OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.190
- Gypsy Caravan 2


●歌おう、踊ろう、そして生きよう!
──『ジプシー・キャラバン』その2



the photographer is Arne Reinhardt
the band in the photo is Fanfare Ciocarlia
渋谷シネ・アミューズにて公開中, ほか全国順次公開


□ジャスミン・デラル監督の後編です。

そうそう、ドキュメンタリーと言えば、
去年観た新作映画のなかの
私の“ベスト10”を挙げたのですが(REALTOKYO)、
そのうち3本がドキュメンタリー映画になりました。
ちなみにその3本とは、『カルラのリスト』、
ここでも紹介した『選挙』と、
『ウミヒコヤマヒコマイヒコ』です。

我ながらよほどドキュメンタリーが
好きなんだなあと思うのですが(笑)。
その魅力とはなんだろうと考えると、
やっぱり予想外のハプニングがおもしろいし、
それと誰かの目を通しているとは言え、
「リアルであること」は強いですね。

『ジプシー・キャラバン』では
プロデューサーも務めたジャスミン・デラル監督は、
ドキュメンタリーひと筋で撮り続けている人ですが、
監督にとってのドキュメンタリーの魅力を、
また悩みも語ってくれました。

それと、ジョニー・デップのこと。
『耳に残るは君の歌声』で、
タラフ・ドゥ・ハイドゥークスと共に旅をし、
共演した経験があるのと、
これは私のお気に入りのジョニーですが、
『ショコラ』ではロマの役を演じていましたね。
ロマのことを理解しているジョニーならではの
愛に満ちた重みのある言葉が素敵です。
映画のなかでインタビューしたときの、
ジョニーの印象はどうだったでしょう。



では後編をどうぞ。

□ドキュメンタリーは、人生がプランを決めていく。

── ニコラエ・ネアクシュさんの
   お葬式のシーンの撮影は、
   クレジャニ村にちょうどいらしたのでしょうか。
   どんなでしたか。


デラル じつは、私が唯一立ち会っていないのが、
   お葬式のシーンなんです。
   というのは、ある日突然、ニコラエの家族から、
   彼が亡くなったという電報を受けとったんです。
   でもNYからでは、間に合わない。
   それで、それより前の映像のために、
   ニコラエの家に滞在しながら撮影してくれた
   カメラマンが、ベルギーに住んでいたので、
   彼に急きょルーマニアへ飛んでもらいました。


── それはラッキーでしたね。

デラル 彼にとっての朝9時、
   私にとっての朝3時に電話をかけまくって、
   やっと連絡が取れて、
   「2時間後にフライトだけど、あなた行ける?」
   って訊いたら、15分後に彼から電話が来て、
   「カメラも揃った。パスポートもある。
    オレのチケットはどこだ?」
   ということで、すぐに飛んでもらったんです。

   彼が撮影したテープをすぐにNYに送ってくれて、
   観たのですが、ずっと涙が止まりませんでした。
   編集のために何十回と同じものを観ても、
   涙が出ました。
   とくに、棺に向って歌うところは、
   もうダメですね。


── デラル監督が、ドキュメンタリーを
   撮りつづけている理由、というか、
   魅力とは、そこなのでしょうか。
   お葬式にしてもそうですが、
   ハプニングが起こりますよね。
   今回はとても悲しい出来事でしたが、
   思いがけない何かが起こることに、
   おもしろさも感じていられるのでしょうか。


デラル フィクションではなかなかできないこと。
   たとえば、フィクションでは、
   私が人生を決めていくわけですよね。
   それに対して、ドキュメンタリーは、
   人生がプランを決めていく。
   決してプラン通りには行かないし、
   サプライズに満ちあふれている。
   そういう意味では、フィクションには
   語れないおもしろさが、
   ドキュメンタリーにはあって、
   そこが好きですね。


── 今回、いちばん手強かったハプニングを
   選ぶとすれば‥‥?


デラル (しばらく考えて)
   ハプニングとは違うけど、考え方でしょうか。
   経済的なことも含めてですが。
   ドキュメンタリーでは、出演料は払いません。
   出演料を払ってしまうと、
   彼らは演じてしまうし、自然でなくなります。
   だけど、実際のところ、
   今回は、音楽に対してお金を払いました。
   彼らはプロの演奏家なので、
   音楽的な権利に対しては払いました。
   それから映画がものすごくヒットしたら、
   その分払うという契約をしました。

   つまり、倫理的なことなんですね。
   これは音楽ドキュメンタリーだったので、
   音楽に対して払うのは筋も通りやすいですから、
   問題は無かったのですが、
   今後ドキュメンタリーを撮り続けるとして、
   これだけ協力してくれて、
   出演してくれる人に対してお金を払わず、
   カメラマンや音響さんにはお金を払う。
   でも私がいま言った(自然ではなくなるから、
   出演料は払わないという)理由が、
   果たしていつも通るだろうかというのは、
   いまも答えが出ていないし、
   ずっと付いて回る問題でしょうね。


── 今回はプロデューサーもなさってますが、
   難しい問題なのでしょうね。


デラル そうそう、そうなんです。
   出来たらもう1人プロデューサーを雇って、
   問題を分かち合いたいんですけどね(笑)。


── みなさん、ミュージシャンですから、
   ホテルのロビーで演奏はじめちゃったり、
   おそらく大変だったのでしょうね‥‥。


デラル ホテルの支配人から「お静かに!」と、
   何度も言われたし、
   とにかくツアーマネージャーがほんとに大変でした。
   時々、「オレ、ちょっとわざと遠くに行くよ」って
   意図的にどこかへ出かけて、
   知らないことにする‥‥とかね(笑)。
   けっこう苦労がありましたね。


   

── 最後に、ジョニー・デップさんの印象は
   いかがでしたか。


デラル 気難しいところは全然なくて、
   すごくやさしくて。
   それでいてカリスマ性に溢れていて。
   超有名人の中で、私がお友だちになりたいと思った、
   数少ない人のひとりですね、
   なれるものなら‥‥。
   彼はロマの人たちの現実をきちんと見ていて、
   敬意を払っている人だということが
   よくわかりました。


   おわり。

ギャランティの問題は、
ドキュメンタリーの難しいところでしょうね。
ほんとに監督の悩みにうなずけます。
そしてやっぱりジョニー・デップ様。
ジャスミン・デラル監督の、
「なれるものなら‥‥」がチャーミングです。
ロマを愛し、音楽を愛し、人間を愛している、
そんな監督が、被写体から厚い信頼を受けて、
この人間愛にあふれる音楽ドキュメンタリーが
出来上がったのだなと、ヒシと感じました。

みなさんもぜひぜひ、
最強のツールの「音楽」を感じてきてください。

次回は、2008年初笑い!?
立川志の輔さんの落語が原作の『歓喜の歌』です。
題して「松岡錠司監督に聞く、漢方薬から映画まで」
にたぶんなる予定‥‥。
監督の“歓喜の歌”を受けとってください。

お楽しみに。

『ジプシー・キャラバン』


Special thanks to director Jasmine Dellal and Uplink.
All rights reserved.
Written and photo by(福嶋真砂代)

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2008-01-27-SUN

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