ポケットに『MOTHER』。
〜『MOTHER1+2』プレイ日記〜

7月23日 のんびりオネット


依然、オネットの街にいる。
いまさらことわるまでもないけれど、
僕はゲームの進行を急いでいるわけではないので
のんびりと街をうろついている。
オネットの街は広く、
さまざまな施設があって、さまざまな人が住んでいるから
のんびりうろつくには最適である。

いったんゲームを始めると、
まるで何かに急かされるように
クリアーを急いでしまう人がよくいる。
個人的な感覚でいえば、
ふだんあまりゲームをしない人ほど、
クリアーするまでの時間や
自分の進行状況を気にしているように思う。

人にはそれぞれペースがあるから
僕がどうこういうことはできないのだけれど、
「のんびり」を楽しむことって意外にむつかしいようだ。
いつの間に僕はこういうプレイスタイルに
なってしまったのだろうかとふと思う。

ついつい急いでしまう人たちはこんなことを言う。
「ゲーム(とくにロールプレイングゲーム)を始めると、
 生活がそのゲームを中心に回ってしまう。
 ゲームそのものは楽しいのだけれど、
 生活をゲームに浸食されるのはイヤだから
 始めたゲームはできるだけ急いで終わらせたいのだ」
うん、その気持ちはとてもよくわかる。
とにかくこのゲームを終わらせないと何も考えられないよ、
という状態は、いいゲームに接するときほどよく生じうる。

あるいはこういう意見もある。
「ゲームの進行が一度滞ってしまうと、
 なんだかこのゲームをやらなくなってしまうような
 不安が生まれる。クリアーしてないゲームを
 気にかけるのはとてもイヤだから
 勢いを失わないようにどんどん進むのだ」
ああ、これも共感できる話だ。実際、そんなふうにして
いつの間にかやらなくなったゲームを何本か抱えている。
やだなあ、投げ出したわけじゃないんだけどなあ、と、
気にかかったままずっと過ごしている。

ほかにも、ゲームの進行が止まると
自分がゲームに負けているような気分になるから
悔しくてどんどん進めてしまうという人や、
一度目はとにかく急いで終わらせて
二度目のプレイはじっくりやるという人なんかがいて、
僕は概ねどの意見にも共感することができる。
なにしろゲームはいろんな人がプレイするから、
いろんな進めかたがあってして当たり前だ。

自分がいつの間にか「のんびり」するようになった理由は、
いくつか思い当たるけど、
いちばん大きいのは僕が過ごした特殊な環境に因る。

要するに、僕はゲーム雑誌の編集部に勤めていて、
そこで過ごす何年かのあいだに
ゲームがとても上手い人たちを目の当たりにしたのだ。
明らかにこれは次元が違う、という経験を、
日常的にさんざん重ねたのだ。
ゲームが上手いということはある種スポーツに似て、
リアルタイムの反応を要求されない
思考型のゲームにおいても、優劣ははっきりと現れる。
実際にそういう人と接しないと実感しづらいと思うけど、
率直にいってそこにはプロとアマの開きがある。
日曜大工と大工に象徴される格差がある。
相撲と紙相撲のごとき雲泥の差異がある。

そういう環境に過ごしていると、
クリアーの速度を気にするようなことは、
もはやどうでもよくなってしまうのである。
何しろ僕はあらかじめ周回遅れのようなもので、
一生懸命走っているつもりでも
彼らはそれをびゅんびゅん追い抜いていく。
汗かきベソかき歩を進める市民ランナーを
モーリス・グリーンやジェレミー・ウォザースプーンが
おおそとからブイブイ追い抜いていく。

しかたないから僕はドリンクコーナーに立ち止まって
各種スポーツドリンクを飲み比べてみたりするのである。
もちろんゴールは目指すのだけれども、
ときどき靴ひもを締め直してみたり、
トラックに迷い込んできたトンボを目で追ってみたり、
入道雲を見上げて一句詠んでみたりするのである。

そのようにして僕は、
いつの間にかのんびりプレイヤーになった。
すっかりそれに慣れたいまとなっては、
謎解きに詰まったり、ゲームの進行が滞ったりすると、
「参ったなー」と思いつつも、
むしろ醍醐味を感じてにやにやしてしまうほどである。

またしてもわけのわからないことを書き殴ってしまった。
オネットでのんびりしていたという話が、
いったいぜんたいどうあって
ウォザースプーンとトンボを見ながら
にやにやしつつ一句詠む話になってしまうのか。
こんなはずじゃなかったと猛省しながら日記を終わる。

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2003-07-24-THU


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