息子と一緒に風呂に入る。
男どうし、ふたりでゆっくり話が出来る空間がソコにある。
息子は12歳。
多感にいろんなモノを見て、感じる年頃だ。
そこでボクは、最近彼が気に入った本や映画や
ゲームの話を聞くのを楽しみにしている。
ときに、そこで彼の成長を感じることができ、
幸せな気分に浸れることが多いからだ。

今日のお題は、『MOTHER3』の話。
おもむろに息子は、語り出した。
「でさぁ、お父さんが好きなキャラクターは、何なの?」
身体もぼちぼちでかくなって、
えらそうな口をきくようになって来た。
でも、ゲームの話となると、
「好きな○○は何?」論議から入る。
息子よ、まだまだ切り口が幼いぞ。

わざと変化球で答えてみる。
そうだなー、ヨクバかなー。
意外な選択に驚く顔を待ち受けて、ニヤニヤしてみるが。

「あー、アイツ、
 本当は悪い人じゃなかったんだと思うんだよね」

ほう!
驚かされたのは、ボクだった。

「とくに最後のほうは、
 良いとか悪いとか、なかったと思う。
 仲間を裏切ってまで、
 なにかを成し遂げようとしたんでしょ。
 いったいどんな執念が、
 アイツをあそこまで改造させてしまっちゃったのかな」

なんと。

「悪いヤツじゃないって言えば、ポーキーもそうだよ」

深いな。

「街にあるレストラン。
 あそこには、どこかで見たことのある
 ウェイトレスロボットがいたでしょ。
 あれって、きっとポーキーのお母さんだと思うんだ」

なるほど。

「長く生きて、世界を動かすだけの力とか持っても、
 でもやっぱりどこか寂しかったんじゃないかな」

そこから息子の語りが始まった。
その話の長いこと長いこと。

『MOTHER3』の世界には、
RPGにありがちな、絶対的に悪いヤツがいない。
敵として出てくるのに、みんなどこか滑稽で、もの悲しい。
憎々しげに振る舞いながらも、
背景にある物語が見え隠れし、嫌いになりきれないのだ。

敵だけではない。
主人公の周りに配された、脇役の面々も同じだ。
みんな背中に物語を背負っていて、
それぞれ別軸の使命感のなかで、役割を演じている。

村で一番背が高いリダ。
仁義に熱いヒモヘビ。
商魂たくましく、野望に燃えるオケラ。
正体不明のどせいさん。

みな、愛すべき個性を持ち、
空想すればキリがないほど、語られない過去を持っている。
そういった面々が織りなすストーリーだからこそ、
物語にはどこまでも厚みが感じられるのだ。
だから、『MOTHER3』を語り始めた人の話は、
どんどん長くなってしまう。
だって、そりゃ、しかたないよ。
ボクだって、語りたいもの。

息子の長話を強制遮断し、今度はぼくが長い語りに入る。
なんたって、主人公が異質だよ。
絶対的に強くって、正義感に満ちていて、
人に誇れるほどの勇気を持っている、わけではない。
どこか弱々しくって、
どこかやる気が感じられなくて、
なんとなく切ない。

そう、この「切ない」という言葉こそ、
『MOTHER3』を語る上で、
はずすことができないキーワードなのだ。

「何で自分は闘っているのかな」
「誰のために闘わなければいけないのか」
そんな疑問が浮かぶ瞬間が、
『MOTHER3』を進めていく上で、何度もあった。
闘った先にあるものが何なのかさえわからない。
でも、たくさんの切なさを振り切った先にある、
何かを見たいから、お話を進めていたら‥‥。

最後に巡り会う敵が、最大の「切なさ」だった。
RPGで言えば、ボス戦なのに、頭の中は真っ白。
もうやめて。闘いたくない。手を止めて。降参させて。
ひたすら同じコマンドを入力しながら、
流れるメッセージを読み続けるだけ。

そして最後の瞬間。
ヘルメットを取った敵キャラは、
スローモーションでボクの頭の中で砕け散った。
たくさんゲームやったけど、
ゲームやって泣いたことも何度かあったけど。

こんなに胸に来る涙は、初めてだったと思う。

なんて話を、延々と、風呂のなかで語り合う男二人。
この物語の切なさを、味わい切れるほど、
彼は成長していたんだなと。
父親として、うれしくもあり、てれくさくもあり。
なんだか幸せな気分をもらった気がする。

そういえば、息子よ、いろいろ語って聞かせてくれたけど、
たっくさん出てくるキャラクターのなかから、
お前が一番を選ぶなら、いったい誰になるんだ?
一番感動させてくれた人は、いったい誰なんだ?

最後に、最初の息子の質問を、そのまま彼に返してみる。
しばらく考えてから、息子は、小さな声で答えてくれた。

「おかあさんかな」

そういって、照れくさそうに笑った。
ぼくは笑顔で、彼の頭をクシャクシャっと頭をかきまわす。
さて、ひさしぶりに、息子の頭でも洗ってやるか。

浜村弘一


2006-08-31

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