アートとマーケの幸福な結婚。
ポストペットの八谷さんと、
彼の船出。

第9回 世の中に欠けていることをやりたいんです


車がアリガトウって気持ちを伝えるためのしっぽ
「サンクステイル」は、自動車用のシッポ。
クルマが「ありがとう」っていう
気持ちを伝えるための器官です。
「ありがとう」を伝えるために、
世界中たいていの人がすぐに
意味を把握できるように、
言語ではなくイヌのシッポを
メタファーにしています。
サンクステイルは実際に商品になって
はじめて作品として成立すると考えます。
自動車メーカー、カー用品販売店、
自動車部品メーカーなどのメーカーと一緒に
このプロジェクトを進行中です。
写真は実際に車両につけて
動作を確認するための試作品。
(撮影:八谷)
↑こちらの写真と紹介文は、
八谷さんのホームページ
http://www.petworks.co.jp/~hachiya/
から抜き書きさせていただきました。


こんなように、現在進行形でいろいろつくっている
八谷和彦さんのメディアへの考えを今回はうかがうよ。

八谷 視聴覚交換マシンが
いろいろなところで受けていて、
名古屋に常設になるのが決まっていたので、
そこでまとまったお金が入る予定とかあったんで、
だから辞められたのかもしれないですね。
要するにこういうことをやるひとが
日本にはあまりいないから。
糸井 うん、八谷さんおもしろいよねー。
八谷 その意味では自分に欠けているスキルを
チームつくって埋めていけばできるかもー、と。
糸井 何てシステマティックな考えを、若い頃から。
八谷 理系だから(笑)。
糸井 でも、理系のひとはやまほどいるじゃない。
美術学校のときから既にシステムですよね。
八谷 世の中に欠けていることがやりたいんです。
糸井 何てわかりやすいやつなんだ(笑)。
八谷 SMTVは自分の好きなひとに会えるということで
やっていたのもありますが、もうひとつは、
当時はインターネットとかもなかったから、
世の中にそういう、
イリーガルかもしれないけど、
人間と人間が直接こう・・・
放送って技術的には
そんなにむつかしくないんだけど。
その放送のひとたちが、
自分たちの都合のいい方向にだけしか
流していなかったら、
ほんとにやばいと思ったから。

だからSMTVっていう名前は
アメリカンウェイっていう映画から
来てるんですけど、ベトナム帰りのひとたちが
飛行機内に放送局をつくって、
自分たちの好き勝手に放送するんです。
糸井 海賊放送じゃなくて、空賊放送だ。
八谷 で、それを知っているひとは、
海賊放送だってわかる。
だから、裸とかそんなの別にやりたくなかったし、
特にひどいイメージというのは
流さなかったんですけど、
回路がひとつ欲しかったんです。

放送って国から許認可もらったひとだけしか
持ってないじゃないですか。
だからアマチュア無線でも
よかったのかもしれないですが
もっと普通のひとに近いテレビで。
糸井 遠そうで近かったというイメージが
テレビには、すごくありますよね。
1番遠そうじゃないですか。
若い頃だと、友達ひとりテレビに出たら、
「お前テレビ出たんだって?」
っていう、その距離感すごいじゃないですか。
それが実はお前もできるんだよ、と
言われたときみたいな、その振り幅の大きさが、
アマチュア無線に比べるとものすごいですよね。
八谷 ありますよね。
実験テレビをやったとき、
それはすごかったですね。
テレビ局つくれるじゃん!って。
糸井 それは、ぼくらは大人になってから、
インターネットが普通になってから
知ったことでもあるんだけど、
できないと思ったのは思いこみにしか
過ぎなかったっていうのが、いろいろな
コンセプチュアルアートの原型じゃないですか。
ないと思っていたものはあるんだ、
あると思っていたものはないんだ、とか。
八谷 できないと思っていたけどできるんですよね。
糸井 「メディア」が1番遠く思えてたもので、
学生やってるときに、
いま1番ないものは何だというときに
メディアだって思いつけるっていうのは、
やはりメディアに載せるための
アイディアの話があるひとですよね。

例えばプレイステーション2と
これみたいに通信ができるマシン、
どっちの可能性がどうだというとき、
ハードをつくっているひとたちって、
スペックでどうしても勝負したくなっちゃう。
ところが、プレステ2とかドリームキャストの
シェンムーが典型だけど、
70億かけられるやつがどこにいるんだよ、
ってなったときに、つくり手があまっちゃって
メディアが少ないっていう状態になるとすると、
プレステ2の先っていうのは、ぼくはいつでも
つくり手の立場からしゃべりたくなるから、
あそこに魅力ないんですよ。
つまり、ひとりかふたりで
10万円でゲームをつくれるとすれば、
そこに可能性があるんですよ。

だからぼくは、
どっちがどう残るかは知りませんけど、
つくりたい欲望のある時代が、
ぼくにとっては素晴らしい時代で
それを載せられるメディアがある、
みんなにメモパッドを渡して
絵を描いてごらんなさいっていうほうが、
ぼくにとっては意味があるんです。

どっちが勝つでしょうねという
予想はしないですけど、
メモパッドが配られるという意味では、
ちっちゃいマシンで、
3日でできますよというほうが
ぼくの究極の理想だから、
どうなろうがぼくはそっちを応援するんです。

そこでインフラをつくりたいひとだとか
ビジネスをやりたいひとって、
どうしてもスペック勝負になるから、
そこに気づかないんですよ。
クリエイティブを乗せる容器と
クリエイティブの関係に目がいかないんで。
八谷さんがメディアが足らないんだと
無意識に思っていたんだとすれば、
「俺が考えている妄想を、誰に伝えたらいいんだ」
っていう、妄想力のフローオーバーみたいな状態が
若者特有の力とあわさったんじゃないかなあ。
八谷 SMTVでも、ビデオ売ってないんですか、
ときかれて結局ビデオにしてみたり。

大上段に構えていなくても、
身のまわりのひと100人とかを対象にして、
すごいローコストで、
身のまわりのひとがハッピーになれば、
もうそれでいいじゃない。
最初はだから、ほんとに身のまわりで
おもしろいと言ってくれたひとがいたから、
このひとたちをびっくりさせればいいや、とか。

(つづく)

2000-04-14-FRI

BACK
戻る