと。

つくる動機をどうするっていう方法論を
見つけなきゃいけないんですよね。
このチームのポスペつくってるときと
今とでは、何年も経っているし、
ひとの注目している度合いも違うし、
どうするんだろうっていうのを、
このボードではじめてわかったんですね。
他人に対してつくったっていうことで。

(つづく)

2000-05-04-THU

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