爆笑問題・太田光の
家族をつくったゲーム。
『MOTHER』からはじまった
ものなどなど。

第9回
落語は最低限の教養である



糸井 太田さんも、そうとう落語を聞くと思うけど、
噺家でいうと、誰が好きなんですか?
太田 うーん、ま、談志さんは好きですけど、
やっぱり、円生ですかね、僕は。
糸井 なーるほどね。端正なほうにいくんだね。
太田 そうですね。キチッとした、なんか、うん。
糸井 文楽は、どうですか?
太田 いや、嫌いじゃないんですけど。
どっちかというと、
やっぱり円生が、僕のなかでは、
なんか、「あー、聞いた」っていう感じが。
糸井 ああ、なるほどねえ。
── すいません。何がなんだかわかりませんが。
糸井 わかるようになるといいんだけどねえ。
子どもとかふつうの学生とかが、
「あ、円生ですか!」ってなる社会だったら
いいんだけどねー。
── そう言わずに、
もうちょっとかみくだいてくださいよ。
糸井 円生は、入門という意味でもいいんです。
円生は、楷書なんです。あの、明朝体なんです。
── ……と、言われましても。
糸井 まあ、聞きなさい。教養だから。
ぼくも、子どものころは
円生がいちばん好きだったです。
なんといっても、女が色っぽいんですよね。
ちょっとね、エッチなんですよ、女が。
太田 そうですね。
糸井 で、それからいろいろ聞いたんだけど、
大人になると、けっきょく
ぼくは志ん朝さんに行ったんです。
太田 あああ、そうですか。
糸井 落語をぜんぜん知らないうちの奥さんは、
文楽が好きなんですよ。
聞いて、「キレイ」って言うんですよ。
あの、文楽と円生って、なんて言うんだろう、
誤字脱字があったときには、
反省するタイプなんですよ。
たぶん太田君も、その系統なんです。
うわぁ、字、間違えてたーって、
後悔するようなタイプなんですよ。
で、とくに円生さんっていうのは、
お客がいないところでも
落語ができるタイプなんですよ。
だから、孤独な人なんですよ、たぶん。
象徴的な話としては、落語家さんだけど、
マンションに住んでたんですよね。
中野区かなんかの、
ぜんぜん落語家のいないような場所の、
マンションで近代的な暮らしをしてた。
で、ドラマなんかにも、
おじいさんの役で、そのまま出たりして。
「どこ行くんだい?」なんつって、
あの口調のまんまでね。
つまり、近代を上手に取り入れて、
ひとりで芸が完成しちゃう人なんですよ。
で、太田さんがそれを好きだっていうのを聞くと、
ああ、なるほどな、って思うんです(笑)。
太田 (笑)
── ……あの、ちょっと、もしもーし。
糸井 で! 談志さんは、いわば、
エンサイクロペディアなんです!
── ああ、始まってしまった……。
糸井 談志さんは、ぜんっぶできて、
技術もぜんぶあって。
おまけに、自分のエンジンのスペックを
見せるようなことを、ときどきやる。つまり、
F1のエンジン積んだ落語とかをやるんですよ。
そうすると、お客が、談志さんのスピードに、
ついていかないときがあるんですよ。
しゃべり言葉なのに、
それを追っかけきれないんですよ。
ときどき談志さんはそうやって、
お客さんを振り落としてって、
「どうだ?」っていって笑って、
また、ダレた芸を混ぜていったりするんです。
だから、ものすごいんだけど、
隣に住むには困るんですよ。
で、これが円生さんだと、
隣に住んでみたくなるんです。
太田 はいはい(笑)。
糸井 それで、文楽さんっていうのは、
誤解されないように注意しながら言うけど、
それでも誤解されちゃうかもしれないけど、
うまくはなかった人が、
ほんっとに落語が好きで、愛して、
芸をずうっと磨いていったら、
こんなにキレイな玉ができましたよ、
みたいな人なんですよ。
太田 ははぁ〜。
糸井 で、「オレはもっとうまくないんだけど、
直しようがないから」っていって、
アメリカ大陸に移住しちゃったみたいな人が、
志ん生さんなんですよねぇ。ありゃ、移民ですよ。
太田 はははははははは。
糸井 で、そこに「志ん生さん」という
豊かな土壌があったわけです。
そこで、ぜんぶを知っていながら、
いちばん居心地がいい場所でしっかり苦労しよう
って決めたのが、志ん朝さんなんです。
太田 はいはいはい、そうですね。
糸井 志ん朝さんが、腰を折って、
大きいホールで出てきたとき、
オレ、泣きそうになったもん。
歌舞伎よりキレイだった。
もうね、後光が差しますよ。
太田 そうですねえ。
ぼくは、落語家の好みって、
ほんっとにぐるぐる変わるんですけど。
あの……あ、落語の話でいいんですか?
糸井 ぞんぶんにやりましょう!
── ぞんぶんにやってください。

(続きます!)

2003-06-26-THU

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