OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.119
- Big River 3 -



「孤独」からはじまる世界、
---- 『ビッグ・リバー』



『ビッグ・リバー』新宿テアトルほかでロードショー

『ビッグ・リバー』最終回です。

多国籍な人々が暮らす街ニューヨークで、
舩橋淳監督が人とつきあうとき、
国や人種の違いなどまったく関係なく、
「人と人としてつきあう」のが現実なんだと、
前回お話してくれました。

じつは、これからアメリカへ旅立つという
友人の息子さんに、
「外国へ行く心構えはなんですか?」と
訊かれたのですが、
まさに、舩橋監督の言葉が答えだと思います。
私が思うのは、その第一歩がアイサツかな。
「Hello、Thank you」はもちろんのこと、
目を合わせてニコッと笑うだけでも、
知らない人と心が通いますから。
日本ではやらなくても済む習慣ですが、
外国では「必須項目」と考えていいでしょう。

オダギリジョーさんも、言葉よりも、
「演技で負ける気がしない」くらいの自信で、
外国人ばかりの現場に挑んだとおっしゃっていますが、
言葉なんかはどうでもよく、ほんとに、
必要なのは、キモチですよね。
「あなたのことを理解したい」
「わたしのことをわかってほしい」
そのためならどんなことだってやる
という覚悟が、“心構え”として
最高なんじゃないかと思います。

さて、敬愛する俳優オダギリジョーさんと
お仕事をなさった舩橋監督から、
オダギリさんのお仕事ぶりも伺いました。
そのがんばりぶりが、すごくうれしいですね。

□3人それぞれが、大正解だと思いました。

── 監督は『アカルイミライ』を観て、
   オダギリさんを見つけられたということですが、
   『アカルイミライ』はオダギリさんにとって
   大きな作品で、そこを境にオダギリさんの演技は
   変っていったように思うんです。
   そこから5年という時間を経ての
   撮影ということで、
   こんな失礼なことを訊いていけないかと
   思うんですけど、
   監督がオダギリさんを見つけたときから
   時間が経って、いよいよお仕事を一緒にされて
   「当たり」と思われましたか?


舩橋 それ、おもしろい質問ですね。
   いっぱいインタビュー受けたけど、
   その質問は初めてです(笑)。

   最初、衣装合わせで、3人を並べたんです。
   あのとき、感動しましたね〜。
   ずっとこう紙の上で考えてきたわけです。
   あーだ、こーだと。
   で、実際に並べてみたら、
   「あ! おもしろい!」と思いましたね。
   で、衣装合わせのすぐ後に、
   リハーサルをやったんですが、そのとき、
   「あ! いける!」
   3人それぞれが、大正解だと思いました。


   

── オダギリさんは全編英語で演じましたが、
   苦労されてましたか。


舩橋 スクリプター(記録)に、
   発音チェックをしてもらったんですけど、
   オダギリさんにいつも、
   僕が言ってたのは、
   「こちらに寄りかかって下さい、
    発音のことは気にせずに、
    演技だけに集中して下さい」と。
   「アクセントなんか気にしないで下さい」と
   いうことです。
   アクセントを正しくやろうという意識が強いと、
   芝居がおろそかになるから、
   発音はチェックの人を信頼して、
   寄りかかって下さいと‥‥。
   本人は緊張したと言ってましたけど、
   僕からみると、度胸が座ってたと思います。


   

□「ゆですぎ」に注意しました。

── 監督の16mmの『echoes』は、
   自主製作の作品でした。
   『ビッグ・リバー』は、大所帯な映画ですが、
   動きの不自由さとかは感じるものですか。


舩橋 大所帯で、40人のクルーで撮影するということは、
   自分の中で、シミュレーションをしてから、
   現場に臨むわけです。
   「これはいけるかな、いけないかな、
    わかんないけど、とりあえず現場で考えよう」
   というのがまったく無くなるんですね。
   つまり、最初から決めオチなので、
   ある程度はいい絵が撮れるんだけど、
   自分がよくわからないものに向って、
   キャメラを回し、“空気の震え”とか、
   光の繊細な、その場限りの一回性を、
   捉えることは不可能に近い。

   映画自体は安定した画面になるんですけど、
   “安定し続ける不自由さ”みたいなのは、
   感じました。


── 『echoes』にあったような、
   インプロビゼーション(即興)は、
   『ビッグ・リバー』では?


舩橋 ある程度はありましたけど、だいぶ減りましたね。
   『echoes』は、全部インプロビゼーションみたいな
   ところがありました。


── 『echoes』で女優さんとぶつかったという話も
   あったと伺ったのですが‥‥。


舩橋 それもまた、そのぶつかった感じの、刺々しさが、
   フィルムに乗っかったりして、いいんですよね。

   「パスタがゆであがる前に上げて食べちゃえ」
   みたいな感じが、16mmの撮影にはあるんです。
   35mmでは「ゆですぎ」になりがちなんです。
   ゆですぎにならないように、
   すごく気を遣いました。

   オダギリさんとかカヴィ(ラズ)は、
   すごい経験があるので、
   いろいろ暇つぶしをやりながら、
   自分が飽きないように努力して‥‥、
   努力じゃないですよね。
   本人が知っているんですよね。
   何回も同じことをすると飽きちゃうので、
   他のことを試したり、人としゃべったりして、
   次のテイクには、またフレッシュな感覚を取り戻す
   ということをね。


   

── 舩橋監督のやり方、きっと独特のやり方があると
   思うのですが、映像には、俳優が共鳴して、
   融合している感じがすごくしました。


舩橋 僕が願ってるのは、
   こういう映画があるということを、日本で、
   お客さんに知って欲しいということです。

   パッと観てわかりにくいような、
   とっつきの悪い映画は、
   観客の足が向かないというのをよく聞くんです。
   そうなんですか?


── わかりやすい映画に行く傾向はあるかもしれません。
   『ビッグ・リバー』の場合、
   アメリカが内包している問題に
   いかに心を寄せられるかというのが、
   ひとつあると思うんです。
   9.11は衝撃的ではあったけれども、その後、
   日本の中でどう変わったかというと、
   なんとなくセキュリティがキツくなったかなと、
   街の中に警官が増えたなとか、情報の規制が
   厳しくなったかなということがありますが、
   身の危険が増えたとか、深刻な人種差別の問題が
   身近に起ってるかというと、
   それはほとんどないのではと思います。
   そんな中で、この3人の状況をどう感じていくか、
   そこに至る距離を縮める映像の美しさや、
   オダギリジョーさんや、
   共演者の演技に期待しています。


舩橋 ぜひ、観て下さいね。

   おわり。

舩橋監督のさらに興味深い見解は、
監督のホームページや、
「世界」(岩波書店)の6月8日発売号で、
お読みいただけますので、合わせてどうぞ。

映画タイトルの「ビッグ・リバー」とは、
国籍、人種、宗教、思想などの違う、
さまざまな人が生きている国(アメリカ)を
意味しているようです。

アメリカと言わず、
これから「地球人」として世界で生きていく、
とくに、若いみなさんにとって(でなくても)、
この「ビッグ・リバー体験」は、
きっと貴重なものになると思います。

どうかお見逃がしなく。

Big River
DIRECTOR ATSUSHI FUNAHASHI


Special thanks to Director Atsushi Funahashi
and Phantom Film.All rights reserved.
Written by(福嶋真砂代)

ご近所のOL・まーしゃさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「まーしゃさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2006-05-30-TUE

BACK
戻る