ポケットに『MOTHER』。
〜『MOTHER1+2』プレイ日記〜

8月19日 ピラミッドのなかへ


踏み入れたピラミッドの内部はやはり仄暗く、
僕の頭のなかにはロウソクのまたたきに照らされた
かびくさい石造りの風景が広がる。
僕と僕の仲間たちは闇へのびる階段を上っていく。
奇妙な音階を持つエキゾチックなメロディーが耳に響く。

壁には奇妙な動物たちの姿が描かれている。
蛇と、これは犬だろうか? キツネだろうか?

長い階段はようやく狭いフロアーにたどり着き、
僕と僕の仲間たちはひと息つく。
が、闇のなかに何かがうごめいている。

蜘蛛だ。

僕と僕の仲間たちは戦闘態勢をとる。
幼いながら僕らはそれぞれにたくましく成長し、
戦う術を身につけている。

僕が蜘蛛を打とうと身構えるあいだに、
メガネの彼は蜘蛛の特性をチェックしている。
超能力に長けた彼女は前列へ炎を見舞う。
弁髪の仲間は新入りだが成長が目覚ましく、
覚えたばかりの氷の超能力を発揮する。
残りの蜘蛛は一匹。それが僕の獲物だ。

SMAAAASH!!

得られる経験値は思ったとおり高い。
それは、この場所に巣くうやつらの手強さを物語る。
僕らはより注意深くなりながら階段を上る。

つぎのフロアーには誰もいないが、
僕と僕の仲間たちは違和感を感じる。
いやな予感がする。
違和感の正体は壁の絵で、
それが動いたと思った瞬間、
やつらは壁から抜け出て僕らに襲いかかってきた。
蛇と、犬だかキツネだかわからないもの。

奇妙な絵文字のモンスターは
僕らに容赦なくダメージを与える。
その一撃で三桁のHPが奪われる。
リール状になったHPゲージがくるくると回る。
──ライフアップ!

サイパワーをセーブすることをやめ、
いちいち全力で戦う。容易に行ける道ではない。
経験値を手にしたメガネの彼のレベルが上がる。
気持ちのいい効果音。

行く手がついにふたまたに分かれた。
さらに上へとのびる階段と、下へ向かう階段。
まずは、本道ではないほうを潰したい。
僕は思案する。9年前の記憶なんてかけらもない。

僕の頭のなかに浮かんだのは、
子どものころに読んだ本にあった断面図で、
それはピラミッドの内部を真横から見たものである。
王の寝室は、たいていピラミッドの底辺に近い場所にある。
上る階段の先にも部屋があるが、
僕の昔の記憶がたしかなら、その寝室は偽物である。

つまり、下への階段が本道だ。
ほんとうのピラミッドのルートと、
ゲームのなかのピラミッドのルートが
同じであるという保証はどこにもない。
けれど、僕は確信している。
いいゲームは、そういった約束をきちんと踏襲するのだ。

上り階段が小部屋に突き当たると、
思ったとおりそこから先に道はなかった。
アイテムを回収して引き返す。

分かれ道のところまできて、いよいよ本道を進む。
一歩一歩、石の階段を下りていく。

壁から抜け出してくる蛇が女の子を噛む。
150前後のダメージを与えたうえ、毒を残す。
──ヒーリングβ。
徐々にサイパワーが少なくなってくる。

行く手を大きな棺が塞いでいる。
なかから包帯に包まれた大男が現れる。
サイパワー全開。
長い戦いを、ようやくのことで制する。

ホッとして進んだつぎの部屋に複数のモンスター。
SMAAAASH!!
ただし、食らったのは新入りの彼だ。
弁髪の彼が意識不明となり、僕らは3人になる。

そして女の子に致命的なダメージ。
しまった、回復を怠っていた。
女の子のHPゲージが0に向かって下がっていく。
ライフアップが、間に合わない。
女の子が意識を失う。

ようやくやつらを退けたが、
僕らはふたりになっている。
これ以上は、無理だ。
けれど、来た道を戻るにも戦力が足らない。

メガネの彼が絶望的な表情で立ちつくす。
行こうと、戻ろうと、全滅する可能性が高い。
けれど、僕はリーダーだから、
この危機的な状況にひとつだけ用意がある。

僕は背中に背負ったリュックのなかから
一匹のネズミを取り出す。
賢くてすばしっこくて親切なネズミで、
おまけにリュックに入れてグッズ扱いして
平気なほど丈夫なやつだ。

おそらく、ネズミは荷物のなかでじっと丸まっている。
賢くてすばしっこくて親切なそいつを、
僕は指先でちょんちょんと突っつく。
たぶんネズミは目を開けて
しばらくまぶしそうに瞬きをくり返す。
やがて自分の出番を自覚したネズミは
手のひらから床へ飛び降りて周囲を見渡す。
闇に満ちる石造りの部屋をキョロキョロと見回し、
鼻をひくひくさせて、ときどき後ろ足で立ちあがる。
と、なんらかの情報を得たネズミは
出口の方向を確信して一直線に走り出す。
僕とメガネの彼は慌ててあとを追う。
ネズミは石の階段を駆け上がり、
ときどき立ち止まって僕らを案内するように合図する。

賢くてすばしっこくて親切な
ネズミのあとを追っているうちに、
僕とメガネの彼はあっという間に
出口まで戻ることができた。

ありがとう、あなぬけネズミ。

さあ、いったん返って回復しなければ。
ふたりの意識を戻してホテルに泊まろう。
仕切り直しの段取りを計りながら、
僕はひとまずピラミッドをあとにする。

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2003-08-20-WED


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