含まれている曲
『ユートピアでしょ?!』『あやしい飛行物体』
『あのお方のテーマ』『いのちの記憶』


『ユートピアでしょ?!』‥‥
嘘っぱちで猥雑さを多分に含んだ街、
こんな街に似合う曲を、と思い、
ゴチャゴチャとした騒がしい曲を作ったのでした。
ゲーム制作の内幕を少しお話ししますと、
当初、この曲はもっと音が多かったのです。
しかし、ゲームの開発が進み、
街にたくさんの人や物体が配置され、
1画面に同時に表示されるものが多くなると、
CPUの処理がとても重くなってきました。
そうした処理落ちの矛先はサウンドへ向けられ、
自らの羽をむしる鶴のごとく、
派手に鳴っていた曲から、次々と音を削っていきました。
つまり、『ユートピアでしょ?!』は、削って削って、
なんとかぎりぎり残った骨のような曲なのですが、
これも我が闘争史の記念ということで『i』へ入れました。
『あやしい飛行物体』‥‥
ポーキーの街宣カーですね。
こんなものが空を飛んで来たらイヤですねえ。
この曲のインパクトはかなりあったようで、
メモリを消費しただけの効果はありました。
「メモリを消費した」とはどういうことかと申しますと、
この曲は、ストリームなのです。
少し専門的な話になってしまいますが、ストリームとは、
この曲そのままの「mp3」のようなデータが
ゲーム内に入っている、ということです。
あらかじめ、音質を街宣カーの
スピーカーのような音に加工して、
そのまま流すことができます。
ストリームはとても多くのメモリを消費するので、
他の曲はすべてシーケンスで組んでいます。
シーケンスとは‥‥どんどん話が専門的になってきました。
すみません、これ以降のことにご興味ある方は、
ご自身でお調べ下さい!
『あのお方のテーマ』‥‥
この曲は、開発初期に糸井さんから
「酒井くん、ポーキーのテーマを書いてほしいんだけど、
 どういう曲かというと、たとえば、
 独裁者が、力づくで天才作曲家をお抱えにして、
 無理やりに自分の賛歌を書け!って
 命令して作らせたような曲なんだよ。
 勇壮なんだけど、強制して書かされたために
 歪んでしまったような。
 ちょっと演歌の要素も入っていて‥‥」
という指示をいただいて作った曲です。
その発注をもらった当時、
自分の中で思い浮かべたのはスターリンでした。
そしてスターリンと同時代の
ソ連の作曲家といったらショスタコーヴィチです。
事実、ショスタコーヴィチは、
スターリンを賛美した(させられた)
オラトリオ「森の歌」を書かされているんです。
自分は、ゲームの音楽を作曲する、という立場で、
ショスタコーヴィチのように、強要されたわけでもありません。
楽しみながら、作曲しました。
でも、現実には、強要された賛歌というものも
存在するんですね。
そして、もうひとつ付記しておくならば、この曲には、
『MOTHER2』でアッカンベーをしながら
去っていったポーキーの、裏返しのテーマが潜んでいます。
つまり、このポーキーのテーマは、
『MOTHER2』のギーグを倒したあとに流れる
『Because I Love You』のメロディを歪ませた変形なのです。
このことは、案外話題にものぼらず、寂しい思いをしました。
‥‥話題にのぼらないついでに、もうひとつ申し上げますと
(どんどん『MOTHER3i』から
 離れていってゴメンナサイ!)
『MOTHER3』の中に『ことばぜめ』
(ゲームのサウンドプレイヤー194番で聴けます)
という曲があります。
この曲は、文字通り、言葉で責める、
ということを音で表現しよう、と、
歌詞をメロディに乗せて歌わせています。
でも、誰にもそのようには
聞こえなかったみたいで、残念でした。
「♪どせいのリボンは蝶ネクタイ
 ♪大きなお鼻と長いヒゲ」と歌っております。
いわば、ブタマスクたちが
「おまえのかあさんデベソ!」
と歌っているような曲のつもりだったのです。
もう一度、ゲームを立ち上げて、
聞いていただけるとうれしいです。
『いのちの記憶』‥‥
ゲーム本編でも最後の曲、
そして、『MOTHER3i』でも最後の曲、
そして、僕自身、1996年11月12日に
『MOTHER3』チームに入り、
2006年11月21日、このライナーを書いて、
『MOTHER3』の最後を締めます。