OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.120
- It's Only Talk 1 -



カマタもワタシも好きになる、
---- 『やわらかい生活』



©「やわらかい生活」製作委員会
6/10 渋谷シネ・アミューズ、新宿K's cinema、キネカ大森
他全国ロードショー


□廣木隆一監督に会いました。

『やわらかい生活』の原作の
絲山秋子さんの小説、
『イッツ・オンリー・トーク』
を読み終えました。すみません、
映画になって初めて読んだのですが、
好きだなあ〜、この小説。
大田区蒲田に住むことにしたある女性の話。
主人公の優子さんは、どうも、
“おっさん指数”が高い女性のような気がします。

“おっさん的”というのは、
私の好きなブログのタイトルにも見つけて、
共感してるんだけど、あるタイプの女性の呼称です。
つまり、私が思うに、女性は中年になるにつれて、
進む道には、なんとなく分岐点があって、
「→おばさん化」まっしぐら道と、
「→おっさん化」ひた走る道に分かれている。
おばさん化についてはそこら中で目撃しますから、
割愛しますが、女のコの「おっさん化」というのは、
バブルで終りを遂げた高度成長期がもたらした産物
のひとつなんじゃないかと思うんです。

つまり、男女雇用均等法の施行やなんかで、
それまで男性の仕事とされてきた分野に女性が参入し、
「総合職」などと呼ばれる不可思議な名称の仕事に
つくことを目標に、苦渋の中、邁進してきた女性が
とらざるをえなかったひとつの道とでもいいましょうか。
ようするに、会社帰りの一杯飲みやのつきあいや、
駅の立ち食いソバやとか牛丼やにも独りで平気で入り、
プロ野球のナイトゲームで生ビールをぐはぁ〜と飲んで
憂さ晴らしをし、残業の果てに食事も作れず、
つまみを買って帰る日々を過ごし、
気がつくとヒタヒタと、
自分の中に「おっさん化現象」が浸食している。

さてこのまま進んで、
サバサバとモノゴトを割り切れるかっこいい女性に
なったりして‥‥、なんて淡い夢を見たりもしたけれど、
世の中の「しあわせ基準」の古さからして、
女としての古風な道に後ろ髪をひっぱられることもあり、
そんなにあっさりとすべてを割り切れるわけでもなし、
少子化とか、晩婚傾向の真っ只中に身を置くことの
なんとも言えない居心地の悪さも味わいつつ、
第3コーナーを回ったあたり(35歳?)で、
ふと自分が何に向って走っているのか見失ってしまう、
“魔の時間”が訪れる‥‥。

長くなりました。
ずいぶん実感がこもっているみたいで恥ずかしい
‥‥とはいいつつ、この『やわらかい生活』とか、
『イッツ・オンリー・トーク』とかを客観的に語れる
よき年代に入ったのがちょっとうれしい気もしている
今日このごろです。

そんなわけで、
『やわらかい生活』の廣木隆一監督と
楽しいお話ができました。
寺島しのぶさんの『ヴァイブレータ』を観て、
廣木監督にはぜひお会いしたいなと思ってました。
今回の主演の寺島しのぶさん、豊川悦司さん、
妻夫木聡さんのこととか、蒲田のことなどを、
伺いましたので、ご紹介しますね。
2回連載の、"It's only talk‥‥"です。


©「やわらかい生活」製作委員会

すっかり監督のペースに乗せられてますが、
そのペースがすごくキモチよかったです。

廣木 (「ほぼ日」の記事を観ながら)
   『Touch the Sound』良さそうだね。


── これは素敵でしたよ、エヴリンさんが。

廣木 きれいな人?

── きれいですよ、40代くらいかなあ。

廣木 あ〜いいねえ。

── 40代の女性はいいですか?

廣木 ダンナもいたり、離婚してたり、親の死もあったり、
   いろいろ経験を積んできてるからね。


── いろいろあると捨てるものも多くなる。

廣木 捨てられないくせに(笑)。

── 監督は女心、わかってますよね。
   映画でもそう感じます。
   そこまでわかるなんていやだなあ〜と(笑)。


廣木 全然わかってないんですよ、僕は。

── 女性監督が男性を撮る作品、最近でいうと、
   西川美和監督の『ゆれる』とか。
   反対に男性監督が女性を撮る作品とか、
   それぞれがおもしろいですよね。
   『ゆれる』(7/8公開)を観たあと、
   激しく落ち込んじゃって「出てきたくない」
   って感覚だったんですけど、
   『やわらかい生活』は、観たあとに、
   なにか爽快な感じがしました。
   辛い話なんだけど。


廣木 そう?

── あ、昨日、蒲田を歩いてみました。
   ロケハンしている気分で(笑)。
   いい街ですね。ごちゃごちゃなところとか。
   監督が蒲田で撮ろうと思ったのは、どんな‥‥?


廣木 原作が蒲田を舞台にしてたのがきっかけでは
   あるんですよね。
   蒲田じゃなかったら、
   映画を撮ろうと思わなかっただろうし、
   僕が蒲田を知らない分、小説を読んで、
   すごくイメージ出来て、行ってみたいなと
   思いましたね。


── 実際に行ってみた感触はどうでした?

廣木 小説でもホントにうまい言い方してましたね、
   「猥雑で、“粋”が無い下町」‥‥だったか。
   なんか猥雑な感じがするし、
   東急とJRと駅の入り口の街の顔が全然違うのが、
   おもしろいですね。


── 「タイヤ公園」にも実際行ってみたら、
   広くてきれいで、びっくりしました。


廣木 おれも(笑)。
   タイヤだしチープじゃないかって最初思ってて。
   見に行ったら、撮影に使えるかも! と思った。


   

── あんな高い所に妻夫木さん上ったんですね。
   公園のゴジラ見上げて、思ったんですけど。


廣木 制作部が蒲田にこだわって撮ってるから、
   “歩き”でみんな撮ってますよ。
   歩いて移動して、小さいカメラで。


── 何日くらい撮っていらしたんですか。

廣木 30日近かったですね。

── じゃあ、けっこう近所の人も「今日もいる」
   みたいな感じで?


廣木 きっとそう思われてたでしょうね。
   都心で撮ると、人は知らんぷり
   してくれるんですよ。
   でも蒲田はまだ撮影を観に来ますからね。


── 人情残ってますね。

廣木 よくわかんないけど‥‥(笑)。

── 雑色熱帯魚店がわかんなくて、
   商店街のおじさんに聞いたら、奥から、
   奥さんも呼んでくれて、親切に教えてくれました。
   下町っぽいです、やさしくて。


廣木 そうですね。

   

── 熱帯魚やさんもいい感じの店で、
   「映画の公開いつですか」って聞かれました。


廣木 あそこは動物もいて、
   金魚はそんなにいないんですけどね‥‥(笑)。


── ところで、寺島さんは『ヴァイブレータ』に
   続いて、今回も主演ですね。


廣木 『ヴァイブレータ』のときは、彼女との“出会い”
   でしたから、寺島しのぶという女優の、
   舞台の顔じゃない「寺島しのぶ」を撮ろうと
   思ってて。
   そのときは、寺島さんが
   「こいつとは2度とやらない」と思ったくらい
   僕は嫌われてましたけど‥‥。


── うっ、どうしてですか! 役作りで?

廣木 いや、そういうアレじゃなくて、
   「じゃ、やってください」って感じで、
   僕は別にそんなに「こうして、こうして‥‥」
   とかって言わないので。
   その前に、だいたいこの映画はこういうことで、
   こんな映画にしたいと思ってる、
   という話だけしかしないんですね。
   それでやってもらうと、
   「違うと思う」とか言って、
   「もう1回やりましょう」みたいな、
   「もう1回、もう1回、もう1回‥‥」


── あーー。

廣木 それで口きいてもらえなくなって‥‥。

── うふふふ。

廣木 じゃ、いいよ、おれも口きかないから、って。

── そういう感じですか、撮影中‥‥。

廣木 そうです、ほとんど、そうです。

── それは作戦ですか。

廣木 いや、作戦というか‥‥そんなにね、手のウチ
   というか、言っちゃうときっと意識するので。
   寺島さんが意識してやる人なので。
   『ヴァイブレータ』はそうじゃないところで
   やりたかったんです。
   『やわらかい生活』は2回目なので、
   『ヴァイブレータ』とは違う寺島しのぶを
   見せなきゃいけないという話を、
   ずっとしていたんですね。


── 『やわらかい生活』に出演するのは、
   じゃ、説得なさったのですか。


廣木 いや、映画終ったあとは、すごく仲良くなったので。
   僕は、映画の撮影中、ほとんどの人に
   嫌われてるんです(笑)。


── 厳しいってことですか。

廣木 いやわかんないです。
   なんか言ってることがわかんないらしく‥‥。


── わからないコワさですか‥‥。

廣木 コワイんだと思います。

── ‥‥。

   つづく。


コワイかも‥‥、廣木監督

いや、実際、過去作品の性質とかを考えると、
コワイ方なのだろうかと勝手な想像をして、
私も硬くなっていましたが、
お会いしたとたん、やさしくて、
シャイな感じがなんだかかわいくて‥‥(笑)。

監督は、若いミュージシャンとのコラボ作品も
多く撮っていて。最近上映された、
『ohana presents a short movie「予感」』を
観に行ったときに、たまたま、
出演しているポラリスのオオヤユウスケさんと
大森南朋さんのトークショーがあって、
超満員の中、ユーロスペースの床に座って観ました。
(観ましたよ、監督)

あったか〜くて、やさしい映像の音楽ムービーで、
そんな中、映画初出演のオオヤさんが、
やっぱり初めて芝居をすることに緊張していて、
廣木監督に電話で相談したところ、
監督と話せば話すほど、
わからなくなってしまった、と言うと、
大森さんは「あ〜作戦ですね、それ。」
「そうやって追い込んでいくんですよ」みたいな、
監督のそういう意味でのコワさを話してました。

そうなんだ〜と、寺島さんを追いつめるというか、
口もきいてもらえなくしてしまうコワさの
実体‥‥じゃなくて秘密がそこにあるんだと
床を打っていたのでした。

寺島さんの話の続きと、妻夫木さん、
豊川さんのことは、次回です。
お楽しみに。

やわらかい生活


Special thanks to Director Ryuichi Hiroki
and Naoko Ishida (Lem). All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

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2006-06-07-WED

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