アートとマーケの幸福な結婚。
ポストペットの八谷さんと、
彼の船出。

第12回 やろうと思ったときについて


からだのおはかとココロのおはか。
雑誌BRUTUSの企画、「空想美術館」の
キュレイターとしての仕事。
「美術館はよく美術作品の墓場、
 とか言われるけど、じゃあ
 お墓を美術館に出来ないか?」
という観点から設定したネット上の霊園。
墓を考えるとどうしても社会システムや
家族制度などにぶつからざるをえないが、
ここでは
「生きているときに
 自分のアーカイブを蓄積し、
 死んだ後にのみ公開される場所」
として設定した。
実際に数十年後の未来では、
こういった
(個人をベースにした)アーカイブ墓と
(家族制度を前提にした)現実墓の
2つを同時に持つのではないか?
という確信は今もある。
(CG制作:真鍋奈見江、高橋真希子)
↑こちらの写真と紹介文は、
八谷さんのホームページ
http://www.petworks.co.jp/~hachiya/
から抜き書きさせていただきました。



こういうものをつくる八谷さんが、
ポストペットの全体の
ディレクションを考えていたんです。
八谷さん、そこにどういう姿勢で加わったの?
前回に話をしてくれたデザイン担当の真鍋さんと、
プログラム担当の幸喜さんとの間での彼の様子を、
今回はうかがっておりますよん。

糸井 真鍋さんと幸喜さんとの間で
八谷さんが判断をするんですが、
「ぼくはものをつくる人間としては
 たいしたことない」
という自分に対する厳しさが、
ここではすごく役に立つんですね。

早い話が、厳しいんですよ、
八谷さんの言ってることって。
「俺は駄目だ」
って思うことって、
けっこうむつかしいんですよ。
八谷さんはそれをたぶん他人にも。
・・・自分に一回やったことだから。
八谷 けっこう要求水準が高くなりますね。
もっと大きな心でいよう(笑)
とかいうのが最近のテーマなんですけど。
糸井 真鍋さんがその段階の
タイミングで、思ったことって
もう既にポストペットの構想は
話しあってたわけだから、
「これはやるべきだ!」と思ったの?
真鍋 もちろんそうですね。
セガでは、自分のゲームを自分でつくれないので。
会社行きながらつくってもよかったんだけど、
「きちんと名前を出させてくれ」
と言ったら、会社のひとには
「アルバイトとして、
 名前は出さないでひとりでやるならいいよ」
と言われたので、セガのほうを辞めて。
最初は、自分の会社の上司に
プレゼンしたんですよ。
糸井 何て言われた?
真鍋 「うちPCをやってないし、
 通信・・・って言われてもね。
 メールソフトって言われてもねえ・・・」。
糸井 まだまだでしょうとかって話か。
あり得ないっていうやつか。
真鍋 全然乗ってこなかったですね。
「おっ」って思われなかったら、別に、と。
八谷 ソネットで、ここでやろうと思ったのは、
小出さんという広報のひとは、
原案見て即答で「やりましょう!」って。
真鍋 何かA4の紙5枚くらいだったのに
もう、ぴかーって、
「もう5万円でも欲しい」って。
八谷 5万円でも買います、って。
その具体的なことがよかったんです。
当時の社長が言ったんですが、
「そんなに小出くんがいいと言うんだったら」
という感じでしたから。
糸井 そこでは、数字ではない熱情のようなものが
わっと燃えたんだ。
八谷 そこまで言ってくれるんだったら、
この期待にこたえねば、とやっぱり思う。
糸井 チェックリストを持ってきて、
「こうだめだ」
というチェックをするひとって、
世の中にはいますよね。
それで、あとで出てくるでしょうけど、
例えばドコモ的会社というような
大きい会社には、やまほどいます。
いわゆる秀才型チェックというもので。
一緒に馬鹿になってくれるタイミングで
つきあいが決まるじゃないですか。
それは、小出さんのおかげもあるね。

・・・このポスペの話ってさー、
きいてると、全部うまくいってるね。
今の八谷さんのお話って、
時間軸で話していても、挫折ないですね。
八谷 そんなにないですね。
あ、でもやっぱり作品つくって
完成度が低かった、というのがありますね。
だからぼくのワールドシステムが
うまくいっていなかったのは、とても残念で。
やっぱり、エンジニアとしてはもう俺はだめだ、
と思ったんですね。
糸井 そういう八谷さんの認識が、
普通のひとに欠けている部分じゃないかな。
八谷 1個に集中してないけど、
いろいろなジャンルに興味があって、
そこを総合すれば何とかできるんじゃないか。
それと完成度に関すると
プロと組んだほうがいいやって思うように。

最初は真鍋さんとプログラムを、
「よし、覚えるか!」って言ってたんですよ。
糸井 そういうことって、違うんだよね。
真鍋 「はじめてのC言語」っていうのを
買っても、もう無理だっていうか・・・。
だから、面倒なことは他人にやってもらおうと。
糸井 やめてよかったでしょ?C言語。
八谷 やっぱり、全員がプログラマーになっちゃうと
それはだめだなあ、みたいに。
糸井 できないことがわかりすぎるひとたちが
集まると、普通の会社になりますよね。
八谷 幸喜くんに対して、
すっごい無茶な注文いえるんです。
C言語、知らないおかげで。

(つづく)

2000-04-19-WED

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