『MOTHER』の音楽は鬼だった。
鈴木慶一×田中宏和×糸井重里、いまさら語る。

第1回
「音楽というものの大切さ」

糸井さんのインタビューを読んでいると、
ふいに後ろから母が「あら、懐かしいわね。このゲーム」
といってきました。
「知ってるの?」と聞いたら
「昔、あんたが遊んでた中で一番印象に残ってる
ゲームだから」といわれました。
なんでも、当時小学生だった私が予約までして購入し、
早速その日に嬉々として遊んでいて、
その姿を横目に洗濯物をしていたそうなのですが、
そのとき背後から聞こえてくるミュージックが
不思議と今でも心に残っているのだそうです。
サントラをかけて見せて、
「スノーマンの? それともマジカントの?」
と次々聞いていったところ、
なんとスタート画面の曲だったことが判明しました。
ゲームをやったこともなく、
そもそも興味も全くない母の記憶に
これほどまで根付いているマザー・・・
改めて、好きになりました♪
スタート画面の、あの綺麗な地球のロゴと、
どこかノスタルジックで泣きたくなるような
曲を聞いていると、本当にいろんなことを思い出せます。
(タクヤ)



── 『MOTHER1+2』を発表したあと、
すごい数のメールが届きました。
音楽をゲームの魅力に感じている方も
たくさんいらっしゃいました。
田中 読みました。うれしいですね。
鈴木 読んだよ。泣けるよね。
糸井 泣けるんだよねえ。
鈴木 なんか、よくできすぎたエピソードもあって。
ほんとの話なんだよね……。
糸井 そんなに微妙な創作能力ないよ、人って。
田中 うん、そうですね。
鈴木 そうかあ。そうだよね。
真実を書くしかないもんね。
糸井 うん。
鈴木 いや、なんかゲームがひとつあるとしてさ、
そこに家庭の風景みたいなのがあってさ。
後ろから見てる人が何か言うとかさ、
母さんがやってて怖かったとか、
そのへんが泣けるんだ。



私が初めてMOTHERの画面を見たのは
小学生になったばかりのころで、
母がプレイしていたのを後ろから見て、
「なんて怖いゲームなんだろう、
 早くお母さんゲームやめないかな」
と思ったのを鮮明に覚えています。
耳に残る少し切ないような音楽が怖くて、
ポルターガイストや、暴れ出す動物や車なども、
子供の私には今にも起こりうる出来事のように
感じられたのだと思います。
私の母はゲームが大好きなのですが、
幼い私は難しいゲームよりテレビの方が何倍も面白く、
ゲームが嫌いでした。

初めてMOTHERに出会ってから数年後、
熱中していた習い事をひょんなことから辞めてしまって、
落ち込んでいた時期があったのです。
ヒマを持て余していた私は、
母のゲームの中から赤い箱を手に取りました。
スイッチを入れて流れ始めた音楽に心をうたれた瞬間は
忘れられません。
それまではただ食わず嫌いで、
怖い怖いとだけ思っていたゲームというものが、
バーっと美しいものに変わっていった瞬間でした。
マップを歩くごとに感じられる色んな想いにふれ、
優しい気持ちになりました。
その後MOTHER2をお小遣いを溜めて購入し、
以来すっかりゲームが大好きになりました。
中学の文集の将来の夢には少し照れながらも、
「MOTHERのような作品を作りたい」と書きました。

あれほどゲームに興味がなかった私が、
MOTHERに出会ったことで
今はゲーム業界の片隅にいます。
ですが、時代は流れ、MOTHERのようなあたたかく優しい、
「温度」のようなものを感じられるゲームが
極端に減ったことを感じます。
ゲームがないと生きていけない!とまで思った時期もあり、
夢を持ってゲームクリエイターになったはずなのに、
いつの間にかまた、ゲームが嫌いになっていました。
そんな折、ずっと聞きたかった
MOTHERのサントラを友達が聞かせてくれて、
懐かしさと、不思議な嬉しさに涙が止まりませんでした。
やっぱり私はゲームが大好きなのだと、
思い出すことができました。
(saya)



── さて、今日は『MOTHER』を語るうえで
絶対にはずせない、音楽というものについて
たっぷり語っていただきたいと思います。
鈴木 よろしく。
田中 よろしくお願いします。
糸井 今日はもう、ふたりに語ってもらうよ。
なにしろ音楽座談会だからね。
オレは聞いてるだけ。おとなしくしてるよ。
── ええと、『MOTHER』シリーズと音楽は
切っても切り離せない関係にあります。
そもそも、これほど音楽に
ウェイトがかかるというのは
当初から計画していたことだったんでしょうか。
糸井 おっ?!
いきなりオレの出番じゃないですか!
なになに、もいっぺん質問して?
── つまり、音楽を、ゲームのなかで、
これほど重要に扱うと決めたのは……。
糸井 オレに決まってんじゃん!
一同 (笑)
── じゃあ、ぜひお願いします。
糸井 あのね、あの当時、
一部の名作はともかく、
ゲームにとって音楽っていうのは
かなりオマケ的だったじゃないですか。
鈴木 ああ、そうだねえ。
糸井 で、『MOTHER』をつくるとき、
オマケの音楽はダメだって決めたんです。
鈴木 そうそうそう。
糸井 で、具体的な例を挙げて言うと、
まず、当時のRPGにありがちだった
クラシックみたいな音楽をつける必要はない、と。
「ありがち」じゃできないものが欲しかった。
鈴木 それは、それ以前にもあったしね。
糸井 うん。要するに『ドラクエ』がそうだったから
みんなそれにならっちゃったんだけど、
まえのインタビューでも話したように
『MOTHER』は、そういう、
「ゲームのお約束」みたいな部分を
どんどんひっくり返していきたいと思いながら
つくっていったわけ。
── なるほど。



現代的な時代設定に歩きつくせないほどの広い世界、
そしてなにより個性あるセリフと洒落た音楽、
それらは今までRPGに全く興味のなかった私に
新しいゲームの楽しさを教えてくれました。
(Yasutaka Saito)

クラスの中ではドラクエと比べたら断然少数派で、
情報も話し相手も少なくて、
そういう孤独感が、
オープニングのやさしい音楽と共に、
MOTHERの記憶として体にずーっと染みついています。
ゲームを始める前にオープニングだけ
ぼーっと眺めるなんてことも、
当時はしばしばありました。
(tomcot)

それまでのゲームとは違う世界観、
そして拍子抜けしてしまうおかしな音楽と、
味わったことのない物にふれて、驚きの連続でした。
(JURI)




糸井 ぼくはぼくが聴いてきたぼくの好きな音楽を、
やっぱり使いたいなと思ってたし、
音楽をキーにしてゲームを作るっていうのも、
企画のなかに入ってたんです。
だから、とにかく「音楽は大事だなあ」と。
わかりやすくいってしまうと、
『MOTHER』にとっての音楽って、
映画のサントラだと思ったんだよね。
それは、ものすごく大事なんです。
鈴木 うん。
糸井 音楽にこだわったのには
もうひとつ理由があって、
「耳からの刺激」というものが
非常に大事なんだっていうことを
ずっと思っていたんですよ。
それはもう、感覚というよりも理屈で知ってたの。
── 理屈、ですか。
糸井 うん。何かというとね、たとえば、
恐怖映画で、目に向かって杭が飛んできて
それがバーンと刺さる場面があるでしょう。
たしか『サンゲリア』だったかな?
鈴木 ああ、なんかあったね。こう飛んでくるやつだね。
糸井 それって、ものすごい怖いんだけど、
音がないと、あんまり怖くないんです。
なぜかっていうと、
刺さる瞬間まで音楽盛り上げて、
ジャン! って怖い音を急に鳴らして、
要するにビックリさせるんですよ。
ビックリして、心臓がドキドキするわけ。
鈴木 音でね。うん。
糸井 「ワッ!」って言われたのとおんなじだから。
それでドキドキしたのを、自分の脳は、
「あー怖かった」って認識するんですよ。
ほんとうは、ビックリと怖いは、違うんです。
で、怪談噺でもそのやりかたがあって、
「見たなっ!」って言うときに、
お客さんの胸をドーンと突いて飛ばすような
しゃべりかたがあるんです。
鈴木 突然「この顔かっ?!」って言うやつとかね。
糸井 そうそう。「この顔かっ?!」ってやつ。
あれで、「なんでこんな怖いんだろう?」
っていうのを、若い私は研究してたんです。
── お若いときから、おかしな研究を。
糸井 いえ。それほどでも。
「音」がどれだけ大事かということですよ。
それは恐怖の演出にかぎった話じゃなくて、
たとえば時間軸を急に展開させるときなんかも、
やっぱり重要なのは音なんですよ。
それ、視覚だけではできないんですよ。
カット変わりだけじゃ、
時間軸が入れ替わったことがわかんない。
つまり、ずーっとおんなじ次元で
刻まれていた音が、急に変わったりすると
ぜんぶ景色が変わるってことです。
だから、『MOTHER』をつくるとき、
好みとして音楽が好きだからという以上に、
どちらかといえば理論的に、音は非常に大事だから
重要視しようって決めてたんです。
── なるほど。
糸井 で、そのくらい大事なものをどうするか。
考えは、実現して成果をあげなきゃいけないわけでして。
候補としてまず挙がったのが慶一くんだったわけ。



1は小さいころ兄が遊んでるのを見てて、
ちょっと怖かったです。
でもあの雰囲気がいいんですよね、
どこかでほんとに起こってそうな感じの。
今でも音楽聴くだけで、じーんときます。
(shoji kamihara)

(続きます!)

2003-05-29-THU

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