ピーコを、チェック。
杉浦克昭自伝的対談。

第4回 人を好きになると、ものを覚えて。


ピーコ その営業に私がどうして入ったか
わかんないんだけど、そこにいる人は
みんなお金持ちだったの。

その頃に洋服業界っていうのは
横流しをする人がいたの。
洋服の会社からデパートに行く間に
商品がなくなっても、
「なくなった」ものは
そのまま「なくなった」ことにしておいて。
糸井 すごい時代だね。
ピーコ そう。
すごい時代だったんだけど、
だから、そんなことをしない人が
営業には必要でした。
そんなことをしなくてもお金があるような人が、
そこのところに配属されてた。

その当時、母が1人で子どもがいるとか、
親が片親だとかは普通の会社ではダメだったし、
めかけの子っていうのはどこでも採用されなかったの。
でもそこには、誰かお金持ちのめかけの子だとか、
それから大きな会社の次男、
長男が後を継いじゃうから
次男さんはどこかに、っていうような
人ばっかりがいたところだったの。
糸井 「ぼんぼん」が多かったわけね。
ピーコ だから、そこに入って6ヶ月間は、
わたしは、お昼ごはん、
自分のお金を出したことがなかった。
糸井 「おごるよぉ?」みたいな。
ピーコ そう。
その会社で最初に私と組んだ人は、
シャルマンっていう、
西川の次に大きい布団屋さんの社長の次男坊さんで、
慶応で水球をしていてそこに入った人で。

その人がなんで
そこに入ったかはよくわかんないんだけど、
それでその人はいつでもお昼になると、
何を食べるかというと、
その頃に13,500円の月給だった時に
500円くらいするお昼を食べてたんじゃないかな。
糸井 それは、高いよ。
今だと、5000円のお昼を食ってる感じだね。
10分の1だもん。すごいお金持ち。
ピーコ そうだよね。
それで初めて東京に出たから、
高校卒業して東京で仕事をする時、
何もかも珍しいから、
彼がどこでも連れてってくれる。

その頃、後楽園遊園地に、
きちがいねずみっていう『マッドマウス』が
来たばっかりの時で。
糸井 あったあった。
ピーコ その乗り物に乗せてやるとか、
別のところにある庭園に連れてってもらったり。
「どこ行きたい?」
「三島由紀夫がいつもシュークリームを食べてる」
って週刊誌に書いてあった、
六本木のアマンドに連れていって」
それでアマンドに連れて行ってくれたり。
そういうことをしてくれた先輩だったから。
糸井 年上だったんだね。
ピーコ 私高校卒の年齢から1年経っていた時で、
彼らは大学卒の入社2年目だったから、
ちょうど私と四つ違ったかな。

私は日本橋の高島屋担当で、
その同期の男の人でステキだった人は
横浜の高島屋だったの。
それで、あとから分かったんだけど、
私の担当している婦人服売り場の
社員の女の人と恋人同士だったの。
そのステキだっていう彼とが。

だけど、その人のことを
わたしは好きになっちゃたわけだから、
その人とは、とにかくずっと一緒にいたい。
糸井 うん。
ピーコ だから、
商品に値札をつけていたりする時にも、
自分のところを早く終わらせて、
彼の値札やってるのを
手伝いとか何とかするわけ。
糸井 いい話だなぁ。
ピーコ 彼は全然まったく女の人が好きで。
モテて、女にだらしないくらいに
いろいろな人にっていうくらいだったんだけど。
そして、そのうちに、
野球部を彼が立ち上げて。
糸井 (笑)出てきたねぇ!やっと野球が。
ピーコ そのときにずっといたいから
マネージャーになるわけよ。
糸井 ・・・ああ、なんかちょっと、ほろりとくるね。
ピーコ ほろりとこないわよ。
ばかな話なんだけど、
それで洗濯をしたりお弁当したり、
前の日から泊まり込みなわけ、
朝しか試合をできないから。
糸井 へえ、そうだったんだ。
ピーコ そこでマネージャーをすると、
ずっと一緒にいられるわけでしょ。
不純っていったら不純ね。
野球をやったら、顔で
ボールを受けちゃうくらいだから、
キャッチボールの手伝いも出来ないわけ。

でもそのうちやってるうちに、
マネージャーなんだから、ということで、
少しずつ、完璧につけられるわけじゃないけど、
スコアラーに教わりながら、スコアを。
だから、野球のことはわかるのよ。
糸井 ほんと、おもしろいなあ。
長いけど、なかなか濃い話だね。
ピーコ それから高校のときは
バスケットの人を好きになって。
だから男を好きになると
バスケットのルールを覚えるとかいう。

自分ではそれを実践できないけど、
ルールとか、何をしたらうまい人なのか、
というようなことはとてもよくわかるから、
評論家には向いてるのかな(笑)。
糸井 人を好きになると、それを覚える・・・。
俺、それは、すごくよくわかるわ。
一緒に仕事をしたくなるわけでしょ?
仕事というか、作業というか、を。

(つづく)

2001-04-09-MON

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