OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.122
- Jasmine Women -



チャン・ツィイー上海に咲く、
---- 『ジャスミンの花開く』



©My Way Film Co.Ltd. JAPAN SKYWAY
6/17よりシネスイッチ銀座、シネリーブル池袋、他全国ロードショー


□ホウ・ヨン監督に会いました。

中国のホウ・ヨン監督の初監督作品、
『ジャスミンの花開く(茉莉花開)』は、
蘇童(スートン)の小説『婦女生活』が原作で、
1930〜80年代の激動の上海を舞台に、
ある家庭の3代に渡る女性の生き様を描く物語。
チャン・ツィイーが“1人3役”に挑んだことでも
話題になり、いたいけで美しくておちゃめで、
たくましい‥‥さまざまなチャン・ツィイーを
鑑賞できるツィイー「体当たり」意欲作です。

ホウ・ヨン監督は、1960年生まれ。
北京電影学院撮影学科で学び、
ティエン・チュアンチュアン監督『青い凧』や
チャン・イーモウ監督の『初恋のきた道』や
『あの子を探して』という名作の
撮影監督をしてきました。

『初恋のきた道』でデビューしたチャン・ツィイーと
1999年に知り合い、10年前から構想を練っていた
『ジャスミンの花開く』のヒロインを、
ツィイーに決定したことで、
この映画化が実現したのだそうです。

チャン・ツィイーがずっと“監督”というより
「お兄さん」と慕っているという監督なのですが、
その穏やかでやさしい話し振りを聞いていると、
「お兄さん」と呼びたくなるのが、
すごくよくわかります。声も笑顔もやさしく、
一つ一つ丁寧に話してくれるホウ・ヨン監督。
断然ファンになりました。



他のキャスト陣もすごくて、
7月公開『胡同のひまわり』のジョアン・チェン、
『鬼が来た!』のチャン・ウェン、
『セブン・ソード』のルー・イー、
『山の郵便配達』のリィウ・イェ。
主役級が脇を固めます。豪華です!

映画の舞台の上海は、
古くから貿易で栄えた異国情緒が漂う都市で、
残念ながらまだ行ったことないのだけど、
上海の会社とよく仕事をしている友人に聞くと、
「他の中国人とはものすごく違う気質を持っている」
というのです。言葉も普通語とは違う上海語を話し、
「私たちは違うのよ」オーラを醸し出していると。

だから、上海女優ジョアン・チェンが扮する、
茉(モー)の母親の上海語を聴き分けることが出来たら、
きっと映画が伝える雰囲気を2倍も3倍も
味わえるわけですね。あ──。

でも心配ご無用、これからホウ・ヨン監督に、
上海という街がもつ独特のニュアンスを伝えるため、
どんな工夫をしたのかを伺いましょう。
わかっておけば、そーか、そーかと、
上海のスノッブな社会に流れる空気を、
映像からたっぷり感じることができそう。
なんて思ったけど、やっぱりこんなとき、
「大学の第2外国語、中国語をとっておけば‥‥」
とちょっと悔やまれるわけです‥‥。
(ちなみにいまだに話せないフランス語でした)
いまからでも遅くないですよね。

ちなみに普通語で「こんにちは」は「ニィハォ」。
上海語では、「ノンホウ」になるそう。
「さよなら」は「ツェーウェ」。
「ありがとう」は「シャヤノン」。
お〜違いますよね。

── 監督が感じた原作の魅力はどんなところですか。

ホウ 蘇童(スートン)という私が好きな作家の小説で、
   チャン・イーモウ監督による『紅夢』や、
   リー・シャオホン監督による『紅おしろい』という
   映画化作品があります。
   私は'92年に初めてこの映画の原作を読みましたが、
   とても映画的だと思いました。
   つまり、小説の構造や展開される世界も、
   映画にぴったりの題材というか、
   映画の基本のようなものがいっぱいあったので、
   「これは絶対に映画になるぞ」と思いました。
   しかも読んだ時すぐに、映画化するんだったら、
   こういうふうにしてみようとか、
   いろんなアイディアが浮かびました。
   そのアイディアは10年以上前に頭に閃いたもの
   ですが、実際映画の中に使われているくらい、
   はっきりとしたものでした。
   たとえば、1人の女優が3つの時代のヒロインを
   全部演じるとか、映画全体を3つの構造に分けて、
   3章にして描くとかは、初めて小説を読んだ時に、
   浮かんだアイディアなのです。


── では、“茉莉花”という名前もそのときに
   浮かんだのですか。


ホウ いや、それはその時じゃないんです。
   具体的に映画化するという話になった時に、
   すぐにチャン・ツィイーさんにお願いしようと
   思って、その後、脚本化の段階で、
   まず浮かんだのが、音楽です。

   どういう特徴でこの映画を撮るかと考えた時に、
   「茉莉花」という歌が浮かんだのです。

   (*オペラ『トゥーランドット』に
   メロディの1節が使われている歌です)
   なぜ選んだかというと、
   「花」は女性を表していると思うし、
   女性の運命というものを歌った歌でもあったので、
   映画に近い歌だなと思いました。
   ただBGMとして使うのか、
   主題歌としてそのまま使うか、
   というスタイルについては、その時点では
   決まっていませんでした。
   音楽と映画をもっと関連づけるために
   どうしたらいいか、というところで
   タイトルを「ジャスミンの花開く(茉莉花開)」
   にして、いっそのこと3人の女性の名前を、
   それぞれ「茉(モー)、莉(リー)、花(ホア)」
   にしようと決めたのです。


   
   ©My Way Film Co.Ltd. JAPAN SKYWAY

── 上海という街は、中国の中でも、
   独特の雰囲気があるようですが、
   そこを舞台にした映画を作るにあたって、
   工夫されたところはありますか。
   ジョアン・チェンさんが上海語を話したりとか‥‥。


ホウ より上海らしさを出すためには、
   いろいろ手段をとっているのですが、
   そのために私が拘ったのは、
   できるだけ上海出身の俳優を使うということでした。
   全部というわけにはいかないのですが、
   そういう意味では、条件にぴったりだったのが、
   ジョアン・チェンなのです。
   彼女はそのまま上海人ですから、
   ぴったりの役で、みごとに演じ切ったと思います。
   ただ実際に彼女に上海語を話してもらうか
   というのは、実は撮影現場で決めたことで、
   始めから考えていたことではないのです。

   当初私は、上海なまりの標準語を話してもらおうと
   思っていたのです。というのは、標準語じゃないと
   他の中国人が聴き取れませんので。
   だからせいぜい上海なまりの上海人という雰囲気を
   出したかったのです。

   ジョアンは茉(モー)の母親役を、
   最初演じるのですが(茉の母親と、茉の晩年の2役)
   娘の莉(リー)に対して厳しいものの言い方をする
   母親です。特に撮影所の前で、
   朝帰りした娘を待っているシーンで、
   娘に対してキツく
   「何やってるの、はやく帰りなさい!」
   と言わせようとしたのですが、ジョアン自身が、
   実はあまりそういうタイプの人じゃなくて、
   「なかなかキツく言えないわ。
    もし上海語だったら言えるんだけど」と言って、
   僕が「それはおもしろいからやってみてよ」、
   というように、現場で決めたことだったのです。
   まさに、ぴったりの雰囲気もでましたし、
   茉のお母さんが上海語を話すことで、
   第2部でジョアンが、茉の晩年の役をやりますが、
   その時と区別ができるわけです。
   つまり、茉のお母さんは
   上海語を話していたけれど、
   晩年の茉は、上海語を話さないので、
   そこで区別ができたので、ひじょうによかった。

   チャン・ウェンが大してうまくない英語を話す
   というのも、彼がアイディアを出してくれたことで、
   本当に助かりましたし。


   
   ©My Way Film Co.Ltd. JAPAN SKYWAY

── チャン・ウェンさんは私も大好きで、
   今回も、渋くていい味の役ですね。
   印象はいかがでしたか。
   なかなか厳しい方だと聞いていますが‥‥。


ホウ 中国では、実はチャン・ウェンは、
   “監督泣かせの役者”という評判があります。
   しかも、この作品の前に『理髪師』という
   映画を撮っていて、
   彼が途中で役を降りてしまった事件があり、
   マスコミがずっと騒いでいて、
   彼もウンザリしているときだったので、
   けっこう喜んでこの映画に出てくれました。
   「ちょっとでもいいから出てくれないか」
   と言ったら、彼は喜んで、
   「悪人?善人?」って聞くから、
   「悪人なんだけどね」と答えると、
   「悪人の方がいいよ」と言って‥‥。

   結局、彼にとっては友情出演なので、
   出番はあまりないのですが、それでも、
   目立つおもしろい役をやりたかったのでしょう。
   この映画に入ってからも、
   「監督と揉めたりしないか、
    途中降板したりしないか」
   とか、マスコミが注目していたのですが、
   彼は実はとても協力的でした。

   上海に撮影に来る前から、彼とは電話やメールで
   やりとりをしていたのですが、
   何を話していたかというと、
   『鬼が来た!』を彼が監督したときに、
   日本軍のことをかなり研究していたんですね。
   私の映画にもちょっと日本軍が出てくるのですが、
   1937年当時に上海に進軍してきた日本軍は、
   何部隊で、どういう旗を持っていてとか、
   そいういうのはあまり中国人が知らないことですが、
   彼が全部教えてくれました。

   もちろん自分の役に対しても、
   英語混じりのセリフとかも彼のアイディアです。
   見た目のこともいろいろアイディアをもらいました。

   実際、撮影に入ってからも、
   彼は、自分が脇役だとわかっていましたから、
   チャン・ツィイーとジョアン・チェンに
   とても協力してくれて、彼女たちを立てるように、
   一所懸命やってくれました。

   撮影所の前で母と娘が口論しているところを、
   チャン・ウェンが遠くから見ているシーンで、
   「カメラには入らないから、休んでていいよ」
   と言っても、
   「いるといないとでは、演技がずいぶん違うから
    立ってるよ」
   ということもありました。
   優れた役者と仕事をすることは、
   本当に素晴らしいことです。


── チャン・ツィイーさんが監督のことを
   「お兄さん」と呼んでいるそうですが、
   なんかわかりますね、このやさしさですね‥‥。
   『初恋のきた道』の時と比べて、
   彼女はどんどんスターになりましたが、
   なにか印象は変わったのでしょうか。


ホウ 最初に会った時は、天真爛漫で、よく笑い、
   よくしゃべる、開けっぴろげな女のコという感じ。
   当時、彼女は18歳でしたが、それが5年後に
   『ジャスミンの花開く』で再会した時は、
   落ち着いていて、
   それだけの経験や積み上げたものがあり、
   成長したなという感じがしました。

   
   ©My Way Film Co.Ltd. JAPAN SKYWAY

   つい最近また彼女に会ったのですが、
   さらに加速していました。
   さすがに当時の天真爛漫さとかは無くて、
   話し方も大人っぽくなりました。
   ただ私は思うのですが、
   当時から変わらないのは、
   人に対して誠実な接し方をするところで、
   心から相手に対応をする人です。いまもそうです。
   マスコミが、ときに生意気だとか、
   いばった口の利き方をすると伝えてますが、
   実際の彼女は決してそんなことはなくて。
   スターになって人と距離を保っている
   と言う人もいますが、むしろ逆で、
   気立てのよい、話しやすい人です。


   おわり。

『初恋のきた道』の可愛らしさ、華やかさで
世界中を魅了したチャン・ツィイーさんは、
その後、『グリーン・デスティニー』、『HERO』
という大作でドーンとメジャーに飛び出し、
世界的大スターになりました。
鈴木清順監督の『オペレッタ狸御殿』では、
オダギリジョーさんとミュージカルをやったり、
『SAYURI』で日本人芸者役に挑戦したり、
まったく攻めの姿勢を崩さず、前進していく姿が
潔くてかっこいい。
そんな“男前”な感じが大好きです。

この『ジャスミンの花開く』も
大好きな監督の頼みとはいえ、ハードルは高く、
1人3役とか、大胆な路上出産シーンとか、
難しいことに果敢に向っていく、
彼女の一生懸命な演技に心を打たれます。
もちろん、チャイナドレス姿の美しさも、
ルー・イーくんも、リィウ・イェくんも、
たっぷり観られますので、お楽しみいっぱいです。

ジャスミンの花開く
上海1930
REALTOKYO(私も作品紹介してます)

次回は、『ダメジン』の三木聡監督が登場!
『時効警察』のことも聴いちゃおう〜。


Special thanks to Director Hou Young
and Yuri Kajitani. All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

ご近所のOL・まーしゃさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「まーしゃさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2006-06-15-THU

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