『MOTHER』の気持ち。
いちばん近くで、
この不思議なゲームの話を聞く。

第6回
「実は、オーソドックスが好きなんです」


── タコケシマシーンにしろ、ダンジョン男にしろ、
『MOTHER2』って
ゲームの常識を外すようなことを
たくさん含んでますよね。
糸井 それはもう、
最初の『MOTHER』をつくるときからあった
コンセプトのひとつでした。
それこそ、バットに名前をつけるときから、
ゲームのお約束そのものをネタに、
遊んでみたかったんです。
たとえばふつうのRPGでは、武器でも、
銅の剣、銀の剣、金の剣っていうふうに
レベルアップしていきますよね。
いまはどうか知りませんけど、当時はどのゲームも、
そういうことをわりと律儀に踏襲してたんです。
それはまあ、オリンピックのメダルなんかで
みんなに染みついた価値観を利用しているわけだけど、
たんにそこに依拠してやっていくのは
不自由だなぁと思ったんですよ。
たとえば名前で武器のレベルアップをあらわすときに、
じつは比較級の使える形容詞なら
なんでもかまわないとも言えるわけですよ。
だから、ボロのバット、ふつうのバット、いいバット、
最高のバットなんていうふうにしてあるんです。
アイテムに名前をつけるような、ごく初期の段階で、
なんかもう、普通とちがうものになってました。
── あの、それができる人って、
パロディの方向に行きがちというか、
つくられるものがアンチの作品に
仕上がりがちじゃないですか。
糸井 ああ。そういうことはあるかもしれないですね。
── ところがそれがあるにもかかわらず、
結果的に『MOTHER2』は
アンチでもパロディでもなく、
ど真ん中をいく作品に仕上がっている。
それはなぜなんでしょう?
糸井 たぶん、そうなりたいと思っているから。
そこのところを、注意深くやってるからかなぁ。
── は!
糸井 たとえば、「ここのセリフ、仮に入れておきました」
なんていうふうに、スタッフの誰かが
ぼくのやりそうなことを
書いてくるときがあるんですよ。
けど、やっぱり違うことが多いんです。
なんというか、
見えやすい悪ふざけが入ってるんですよ。
絶対ぼくはこんなセリフを書かないなっていう、
違うものが入ってるんです。
それはね……なんだろう?
── いったいなんですか、それは?
糸井 なんだろうなあ……ああ、そうか……
……オーソドックスが好きなんですよ、
ぼく個人が。
── あああああ〜。
糸井 ふつうの白いご飯がいちばん好きなんです。
── はい……はいはいはい。
糸井 変なことをするのはぜんぜんいやじゃないんだけど、
「変でしょ?」って言って
変なことをするのはいやなんですよ。
変じゃなくて、いちばんふつうで、
質のいいものを作りたいって思ってるんです。
まぁ、どうしても材料がない場合には、
大根の葉っぱで大根めしを作ろう、
っていうことは考えつくし、好きなんです。
だけど、その大根めしを名物にして
お客さんを呼んでくるみたいなことはしたくない。
だから、
「アイテムの名前が変でしょ?」って言って、
お客さんを呼んだ覚えないんです。
タコケシマシーンにしても、やっぱりどこかに
遠慮や謙遜がこっそり添えてあるんです。
あいつ、困って困りぬいて、
こんな変なことを考えたんだろうなぁ、と、
プレイヤーがいっしょに笑えるようなことが、
いいと思うんですよ。
正面で戦えない場合のゲリラ活動なんでして、
最初から「オレはゲリラだ」ってのは、
「理由ないじゃないか? なんで?」と思っちゃう。
なんでも、ほんとうはオーソドックスにやりたい。
そう思っているほうが、ひねりも外しも効くんです。
そこを外しちゃうと、わざとらしくなってしまう。
── そういう意味で、「注意深くやった」と。
糸井 そうですね。
ぼくが落語を好きだったりするのもまさにそこで、
最初から変型でやる落語っていうのは
ぼくはあんまり好きじゃないんですよ。
この様式のなかでこんなに掘り下げられるとか、
こんなに気持ちよくできるっていうのが、
好きですね。
志ん生さんを好きな理由っていうのも複雑でね……。
あの人は、本当は
オーソドックスがやりたいんだけど、
ある意味、その力が一部欠落してると思うんです。
で、そこのところを補うための苦し紛れの力が
発達したんだと思うんですよ。
どっかの世界から違うものを連れてくるって感じ。
人格全部をフル稼働して。
そこが、すごいんですよねー。
で、息子の志ん朝さんは逆に、そのへんはもう、
絶対に親父独自のものだからかなわないと思って、
文楽さんとかの、ものすごく端正な芸を
学んでいった人だと思うんですよ。
それでも、血のなかには
志ん生が入っているんだなぁ。
登場人物ひとりひとりへの愛情が
ものすごく深いんです。
で、結論として、
ぼくは「志ん朝が好き」ってなるんですよ。
わからないか?
── わかりません。
糸井 我ながら、ちょっと通じにくいなぁとも思う(笑)。
── 不勉強ですいません。
糸井 いえ。ぼくが悪いです。
で、談志さんがどうかというと──。
── まだ続きますか。
糸井 談志さんは、そういうセンスに関しては、
もう、体つきからして違うって感じなんですよ。
ボディが。
上手に落語をできるような才能を、
しっかり持ってる。
談志さんは速く走ることもできるし、
すごいホームランも打てるし、
ぜんぶできるんですけど、
「何が足りないんでしょう?」っていうと、
たぶん「足りない、が、足りない」。
神様を呼び寄せるための隙間が、埋まっちゃってる。
年齢が加わって、いい感じでボケが入れば、
自然に「足りない」を獲得できると思うんですけどね。
ほんとは、志ん朝さんにしても、
もっと年齢が加わったら、
もっといい「隙」ができて、
またさらにおいしい味になったと思うんですけどねぇ。
おそらく、永遠に志ん朝さんと談志さんはライバルで、
お互いに、最高に認め合っていたでしょうね。
ぼくは、趣味として志ん朝さんというのは、
ほんとに好きなんですよね。
でも、「談志が好き」ってのもあるわけです。
両方があるんです。
これはもう、わかろうとわかるまいと、
しっかり書いておこうぜ!
── 書いておきます。
読み飛ばされないとは思うけど、やや心配も……。

次回は、『MOTHER2』の持つ重い一面について。
糸井重里が抱える幼い日のトラウマとは?!

2003-04-23-WED

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