OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.179
- Tenten 1


●散歩と小ネタ、そして‥‥。
──『転々』その1



©2007「転々」フィルムパートナーズ、11/10より渋谷アミューズCQN、
テアトル新宿他にて全国<和道(なごみち)>ロードショー


『ダメジン』につづいて2度目のご登場、
三木聡監督です。

三木さんの原点とも言える『ダメジン』のとき、
かなり三木さんの核心に迫ってみたつもりでしたが、
(なんの核心かというのもわからないのですが、
 とにかく、なにか三木さんの企みのツボに
 触れられないかなあと
 いろんな角度で訊いてみました。)
で、頭に残ったのはパチスロとシンナー(??)。

それじゃあまりにもいかんだろうと、
いや、まだまだ聞き足りないと、
再度、新作『転々』の話をよもやま伺いに行きました。
作品としては『図鑑に載ってない虫』を入れて
3作目のご紹介になります。スゴイ!
みなさん、三木味には慣れてきてますか?
それとも、『ズカチュー』で、
遠くに行ってしまった‥‥?
そんなあなたも、『転々』を観ると、きっと、
三木磁石にまた惹き寄せられるでしょう。
「引いて、寄せる」三木映画なのか‥‥。

持ち味の小ネタをこれでもかと重ねながら、
知らず知らずのうちに
人物の心情がじわじわと染みてくる、
三木マジック、とでもいいましょうか。

『転々』は、
直木賞作家の藤田宣永さんの小説の映画化ですが、
原作とはひとあじ違う映画の風味は、
なんというか、なんとも愛玉子の味が‥‥。


根津「愛玉子」の愛玉子(オーギョーチ)撮影まーしゃ

すいません、意味は無いです。
おいしかったです。

借金を抱えた大学生の竹村文哉(オダギリジョー)と、
わけありの借金取り、福原(三浦友和)。
このデコボコな男ふたりが「東京を散歩する」
という話です。
それだけ‥‥なんですけど、
なんでこんなにおかしくて切ないのだろう‥‥。
この不可解なところが、愛玉子かもしれません。
これだけなのになぜおいしいの?

共演は、小泉今日子さん、吉高由里子さん、
岩松了さん、ふせえりさん、松重豊さん、ほか。
そうそう、岸部一徳さんも。

なんともユルい、そしてそこはかとなく心があたたまり、
どこか硬質な男の世界の広がり感もある、
名づけて“散歩ロードムービー”(‥‥まんま)の
撮影秘話をゆっくりお楽しみください。



□「ミキサトシ」っていうケーキって‥‥。

── こんにちは〜。

三木 まいど、三木です。

── 今朝はハーレーに乗って
   雑誌の写真撮影だったとか‥‥。
   三木さん、ライダーなんですね。
   ひとりで乗るんですか、それともツルんで?


三木 ひとりですよ。
   かっこわるいじゃないですか。
   おじさんがツルんで乗るのって。
   養老の滝のCMみたいでさ(笑)。


── あはは。あれ?‥‥“散歩”なのにバイクですか。

三木 なんかね、無理やり結びつけて話してた
   オレもオレなんですけど(笑)。
   調布の飛行場行って。


── 調布までは歩けませんよね、さすがに。

三木 けっこうありますよね。
   調布基地から(『転々』のシーンを)
   始めようというのは、
   『イージーライダー』が飛行場から始めてたから、
   というのがあって。
   だからオートバイ的な画のほうが
   結びつきやすいんですけどね。


── 原作は調布から始まってないですもんね。

三木 一応、再会は井の頭公園っていうのは原作通り、
   原作では「妻を殺した」と
   福原が文哉に言うのは善福寺池。
   小説では趣があるんですが、
   映像にすると変化が少ない。
   井の頭公園の池の上で撮って、
   次に善福寺の池で撮っても
   映像的には同じ場所にしか見えなくて。


── あ〜、移動した感じが無いんですね。

三木 そう。風景が変わらないんですよ。
   池とか公園のツーショットの場面って、
   背景として撮ると、
   違いなんかわからないんですよね。
   じゃ、ドラスティックにそこは変えようと
   いうことで、スタート地点を飛行場に
   持って行ったりしてるんです。


── そうなんですね。飛び上がる感じですね。

三木 そう、出発。
   ジム・ジャームッシュの
   『ストレンジャー・ザン・パラダイス』も
   飛行場から、ガラガラスーツケースを引っぱる
   っていうとこから始まってたり。
   だからなんとなく「出発は飛行場で」
   みたいなイメージがきっとあるんですね。


── そもそも原作を読んで、
   映画化するというその魅力はどこに?


三木 僕自身が親父に連れられて、
   散歩をよくしてたってことが
   ひとつの大きな要因であることと、
   いろんな場所に行っていろんな人に会うから、
   コントはやりやすいだろうって。
   いろんな人がいっぱい出てきても、
   通り過ぎて終りなんだから、
   みたいなズルさもあって。


── 『図鑑』も多かったですけど、今回は、
   小ネタの数、多くないですか。
   シーンの中に小ネタの無いシーンは無いくらい。


三木 そう、置きネコも置いたりね。

── ネコ、ウソでしょう、っていうのとか。
   ダルマと天狗の鼻も‥‥。


三木 不条理なね‥‥。収拾つかないし。

── 後ろの掲示板に「探さないでください」
   って書いてあったり。


三木 「お願いです。探さないでください」

── 忙しいですよね、お客さんは。

三木 そうやってヒイキ目にみてくれるから、
   いろいろ探してくれるんだけど、
   大概の人は気づかないですよ。
   でも、それでいいかなあと。
   それぞれツボが違うから、ということでいい。
   散歩ってそういうもんじゃないですか。
   人と一緒に歩いてても、
   人によっては変な看板にひっかかってたり、
   女の人が泣きながら歩いていたというのに
   ひっかかる人もいたり‥‥。


── 片倉ビルの看板見て、
   片倉スズメの名前はここから付いたのか
   とひっかかった人もいたり(私ですが)。


三木 違うだろうって‥‥(笑)。
   オレ、街でケーキ屋のウィンドウに、
   女の子向けのケーキは名前が「ミキ」で、
   男の子向けのケーキは「サトシ」っていうのが
   あって。なんだこれ?! と。
   なんでオレの名前なんだよって。


── 三木さん、どっちを買えば‥‥。

三木 オレはどっちだ‥?
   そんなことはどうでえもいいんだけど(笑)
   なんで2つ合わせて「ミキサトシ」にならなきゃ
   いけないの? って思うわけ。


── ははは。

三木 昔、ラジカル(ガジベリビンバ・システム)って
   舞台やってたときに、高橋くんっていうのがいて、
   高橋洋二ね、爆笑問題とかやってる。
   それで三木(自分)がいて、
   ほかにタカハシミキくんっていう美術さんがいて、
   「タカハシミキ」って呼ばれると、
   3人が返事するっていうのがあって(笑)。


── まぎらわしい〜。

三木 なんだ、それ? みたいに。
   だからそういう意味では(ン、どういう意味だろ)
   散歩の気分はやりたい、
   親父が散歩好きで休まない、
   っていうのはオレの実話ですし。


── どこらへんを散歩してたんですか。

三木 横浜から、それこそ東京とかに行くわけですよ。
   浅草寺とか。


── まさか歩いて来ないですよね。

三木 まさか歩いて来ないですけど、
   どこか電車の駅まで乗って、そこから歩いて、
   けっこうよく連れられて散歩してたんです。
   だからそれがあるんで「散歩と小ネタ」って。
   「散歩と小ネタ」って、
   岩松さんの芝居みたいですけど。
   「お茶と説教」っぽい‥‥違うか?


── ありそう〜(笑)。

三木 そういう意味では(あ〜、そういう意味か)
   わりとすんなり入れた原作でした。
   ただ原作の持ってる物語というか、
   ドラマツルギーみたいなこととは
   違うものになるだろうとは思ってました。

   藤田さんのところに行って、
   「違う感じもありつつ行きます」
   ってことを話したら、藤田さんは、
   「娘を嫁に出すような気持ちでいるから、
    手荒にだけはあつかわないで」って。
   「くすぐりますけどね」って話になって‥‥。


── 「くすぐりますけど」って(笑)。

三木 そうですよね、「なんだそれ?」
   みたいなこともあるんだけど。


── 「無下にはしないでください」
   ってことですかね。


三木 そういうことです。
   でも脚本を渡した時点では「いいですよ」って
   話になったし、そういう意味では(藤田さんは)
   よき理解者であると信じてるんです。


── 嫁に出してくれたお義父さんとしては。

三木 そう。

── 舞台挨拶のときに藤田さんは、
   「楽屋にあとで行って殴るかも。
    いや殴りませんけどね」みたいなこと、
   おっしゃってましたね。


三木 あのへんはちょっと全共闘世代の、
   ある種のニヒリズムというか、
   そういうのは原作にはあって。
   “ストリッパー”っていうところにそのへんが
   現われてますけど。それが僕の世代では、
   違う形になってるってことだと思うんです。


── コスプレの部分は、原作にもありましたね。
   いまもコスプレ流行ってるみたいだし、
   脈々と続いているものもあるんですね。


三木 でしょうね。
   『エヴァンゲリオン』もちょうど公開になってて
   おかしかったし。


── なんというタイミング!

三木 あれ、庵野(秀明)さんの会社に
   借りに行ったんです。もちろん許可もらって。
   もともと庵野さんもが松尾スズキさんと
   一緒に色々とやられてるかただったんですね。
   以前、僕がインターネットドラマを撮ったとき、
   庵野さんを大学教授の役で出てもらった
   ことがあるんです、憶えてないと思うけど。


── へえ〜、そこからつながってたんですね。

   つづく。

いや〜、脱線しまくりながらも、
これがなんとも散歩してるみたいで楽しいです。

「タイミング」と言えば、ほかにもいろいろ、
『転々』は奇遇なことが起こってたらしいですが、
やはり“映画の神様”の技なんでしょうか。
そんなおもしろ不思議話もあり、
そして文哉役のオダギリジョーさんの話もあり、
次回ももりだくさんです。

お楽しみに。

『転々』

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2007-11-07-WED

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