OL
ご近所のOLさんは、
先端に腰掛けていた。

vol.105
- Believe 2-


彼らは「できない」のではない。
── 『ビリーブ』


『ビリーブ』シアターイメージフォーラムで公開中

□小栗謙一監督に聞きました。

去年の暮れにうかがった、
『ビリーブ』の小栗謙一監督のお話は、
心の真っ芯にストレートに飛び込んできました。
監督は、『エイブル』、『ホストタウン エイブル2』
というドキュメンタリーで、
知的発達障がいを持つ人たちをあたたかく見つめ、
いまの課題や、可能性について、
私たちの目を大きく開かせてくれました。

最新作『ビリーブ』を語る監督の言葉は、
いま、この現代に、渇いている人、
なにかわびしい、さびしいと思っている人、
どうもチカラが入らないという人にも、
ぜひ聞いてほしいなあと思いました。

おだやかな語り口、懐広く、
深い優しさを感じる小栗監督。
9人のクルーたちも、撮影後、
監督にひさしぶりに会えたことが、
うれしそうで、別れ難そうでした。
「監督、風邪ひかないようにね」
なんて心配されて、
「はーい!」と
友だちのように答えていました。

たくさんのことを話してくださったので、
できるだけ全部をお送りしたいと思います。
ではどうぞ。

──『エイブル』『ホストタウン』、
そしてこの『ビリーブ』の3部作で、
監督がいちばん伝えたいのは、
どんなメッセージなのでしょうか?


障がいのある人たちが
「できない、能力が無い」と、
世間ではまだまだ思われているわけです。
「そうではない」ということを、
いちばん強く言いたいです。

映画を観ていただければ
「そうではない」ということが、
わかっていただけると思います。

つまり、そうではなくて、原因は社会にあって、
社会が彼らは「できないのだ」と
思い込んでしまって、
だからなにかやってあげなきゃいけない、
つまり、過剰に手を出してしまうことを含めて
社会側が彼らの可能性をあきらめてしまっている。

だから彼らは何もやらせてもらえない状況に
なってしまっている。でもそうではなくて、
彼らが「できる社会環境」っていうのを
ちゃんと作って、私たちの意識を、
「彼らはチャンスを与えられれば、
これだけできるのだ、そういうものを作っていこう」
という意識に変えていけばいいのです。

彼らがやってみて、多分「できない」という
現象が起ると思うんですよ。
でもちょっと待とう。
ちょっと待てば、必ずやり始めて、
そしてできた達成感が自信になって
成長していく。

そうすれば、一緒に生きていくというか、
一緒に生活していくという社会が、
できるんじゃないか。
それはすごく時間がかかりますよね。
時間がかかると思うけど、でも、世界は、
そこを今目指しているわけで、
特に欧米の先進国は、きちんとやり始めて、
そして成果も出しているんです。

そこがいまひとつ、
日本はまだ立ち後れているというか。
そういう意識改革をしようとしていないんじゃないか、
っていうふうに僕は思うんです。

実はそれをやっていかないと、社会保障とか、
お金を用意して彼らに施すという感覚で、
今までいた社会があったけど、それは、
すごく大きな間違いで。
経済的に行き詰まったら、それをカットしよう
という発想になるでしょう。

そうではなくて、
「自立」ということを言ってるわけですけど、
彼らが自立するということは、
放っておいて自立できるわけではないです。
一緒になって、どうすれば、彼らが、
自立して社会に参加することができるか、
ということをやっておかないと、
この先、大変なことになりますよ、ということ。
それを先進諸国は、警鐘を鳴らしてやり始めているし、
日本も絶対やらなきゃいけないことですよね。

□一緒にやってみよう、と思った。

僕らが声を枯らして、
『エイブル』と『ホストタウン』でやってきたけれど、
でもふと考えてみると、その2つは、
僕は見つめる側で、彼らは被写体で、
どこかに隔たりがあって。
じゃ、「一緒にやってみよう」と。
それ、いいチャンスですよね。
スペシャルオリンピックスの世界大会という
いい被写体があって、
撮られる側も障がいのあるアスリートである。
だったら、彼らを僕らのクルーに入れて、
一緒に作っていこうと。

今回は、作る喜びというものを知ってもらえたと
思うんですよ。
だから彼らから「次に作りたいもの」という発想が
出てくるんですよね。

★9人のクル−に、
「次に映画を作るとしたら
 どんなものを作りたいですか?」
と聞いてみたら、
「“その後のクルー”っていう映画を作りたい」
「インタビューをもっとゆっくりやりたい」
「きれいなお花の映画を作りたい」
という前向きな意見が飛び交いました。


あとは、どうサポートしていくかでしょう。
僕らだって、なにもポッと映画が
作れたわけじゃなくて、もう30年以上、
映画界に居るわけで、いろんな先輩たちの
手ほどきがあって、
ある日、一本立ちしていくわけですよね。
それには10年とかかかっている気がします。
でも彼らは、たった半年で、
これだけのことを言ってくれるんですから、
こんなすばらしいことは無いわけですよ。
これを10年続けたら、ほんとに1人前の
映像を作れる作家に、何人かがなっていく、
なんていうことがあるかもしれない。
それをやってみようよ、ということですね。

この映画を観て、
「うちの街にもこういうのを作ろう」と
思う人が出てきて、たとえば、
どこかのテレビ局の人が観て、
この子たちをスタッフにして、
何か番組が作れるかもしれないと
思うところが出てきたり、
そういうことが徐々に出てくることで、
必ず到達できるでしょう。

それは、5年後とか、10年後かもしれない。
そうなったらすごいね。
誰かがNHKに入社しました、なんてニュースが
そのうちある気がするんですね。

それのひとつの意識のスタート、みたいなことが
できればいいなと思って、作った映画です。

つづく。

次回は「小栗謙一監督に聞く」第2回です。
「信じる」とはどういうことなのだろう、
ということをうかがいました。

お楽しみに。

小栗謙一監督プロフィール

★★★
Believe〜僕ら9人の写真展〜

1月17日(火)〜25日(水)
(10:30 - 19:00 最終日は15:00まで)
コニカミノルタプラザ ギャラリーA
Special thanks to nine wonderful crews,
director Kenichi Oguri
and Moviola.

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2006-01-25-WED

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